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第5話

作者: ラクオン
一真はプレゼントボックスを受け取った瞬間、胸の奥で何かが鋭く触れたような感覚を覚えた。

痛いというほどではない。

ただ、少しだけ息が詰まるような感じがした。

箱の上に丁寧に結ばれた蝶々結び、それだけで彼女がどれだけ心を込めたのかが伝わってきた。

なのに、自分はそんな彼女に、影で薄暗い欲望を抱えている最低な男だった。

何も返す間もなく、梨花はすでに玄関へ向かっていた。

淡いベージュのウールコートを羽織り、マフラーを巻いて、小さな顔のほとんどを覆い隠すようにして外へ出た。

ただ、彼女の歩き方がどこかぎこちない。

声をかけようとしたその瞬間、「痛い!」桃子が叫んだ。

一真は反射的に意識を戻し、彼女を支えてソファに座らせた。

「膝がそんなに痛むのか?病院へ行こうか」

「行きたくない」

桃子は唇を噛み、彼の手にあるギフトボックスをちらりと見て、ぽつりと呟いた。

「彼女に気がないって言うくせに......その贈り物、大事そうに持ってるじゃない」

「......」

一真は少し眉を寄せた。

「桃子、僕は彼女に対して後ろめたさでいっぱいなんだ」

桃子の目が大きく見開かれ、涙がこぼれ落ちる。

「じゃあ、私は?一真、あなたは一体何を考えてるの?彼女が私と啓介をいじめても、あなたは何も言わないの?」

「だから言ったろ、梨花はそんなことしないって」

「もういい!」

桃子は立ち上がって叫んだ。

「あなた、気づいてないの?今のあなた、何を言っても彼女ばかり庇ってるじゃない!」

彼女は泣きじゃくりながら啓介の手を取り、二階へ上がっていった。

一真はその場にしばらく立ち尽くし、深く息を吐きながら考え込んだ。

自分でも、何を思っているのか分からなかった。

ただ一つ、誰にも、彼女の悪口だけは言わせたくなかった。

雪は二日間、ちらちらと降り続けた。

午前中、梨花は漢方医院で診療をして、午後には海外から来た医師の鍼治療の相手をすることになった。

本来は先輩の担当だったが、急用で彼女に任されることになった。

夕方五時、業務を終えて帰宅し、着替えと軽いメイクをした。

梨花は元々整った顔立ちをしており、少し手を加えるだけで十分に人目を惹いた。

階下へ降りると、家の中が妙に静かだった。

あの母子も今日はやけに大人しい。

そのとき、背後から艶やかな声が響いた。

「梨花」

振り返ると、桃子が笑みを浮かべて立っていた。

「一真はあなたと私、どっちを選ぶと思う?」

梨花は一瞬目を見開き、すぐに笑った。

「お姉さん、何言ってるの?意味わからないよ。あなたは鈴木家で自分の義弟を誘惑するドラマでも演じるつもり?」

「梨花!」

あまりに直球な物言いに、桃子は歯噛みして怒った。

梨花は悠然とカシミヤのマントを羽織り微笑んだ。

「じゃあ、もう行くわね。一真がもう待ってるから」

桃子が視線を窓の外へ向けると、一真の車がすでに玄関先に泊まっていた。

まるで血が逆流するような衝撃を覚えた。

かつて、この女との結婚を許したのは「扱いやすくて、従順そう」だったから。

今ではすっかり牙をむいた、野うさぎだった。

梨花は車に乗り込み、微笑んだ。

「待たせてない?」

「いや、今着いたばかりだ」

一真は彼女の手を取り、優しく握った。

視線が自然と彼女の膝に向き、スカートの裾から伸びる、白く艶やかな足に思わず眉をひそめた。

「寒くないのか?なんでそんなに薄着なんだ?」

「車の中も、家も、暖房入ってるでしょ?」

梨花はにこりと笑った。

診療所では、彼女はどれだけ丁寧に患者に保温を勧めていた。

自分のこととなると、どうでもよくなるのが不思議だった。

一真は苦笑するしかなかった。

「風邪引いたら、知らないぞ」

「風邪なんて薬で治るでしょ。慣れてるし」

彼女はあくまで淡々としていた。

この三年間、風邪を引くと誰にも頼れず、自分で治してきた。

いや、そもそも頼れる誰かなんて、最初からいなかった。

一真は黙ったまま、胸の中がざわつくのを感じていた。

「僕のこと、まるで無関心な夫みたいに言うなよ」

「そう?」

梨花は不思議そうに目を瞬いた。

「昨日のプレゼント、まだ開けてないの?」

「うん」

「誕生日プレゼントって言ってたし、誕生日まで取っておこうと思って」

「......そう」

ならちょうどいい。

私には、まだ準備したいことがある。

その後の道中、二人の会話はほとんどなかった。

ただ、車窓を見つめる梨花の横顔だけが、美しく静かで、まるで何もかも諦めたような、優しい目をしていた。

なぜ、桃子は彼女のことをあんなにも憎むのだろう。

そんなことを考えていた矢先、突然スマートフォンが鳴った。

「一真さん、桃子さんはお見合いに行かれました」

男の声は抑揚なく静かだった。

けれどその一言で、車内の空気が凍りついた。

梨花もはっきりと聞いた。

一真が怒りを必死に押し殺していることが、伝わってきた。

「場所を送ってくれ」

彼は低く冷たい声で返し、電話を切るとすぐに梨花へ顔を向けた。

「梨花、悪い、急用だ。今夜の宴会には一緒に行けない」

急事か。

言わなくても、何のことか分かる。

彼女は何も言わず、ただ静かに頷いた。

「分かった。智也さん、ここで停めて」

車がゆっくり止まった。

けれど一真は動かない。

「一真さん、早く降りて。ここ、長く止められないから」

彼女の柔らかな声に促され、ようやく彼は車を降りた。

黒川家の宴は、月に一度開かれる。

他の名門家とは違い、賑やかさや華やかさとは無縁。

静まり返ったその空間は、まるで墓場のようだった。

梨花が家に入ると、執事がすぐに声をかけてきた。

「梨花さん、お祖母様は朝からずっとお待ちでしたよ。首を長くして、梨花さんをお待ちです」

「うん」

彼女は小さく頷きながらも、内心で緊張していた。

食堂に入ると、主座にはお祖母様だった。

左手には、長女と次女が並んでいた。

「おばあさん、お姉さん、お姉ちゃん」

梨花は順に頭を下げて挨拶した。

姉妹たちはどこか素っ気なく頷くだけ。

お祖母様は彼女の背後を見て、鋭く眉をひそめた。

「一真は?」

「急用ができて、来られなくなったって」

その瞬間、茶碗とともに、彼女の頭から怒号が降り注いだ。

「外で跪いてこい!」

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