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第3話

作者: ラクオン
翌朝。

梨花は体内時計に目を覚まされ、カーテンを引くと、外は真っ白な雪景色が広がっていた。

天気予報では予想されていなかったが、初雪は思ったよりもしっかり降っていた。

窓ガラス越しに、冷気がひんやりと感じられた。

彼女はワンピースに着替え、洗面所で顔を洗っていると、廊下から大きな物音が響いてきた。

ものすごく騒がしかった。

誰かが聞けば、リフォーム工事が始まったのかと思うだろう。

「恵さん、何が......」

梨花は髪をざっとまとめ、部屋のドアを開けた途端、言葉を失った。

リフォームどころか、まるで戦争でもあったかのようだった。

普段は整然としている家が、今ではめちゃくちゃに乱れていた。

一階のソファにあったはずのクッションが、彼女の部屋の前に転がっていた。

さらに、見たこともない茶色いシミがついていた。

床には落ちて割れた花瓶、廊下に飾られていた数百万はするであろう油絵も無残な姿になっていた。

まさに圧巻の光景だった。

恵は懇願するように、啓介を追いかけていた。

「お願いです、啓介くん、それだけはダメです!それは奥様のお気に入りの茶器で......」

ガシャーン!

言い終える前に、茶器は床に叩きつけられて粉々になった。

啓介は小さな暴君のように舌を出して言った。

「べーっだ!おじさんが言ってたよ、ここはもう僕の家だって!メイドのくせに、なんで僕に指図してんの!」

言い終えると、彼の視線が上がり、梨花と目が合った。

彼女は無表情で彼を見下ろした。

啓介は本能的に首をすくめ、後退した。

この悪い女!

昨晩の夢にも出てきたんだ。

サンタクロースと鬼に追いかけ回される悪夢だった。そうだ、この女を追い出せばいいんだ!

ママが言ってた。この女さえいなくなれば、おじさんは自分とママだけのものになるんだって!

梨花は静かな目で啓介を見つめた。

「いいわ。好きなだけ遊びなさい」

「ほんとに?」

啓介は信じられない様子で、目を丸くした。

こんなにたくさん、この悪い女の好きなものを壊したのに、怒らないなんておかしい!

梨花は手すりに寄りかかり、リビングで何も知らないふりをしている桃子をちらりと見て、にこっと笑った。

「うん。でもね、リビングに飾ってある墨絵だけは絶対に触っちゃダメ。あれは、私が一番大切にしているものだから」

これは、桃子の仕向けか、それとも啓介の独断か。梨花にはどうでもよかった。

どうせ自分は「良い人」じゃないから。

昔誰かが教えてくれた。他人に虐げられたなら、その分、いや何倍にもして返してやれって。

啓介は目をきらりと光らせ、「うん!」と元気に走り去った。

それを見た恵は、困ったように眉をひそめた。

「奥さんも旦那様も、この子に甘すぎますよ......」

「いいの」

梨花は微笑んで言った。

「恵さんも、もう止めなくていいわ。彼は鈴木家の唯一の男の子。彼が楽ければ、それが一番でしょう?なにより、桃子だって彼を放任してるんだから。私たちもその教育方針を尊重しなきゃね。何かあったときに責任を取らされるのは、私か、恵さんでしょ?」

「......分かりました」

恵は渋々頷いた。

「奥さんって、ほんとにお優しすぎるんですよ。だから、みんな調子に乗るんです」

梨花はただ笑って返し、話題を変えた。

「ねえ、家に余ってるギフトボックスってあったかしら?」

「どんなのがいいですか?」

「何でもいいわ。A4サイズが入るくらいの大きさで」

「物置にありました。すぐ持ってきますね」

恵が箱を取ってきたあと、梨花は部屋に戻り、扉を静かに閉めた。

そして、署名済みの離婚届を箱の中に入れた。

彼女は丁寧にリボンを選び、箱の上に綺麗な蝶々結びを作った。

「ドンッ!」という凄まじい音が下の階から響いた。

梨花はまるで何も聞こえなかったかのように、リボンを整え、結び目を軽く撫でた。

きれいに仕上がった。

完璧。

するとすぐドアを叩く音がして、恵の慌てた声が聞こえた。

「奥さん!下に来てください!お祖父様の遺作が啓介くんに壊されました!」

「え?」

梨花は顔色を変えて立ち上がった。

「それって、リビングに飾ってた墨絵のこと?」

「そうです......」

梨花は急ぎ足で階段を駆け下り、途中で足を捻ってバランスを崩してしまった。

到着すると、啓介が得意げにあごを上げて立っていた。

まるで「どうだ、文句あるか?」と言いたげに。

「恵さん、鈴木家に連絡した?」

「まだです」

「今すぐかけて」

梨花の言葉が終わる前に、啓介が突進してきた。

「だめだ!告げ口するな、悪い女!」

梨花は避けきれず、啓介に体当たりされ、床に転倒した。

尾てい骨を強打し、激痛が走った。

「梨花、大丈夫?」

桃子が駆け寄り、梨花を抱き起こした。

「啓介は私が甘やかしすぎたのよ。遊んでるつもりでも加減を知らないの。でも子どもってそんなもんだから、怒らないでね?」

梨花は腰を押さえながら、砕けた墨絵と、荒れ果てた家の中を見渡した。

「なるほど、子どもが他人の家をめちゃくちゃにするのも、あなたのしつけってわけね?」

桃子の目に涙が浮かんだ。

「ちょっと目を離しただけでしょ?それで全部私のせいって言うの?」

「へえ、ちょっと目を離しただけ、ね」

梨花は静かに頷いた。

「じゃあ、あなたが目を離さなかった時なんてあったの?」

「梨花!」

誰もいないのをいいことに、桃子は「優しい」仮面を脱ぎ捨てた。

「あなたって、なんでいつも人のミスを責め立てるの?それを鈴木家まで報告して、どうなると思ってるの?おばあさまたちがたかが一枚の絵で私を責めるとでも?」

梨花は冷静に訂正した。

「たかがじゃないわ。あれは、お祖父様が残した最後の絵よ」

話した後、黒い車がゆっくりと屋敷に入ってきた。

鈴木家からの使いが想像以上に早く着いた。

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