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第6話

Autor: ラクオン
黒川家から出るとき、梨花の足取りはますます重くなっていた。

この三年間、一真が彼女を伴わずに帰省するたび、この「しつけ」がいつも彼女を待っていた。

驚くことではなかった。

ただ、一真は気づいていなかった。彼は好きな人に心を証明するたび、梨花は少しずつ逃げ道を失っていた。

黒川家には、「夫の心すら握られないダメ女」なんて、必要とされていなかった。

執事の黒川健太郎(くろかわ けんたろう)はため息をついた。

「もう少しうまくやればよかったのに......適当にもっとらしい理由でも作って、お祖母様を騙せば、こんな目には......」

「健太郎さん」

梨花の顔には、少しの恨み言も浮かんでいなかった。

「お祖母様は私を育ててくれた恩人です。誰を騙しても、あの方だけは騙せません」

「......はぁ」

その言葉に、健太郎の目にほんの少し、優しさが滲んだ。

彼女の手のひらの赤く腫れ上がった傷を見て、心から心配した。

「いいから、早く病院に行きなさい」

「うん」

それ以上何も言わず、梨花は頷いた。

智也はすでに家に帰らされていた。

梨花は一歩踏み出すたびに、体中が痛むのを感じる。

子どものころから思っていた。

彼女はお祖母様がまるで大河ドラマに出てくる意地悪な女みたいじゃないかと疑った。

鈴木家のお祖母様はせいぜい「外に跪かせろ」という程度だが、黒川家のお祖母様は容赦なく砂利道に跪かせ、棒で手のひらを打てと命じた。

最初は雪のおかげで少し冷たくて気持ちいいくらいだった。

けれど、次第に雪が溶け、尖った石がじきに肌に食い込んでくる。

体が冷えきった頃、使用人が現れて、容赦なく棒を振るった。

この季節に叩かれるのが一番痛い。肉が裂けるほどに。

黒川家は山に沿った環境の良い場所にある。山道を下りてようやくネットで車を呼べたが、深夜で雪も降っているため、運転手は山のふもとにしか来なかった。

帰り道が梨花には地獄のように長く苦しかった。

真冬なのに、背中は痛みで汗ばむほどにびっしょりだった。

そのとき、遠くから黒いベントレーがゆっくりと近づいてきた。

「旦那様、前にいるのはおそらく梨花さんです」

男は長身をシートに無造作に預け、脚を組んだ姿勢で、顔は車内の暗がりに沈んでいた。その顔立ちは凛々しくて、まさに支配者のような気質だった。

「うん」

彼は目すら上げず、ただ一言で答えた。

助手席のアシスタントは見かねて声を上げた。

「旦那様、本当に放っておくんですか?」

「君がそんなに気になるのか?」

低く響く、冷ややかな声。

その一言で、アシスタントは黙り込んだ。

しばらくして、男はようやくフロントガラス越しに、あの頼りない背中を見つめ、目を細めた。

「一真は今夜どこへ行った?」

「確認済みです。おそらく桃子さんと一緒にいると思われます」

男はアシスタントの返答に無言だった。

「梨花さんは今夜もまた雪の中で数時間は跪いていたはずです。そろそろ......」

その時、彼女が前方で倒れた。

「旦那様!」

バンッ!

車のドアが乱暴に開く音が響いた。

男は言葉もなく車を降り、雪に倒れた女をそっと羊毛のコートに包み、抱き上げた。

アシスタントは慌てて後部座席のドアを開けた。

「病院に?それとも家に戻られます?」

「家に戻る」

「かしこまりました」

「医者を呼べ」

「すでに連絡済みです」

運転手はエアコンを強め、車内はすぐに暖かくなった。

灯りの下、男の視線が彼女の膝へと落ちた瞬間、その黒い瞳に冷たい光が宿った。

口調は変わらぬ静けさを保っていたが、その一言には冷酷な意志が滲んでいた。

「容赦ねえな」

アシスタントが静かに呟いた。

「お祖母様は容赦したことなんて、今まで一度もなかったのですよ......」

「黒川貴之(くろかわ たかゆき)はそろそろ帰国する頃だな?」

「はい」

「手配しろ」

「どこまでですか?」

男はちらりと視線を向けた。

その目には、鋭い怒りがこもっていた。

「言わせるな」

......

梨花が目を覚ましたとき、体は軽く、痛みもほとんどなかった。

あれほど腫れ上がった手のひらと膝も、嘘のように楽になり、尾てい骨の痛みさえ、ずいぶん和らいでいた。

ただ、ここがどこか、よく分からなかった。

眉をひそめてホテルフロントに電話しようとしたが、動いた拍子に、ふわりと香る微かな沈香の香りに気づいた。

この香り、どこかで嗅いだことがある......

我に返った梨花は苦笑しながら立ち上がり、ベッド脇の薬を手に取り、チェックアウトした。

帰宅すると、家の中は嘘のように平和だった。

あの母子はまるで何もなかったように笑っていた。

「梨花、おかえりなさい」

桃子はにっこりと挨拶してきた。

昨晩、一真にしっかり機嫌を取ってもらったのだろう。

梨花は無言で通り過ぎようとしたが、桃子がわざと足早に近寄ってきた。

耳元に手をやり、髪をかきあげ、きらりと光るピンクダイヤのピアスを見せつけた。

それは、梨花がずっと探し続けていた限定品だった。

ようやくオークションに出たとき、一真は「あなたのために落札する」と約束してくれた。

「あなたには、この淡いピンクが一番似合うよ」

彼はきっと桃子にも同じことを言ったに違いない。

桃子は彼女のわずかな表情の陰りを見逃さず、笑みを深めた。

「お祖母様が言ってたのよ。あなたは宝石にちょっと詳しいんだって?これ、どう思う?一真が2億4000万円で落札してくれたのよ。値打ちあると思う?」

「まあまあかな」

梨花は微笑み、スマホを取り出した。

「でも、私と彼はまだ法的には夫婦なの。この2億4000万円の半分は夫婦の共有財産だわ。だからお姉さん、今日中に1億2000万円をこの口座に振り込んでおいて。振り込まれなければ、お祖母様に話を持っていくわよ」

彼女の言葉が終わるや否や、桃子のスマホにLINEの通知が届いた。

開くと、そこには口座番号が記されていた。

桃子の顔が真っ青になった。

この女、またお祖母様を持ち出して脅してきた!

1億2000万円?

拓海が亡くなった後でもやっとの思いで相続できたのが1億だったのに!

梨花は桃子の顔色に興味も示さず、さっさとシャワーを浴びて、断捨離を始めた。

余計なものは早めに処分しておくに限る。

ゴミ箱を手に、ためらいなくポイポイと捨てていった。

結婚式で着たウェディングドレスも包んで恵に渡した。

「処分しておいて」と命じた。

そのとき、玄関のドアが開き、一真がちょうど帰ってきた。

彼の視線が包まれたドレスに向き、胸の中がざわざわする。

「そのドレス、どうして出してるんだ?」

「捨てるの」

梨花は一瞥もくれず、淡々と答えた。

「もう、要らないから」

要らないものは、捨てるのが一番だ。

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