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異世界アルカディア②

last update Last Updated: 2025-03-21 17:00:47

「団長、カナタくんにもっと分かりやすく説明してあげたらどうですか?」

僕が首を傾げているとレイさんが団長に補足説明するように言ってくれた。

「それもそうだね。この世界には冒険者の階級というものがあるんだ」

そこで知ったのは、冒険者にはC級、B級、A級、S級、SS級、英雄級、神話級と7つの階級がある。

A級でベテランの冒険者と言われるレベルで、英雄級までくると国に数人という程度の少なさになるらしい。

神話級は世界にただ1人。

アレンさんはもちろん世界3位の強さと呼ばれるだけあって、英雄級だ。

「英雄級までいくとね、任意のタイミングで陛下と謁見する事が許されるんだよ」

だから皇帝陛下に世界樹の事を聞く、という事が簡単に言えたらしい。

「ちなみに言うとね、二つ名はS級以上じゃないと付かないんだよ」

「てことは、この旅団ってかなりの上級冒険者ばっかりってことですよね」

「まあそうなるね。レイとアカリはSS級だし、他の団員も全員S級だよ」

アカリの強さに驚き、そちらに顔を向けると心なしかドヤ顔を見せつけてきた。

「あ、でも漣さんはどのレベルに位置するんですか?」

「カナタ、こっちの世界では元の名前を使うつもりだ。だから今後はレオンハルトと呼んでくれ」

「分かりました、レオンハルトさん」

一ノ瀬漣はあくまで向こうの世界でしか使うつもりがなかったらしく、この世界では剣聖として名を馳せている以上、レオンハルトと呼ばなければならないらしい。

「それで私の事だが、剣聖と呼ばれる者は階級が存在しない。別枠として扱われる」

「じゃあ強さの指標はないってことですか?」

「そうなるな。ただ前も言った通り私ではアレンに勝てない。しかし魔神には唯一勝てる存在だ。だからこそ階級がないという扱いになる」

剣聖は唯一魔神を消滅させる聖剣を使うことができる。

しかし必ずしも戦闘能力が他を圧倒するかと言われればそうでもないらしい。

本人曰く、SS級よりは強いが英雄級には勝てるかどうか、といった曖昧な感じだそうだ。

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