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魔導王①

last update Dernière mise à jour: 2025-04-11 17:00:05

「それで、こんな所まで足を運んだ理由を聞かせてもらおうかの」

僕らは辛うじて座る事のできた長椅子に腰かけるとアレンさんが本題に入った。

「神域について教えて欲しいんだ」

「何じゃと?」

突然神域という単語が出てきたからかクロウリーさんは怪訝な顔を浮かべていた。

「どうしてまた神域の事が知りたくなった。あそこは名称に違わず神の領域じゃぞ?」

「実は彼なんだけどさ――」

アレンさんは僕の素性や神域に行かなければならない理由を説明した。

クロウリーさんは僕が別世界から来た人間だと分かると興味深そうに視線を向けてくる。

それはもうジットリとだ。

上から下までジックリ見ると何か納得できる部分があったのか小さく何度も頷く。

「なるほどのぉ、世界樹か。確かに神域にはそれらしきものはあったぞ」

「やっぱり行った事があるのかい」

「そりゃあ興味深いじゃろう。神域などと言われている場所なら未知の魔法があるのではないかと思っての。ただ、儂は許可を得ず神域に足を踏み入れたせいでえらい目に合ったわい」

どうやら話を聞くと、神域は神族の許可を得ていなければ問答無用で攻撃されるらしい。

本来なら結界に阻まれて簡単には入れないそうだが、クロウリーさんは強引にこじ開けたとの事。

そりゃあ神族も怒るよ。

土足で入っているのと同じなんだから。

「神族に許可を取れば神域をうろつける。ただのぉ、その神族とやらがどこにおるか分からんのじゃ」

「クロウリーの魔法でも無理なのかい?」

「探知魔法の事か?あれでも無理じゃった。恐らく帝国内にもおるはずなんじゃがのう」

各国に数人の神族が隠れているそうで、その人達を探すところからしなければならないようだ。

「うーん、神族か……誰か彼らを探せるような心当たりはないかい?」

「あったら儂が先に会いに行っとるわい」

まあそうだよね。

わざわざ危険を冒してまで強引に神域へと立ち入るような真似はしないだろうし。

「ソフィアは心当たりあるかい?」

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