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魔導王⑨

last update Last Updated: 2025-04-19 17:00:24

「完成したよ」

リオンさんの所にいくなり、掛けられた言葉だ。

まさか昨日採寸してもう出来上がったのだろうか。

リオンさんの部下であろう女性が手に黒い服を持ってくる。

まさかとは思うが黒いスーツか?

「これは私が独自に開発した特殊な繊維でできた高機能型防護服だ。まずはサイズに問題がないか着てみてくれ」

言われるがまま僕はその服へと着替える。

着替えててすぐに分かったよ。

これはスーツだって。

着替えてアレンさんの前に姿を見せると拍手された。

「おお!いいじゃないかカナタ!凄い似合ってるよ」

「まあ、そうですよね。何度か日本でも着てましたし」

研究発表会などでは必ず着ていたし、まあ着慣れているといえば着慣れている。

「これは特殊な繊維を使っているから、ナイフ程度で切りつけたところで切れ目一つ入らない頑丈さがある。魔法に対しても多少の抵抗力を持たせているから革製の防護服に比べればより防御力は高い」

「ありがとうございます。オーダーメイドってこんなにすぐできるもんなんですね」

「今回はアレンからの依頼だからね。そりゃあ全力で作るさ」

アレンさんからの依頼は基本最優先にしているらしい。

「これで神域に挑めるね。ありがとうリオン。はいこれ、今回の依頼料」

「よし、十分だ」

アレンさんはパンパンに貨幣が詰まった袋をそのまま手渡すとリオンさんは中身も見なかった。

信頼しているのは分かるけどチラッと中くらい見たらいいのに。

まあ多分中身は金貨ばっかりなんだろうけど。

リオンさんと別れ僕らは帰路につく。

着替えてそのまま出てきたが歩きやすさといい、とても快適な気分だ。

ただ、少しばかり目立つのが玉に瑕だが。

「準備はこれで完全に整ったよ。さあいよいよ神域を目指すわけだけど、長旅になるよ~」

「大体どれくらいかかるもんなんですか?」

「うーん、多分だけど順調にいって一週間は確実にかかると思った方がいいね」

それは確かに長旅だ。

それだけの
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