29食目・突撃！サイファ家のお昼ごはん

「ルシーちゃん、折角だから一緒にお料理しない？」

「へっ！？」

　突然の提案に私はびっくりしてしまった。

「どう？」と期待を込めた笑みを向けられているけど、生憎私は魔法が使えないから足手まといだ。

　そんな私に一緒に、なんて言われても……。

「ルシーちゃん、お料理をするのに火を使ったりするのは確かに魔法だけど、それだけじゃないのよ？包丁で食材を切ったり、材料を捏ねたり、混ぜたり、味付けするのはちゃんと人の手を使うんだから♪」

「あ……」

　確かに、それはそうだ。

　何かをするには魔法を使うけど、それだけじゃないじゃないか。

　優美な笑みを見せるエリザさんは楽しそうに調理の準備を始めた。

「今日はモルデがけストゥリアを作りましょう！ルシーちゃん、お手伝いお願いできる？」

「私、頑張ります……！」

　料理名を教えてもらったけど、どんな料理なのかは全然想像つかない。

　エリザさんは作業台にボウルを用意すると紙袋を取り出し、ひっくり返した。

「ぶひゃっ」

　少しの粉塵を上げながら投入されたのは真っ白できめ細かい粉。

　そこに卵が片手割りで入れられ、エリザさんに「はい、どうぞ」とボウルごと渡された。

「ひと思いにやっちゃって♡」

　手をわきわきさせながら期待の眼差しを向けるエリザさんを見て察した。

　なるほど、私が参加するお手伝いはどうやら混ぜる工程のようだ。

　それなら前世のお母さん（敢えて前のお母さんを前世ということにしよう）がストレス発散にパンを焼いていた姿を見たことがある。

　勢いに任せて両手を生地に突っ込み、私は指を立てて混ぜ始めた。

「まあ、ルシーちゃんすごいわ！まるで経験者のようね」

「いえ、初めてです。パンを作るみたいな感じでいいですか？」

「ええ。今はまだねっとりとして粉が混ざってないけど、生地になる頃にはしっかりとまとまって手についた粉すらも無くなる筈よ。頑張って！」

　両手をグーにしてぶんぶんと振るエリザさんの姿は大変可愛らしい。

　これで40代とか、本当に……？と疑いたくなっちゃうくらい。

　前世のお母さんは仕事に夢中でガツガツしてる感じの人だったけど、ほんわかとしてふわっとしてて、全く違うタイプ。

　そのままずっと横で応援しているのかな、と思っていたけれど……エリザさんは「それじゃあ私は――」と棚から大きな寸胴の鍋を取り出した。

「ストゥリアはルシーちゃんに任せて、私はモルデを作るわね！」

　今私が作っているのはストゥリアと言うらしい。

　モルデがけストゥリアというくらいだから、パンか何かにソースをかけた料理？

　知らない言葉で伝えられると、謎が膨れてドキドキしちゃう。

　（あ……手につかなくなってきた）

　粉を内側に丸め込んで混ぜていたら、生地はいよいよ粉っぽさがなくなってきた。

　弾力が強いまんまるの生地だ。

「お母さん、生地っぽくなってきました」

「まあまあ！ルシーちゃん早いわねぇ。これからもストゥリアの準備をお願いしたくなっちゃうわね！　じゃあ生地を休ませるわよぉ」

　寸胴鍋に野菜を刻んで入れていたエリザさんはこちらに気付くと、生地の入ったボウルに手を翳してフタを閉めた。

　そして石のプレートに粉を振りかけてボウルを乗せる。

　「うんうん、良いカンジねぇ！　これでよし、と」

　見た目では何をしたのか全く分からない。

　満足気なエリザさんに私は不思議になって、首をかしげた。

「……えっと、何をしたんですか？」

「この板はね、アグニア石って言って沢山の魔素を含んだ石なの。これに砂利を振りかけると魔法反応が起きて熱を起こすのよ。この熱と、ボウルに閉じ込めた私の魔法で生地を柔らかーくするのよ」

「魔素は確か、魔法の素……ですよね。これに砂利……？ボウルに魔法は何をしたんだろう……」

　まだまだこの世界に来たばかりの私には、理解が難しい。

　エリザさんはそんな私を見て「あらあら」とおっとりした口調で「それじゃあ今から特別授業、しちゃいましょうか♪」微笑んだ。