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牢の中で確かめる愛

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-08-07 14:59:10
王都の騎士団本部に到着した時、夕日が建物を赤く染めていた。

威圧的な石造りの建物が、まるで私たちを睨みつけているみたい。

「着きました」

ヴァルドが馬車から降りて、扉を開けた。

「王女、お降りください」

私はゆっくりと馬車から降りた。カイルが手を差し伸べてくれる。

その優しさが、今の状況では少しだけ救いだった。

「ここは……」

カイルが建物を見上げた。

「見覚えがあるような、ないような……」

記憶の断片が刺激されているのね。

「騎士団本部です」

ヴァルドが説明した。

「あなたが長年勤めていた場所です」

「俺が……」

カイルが困惑したような顔をした。

「本当に、ここで働いていたのか?」

「ええ。優秀な騎士として」

でも、カイルの表情は晴れなかった。

本部の中は薄暗くて、冷たい空気が流れていた。

長い廊下を歩きながら、私は周りを見回した。

壁には騎士の肖像画が並んでいて、みんな厳しい顔をしている。

「王女のお部屋はこちらです」

ヴァルドが案内した部屋は、意外にも快適だった。

牢というより、客室のような造り。

「思ったより良い部屋ね」

「特別待遇です」

ヴァルドが皮肉っぽく微笑んだ。

「処刑前の最後の時間ですから」

処刑。その言葉に、背筋が凍った。

「いつ?」

「それは上層部が決めることです」

曖昧な答え。きっと、まだ決まっていないのね。

「カイルは?」

私は彼を振り返った。

「どこに行くの?」

「彼は別室で記憶の回復治療を受けます」

治療? 聞こえは良いけれど、きっと記憶を強制的に戻すつもりね。

「治療って、どんな?」

カイルが不安そうに尋ねた。

「簡単な魔法治療です」

魔法……やっぱり、危険な方法を使うつもりね。

「痛くないの?」

私が心配すると、ヴァルドが首を振った。

「多少の不快感はありますが、命に別状はありません」

多少の不快感……きっと、とても辛い治療なのでしょう。

「俺は……治療を受けたくない」

カイルが拒否した。

「今のままでいい」

「それは困ります」

ヴァルドの声が冷たくなった。

「任務を思い出していただかないと」

「任務なんて知らない」

カイルが強く言った。

「俺は、リアを守りたいだけだ」

その言葉に、胸が熱くなった。

記憶が曖昧でも、私を守
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