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この恋は罪なのか

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-08-04 00:40:20

昨夜の壁ドンの後、私たちの関係は微妙に変わった。

カイルは前よりも私を見つめる時間が長くなって、触れる回数も増えた。まるで、私が逃げていかないか確認するように。

「おはよう」

朝、目を覚ますと彼がすぐそばにいた。私の寝顔をじっと見つめている。

「ずっと見てたの?」

「少しだけ」

カイルが微笑む。でも、その笑顔の奥に不安が見えた。

「君が消えてしまう夢を見た」

「消える?」

「霧のように、ふっと消えて……探しても探しても見つからない」

彼の手が、私の頬に触れた。確かめるように。

「大丈夫。私はここにいるわ」

「でも、いつかは……」

カイルの声が不安に震える。

「過去を知った時、君は俺から離れていくんじゃないか?」

心臓がドキッとした。鋭い。彼の直感は、いつも的確すぎる。

「そんなこと……」

「ないと言い切れるか?」

言い切れない。真実を知った時、私たちがどうなるか分からない。

「分からない」

正直に答えた。

「でも、今は一緒にいる。それじゃダメ?」

「ダメじゃない。でも、怖い」

カイルが私を抱きしめた。

「君を失うのが、何よりも怖い」

その腕が震えているのが分かった。彼も不安なのね。

「なら、記憶なんて戻さなければいい」

私も彼を抱き返しながら言った。

「ずっと、今のままで」

「それは……逃げてるだけじゃないか?」

「逃げてもいいじゃない」

私は本気だった。真実なんて、知らない方がいい。

「でも、君はいつも悲しそうな顔をする」

「してない」

「してる」

カイルが私の顔を覗き込む。

「隠し事があるから、苦しんでるんだろ?」

図星だった。毎日、罪悪感と愛情の間で揺れている。

「本当のことを話せば、楽になるかもしれない」

「楽にならない。もっと辛くなる」

「なぜそう思う?」

「だって……」

言いかけて、やめた。本当のことなんて、絶対に言えない。

「君が何を隠していても、俺の気持ちは変わらない」

カイルが真剣な顔で言う。

「それを信じてくれ」

信じたい。でも、現実はそんなに甘くない。

「時間をちょうだい」

「どのくらい?」

「分からない……でも、いつか必ず話すから」

カイルが長い間、私を見つめていた。やがて、小さくため息をついた。

「分かった。君の準備ができるまで待つ」

「ありがとう……」

でも、心の中では思っていた。その日は、きっと来ない。来させない。

この幸せを守るために。

-----

午後、私たちは森の中を歩いていた。

最近、カイルは私を一人にしたがらない。薪取りや水汲みも、必ず一緒についてくる。

「過保護すぎない?」

「そうかもしれない」

カイルが苦笑いした。

「でも、離れたくないんだ」

「なぜ?」

「君といる時だけ、心が安らぐから」

私の手を握る彼の手が、温かかった。

「悪夢も見なくなった」

「本当?」

「君がそばにいてくれるから」

それなら良かった。私にも、彼の役に立てることがある。

「でも、ずっと一緒にいるのは無理よ」

「なぜ?」

「いつかは、別れる時が来るかもしれない」

カイルの足が止まった。

「別れる?」

その声が、怒りを含んでいる。

「誰が決めたんだ?」

「決めてない。でも、可能性として……」

「俺は認めない」

カイルが私の肩を掴んだ。

「君と別れるくらいなら、死んだ方がましだ」

「そんな大げさな……」

「大げさじゃない」

彼の瞳が、異常なまでに真剣だった。

「君は俺のすべてなんだ」

重い。あまりにも重い愛。

「カイル……」

「何があっても、君を手放さない」

その言葉に、背筋がゾクッとした。愛情なのか、執着なのか分からない。

「君も俺を愛してると言ったじゃないか」

「愛してる」

「だったら、離れる理由はない」

そんなに単純じゃない。でも、彼には分からない。

「もし……もし、私があなたを騙していたとしたら?」

試しに言ってみた。

「騙す?」

カイルの表情が険しくなった。

「どんなふうに?」

「例えば……私があなたの敵だったとか」

「敵?」

「仮の話よ」

でも、仮じゃない。現実の話。

「君が俺の敵だって?」

カイルが笑った。でも、その笑いは冷たかった。

「ありえない」

「なぜ?」

「敵が、こんなにも愛おしいはずがない」

彼の手が、私の頬を撫でた。

「敵が、俺の心をこんなにも満たしてくれるはずがない」

優しい手つき。でも、目の奥に何か危険なものが光っていた。

「もし本当に君が敵だとしても……」

「としても?」

「俺は君を愛し続ける」

その宣言に、息が詰まった。

「たとえ世界中が君を憎んでも、俺だけは君の味方でいる」

怖かった。その愛が、どこまでも深くて、暗い。

「そこまで……」

「そこまでだ」

カイルが私を抱きしめた。

「君は俺のものだ。誰にも渡さない」

所有。まるで、私が彼の所有物みたい。

でも、不思議と嫌じゃなかった。むしろ、安心した。

これほどまでに愛されているなら、真実を知っても大丈夫かもしれない。

……いや、ダメ。甘い考えを持っちゃダメ。

現実は、そんなに甘くない。

「カイル、苦しい……」

抱きしめる力が強すぎた。

「ごめん」

彼が慌てて離した。

「つい、力が入ってしまった」

「大丈夫」

でも、心臓がドキドキしていた。今の彼から感じた、圧倒的な所有欲に。

「君を失いたくない気持ちが強すぎて……」

カイルが困ったような顔をする。

「でも、君を苦しめるつもりはない」

「分かってる」

本当に分かっていた。彼の愛は、時々重すぎるけれど、偽物じゃない。

「愛してる、リア」

「私も……愛してる」

また同じ言葉を交わした。でも、その重みは日に日に増している。

森の奥で、風が木々を揺らしていた。まるで、私たちの不安定な愛を象徴するように。

でも今は、この愛にすがっていたい。

たとえそれが、罪だとしても。

-----

夜、暖炉の前で私たちは寄り添っていた。

カイルの腕の中で本を読んでいると、彼が突然口を開いた。

「リア、俺たちの未来について話そう」

「未来?」

「結婚とか、子供とか」

心臓が跳ねた。そんな未来、考えたこともなかった。

「まだ早くない?」

「早くない」

カイルが断言する。

「俺は本気だ。君と一生を共にしたい」

一生……そんなに長い時間、この嘘を続けられるだろうか。

「でも、私たちまだ……」

「何が足りない?」

「お互いのことを、よく知らないじゃない」

「知ってる」

カイルが私の髪を撫でる。

「君は優しくて、美しくて、時々悲しそうな顔をする。笑った時は太陽みたいに明るくて、怒った時は嵐みたいに激しい」

私のことを、よく見ている。

「それだけで十分だ」

「でも……」

「過去なんてどうでもいい。大切なのは、これからの時間だ」

そう言われると、反論できない。

「君はどう思う? 俺と結婚したいか?」

結婚……真剣に考えたことがなかった。でも、想像してみる。

カイルと夫婦になって、静かな場所で暮らす。子供ができて、家族として生きていく。

素敵だった。でも、現実的じゃない。

「答えられない……」

「なぜ?」

「複雑すぎるから」

カイルが私の顔を覗き込んだ。

「何が複雑なんだ?」

説明できない。私たちの関係そのものが、複雑すぎる。

「時間をちょうだい」

またこの言葉。最近、逃げてばかりいる。

「どのくらい?」

「分からない……」

カイルが困ったような顔をした。

「俺の愛が足りないのか?」

「足りてる。足りすぎるくらい」

「じゃあ、なぜ……」

「怖いの」

正直に答えた。

「幸せになることが」

「なぜ幸せになるのが怖い?」

「失う時の痛みを考えてしまうから」

カイルの表情が優しくなった。

「君は、俺に捨てられると思ってるのか?」

「そうじゃない……でも……」

言葉が続かない。

「俺は君を捨てない。絶対に」

その断言に、胸が痛んだ。彼は知らない。私がどんな人間か。

「信じてくれ」

カイルが私の手を握った。

「俺の愛を信じてくれ」

信じたい。心の底から信じたい。

「少しずつでいい。時間をかけて、俺を信じてくれ」

「ありがとう……」

カイルが私を抱きしめた。その腕の中で、私は思った。

もしかしたら、本当に信じてもいいのかもしれない。彼の愛を。

でも、それは危険な賭けでもある。

すべてを失う可能性がある賭け。

それでも——賭けてみたい気持ちが、心の奥で芽生え始めていた。

炎が小さくなって、部屋が暗くなった。でも、彼の腕の中は温かくて、安全だった。

この幸せが、いつまで続くだろう。

その答えを知るのが、怖くて仕方がなかった。

-----

その夜、愛し合った。

カイルの手が私の肌を撫でる度に、罪悪感と快楽が混ざり合う。

「美しい……」

彼が囁く。月光に照らされた私を見つめて。

「君を愛してる」

「私も……」

言葉にならない想いが、身体を通して伝わっていく。

この人を愛してる。心から愛してる。

殺された相手を愛するなんて、狂気かもしれない。

でも止められない。

カイルの優しさが、すべてを溶かしてしまう。過去も、憎しみも、恐怖も。

「君だけだ……」

彼が私の耳元で囁く。

「俺の世界には、君しかいない」

重すぎる愛。でも、その重さに酔ってしまう。

「離さない……絶対に離さない……」

所有欲の混じった愛の言葉に、身体が震えた。

怖いのに、嬉しい。

この矛盾した感情が、私を狂わせていく。

でも今夜は、すべてを忘れて彼に身を委ねたい。

明日のことは、明日考えよう。

月が雲に隠れて、部屋は深い闇に包まれた。

でも、彼の腕の中は光に満ちていた。

偽りの光かもしれない。

それでも今は、この光だけを信じていたい。

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