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05

Auteur: 槇瀬光琉
last update Dernière mise à jour: 2025-07-23 16:56:12

智さんは僕の手を手を引きバスルームに連れてきた。

「風邪をひくと困るから温まるんだ」

有無を言わさぬ勢いで中に押し込むと行ってしまった。僕は抵抗することも、逃げ出すことも諦めて、言われたとおりにした。濡れて重くなった服を脱ぎ捨ててシャワーを浴びた。

雨に濡れて冷えて震えていた身体が少しずつ温もりを取り戻していく。シャワーを止めて外に出れば、用意された服が置いてあった。僕はそれに着替えて、タオルで頭を拭きながらバスルームを出たら、壁に凭れた智さんがいた。

「あ、あの…」

どうしていいのか俯けば

「リビングで待ってろ。俺が戻る前に逃げるなよ」

智さんはそう言い残しバスルームに入っていった。僕は小さく息を吐きリビングへと行きソファの陰に隠れて座っていた。

「なんで、そんなところに座ってるんだお前。珈琲で大丈夫か?」

シャワーを浴びて戻ってきた智さんが僕を見つけて聞いてくるから僕は小さく頷いた。智さんは僕が頷いたのを確認してからキッチンへと行った。暫くして珈琲の美味しそうな香りが部屋の中に漂う。カップを二つ持ち智さんが戻ってきて

「こっちに座れ」

テーブルにカップを置きながら言うので、僕は言われたとおりに座った。

「少しは落ち着いたか?」

智さんの言葉に首を振る。

「なんで逃げた?逃げることなかっただろ?」

行き成りそんなことを聞かれた。でも、誰もが思ったことだろう。

「僕が…あの場所に…いちゃダメだって…」

僕がいていい場所じゃない。過去の早瀬夏葵を知っている人物がいる場所にいちゃいけないんだ…

「ふざけるな!お前のダンスがあってこそ、あのメンバーが統一されるんだぞ!」

智さんが僕に怒鳴る。

「僕には…そんな力…ないです…」

智さんの言葉に僕は唇を噛み締め俯いた。買いかぶりすぎだよ。

「あのな、夏葵。お前があのメンバーの中で一番実力があるのは俺たちメンバーを含めて誰もがわかってるんだ。過去に何があったのかはわからないが、今必要としてるのはここにいる早瀬夏葵だ」

智さんが怒りながら説明をしてくれる。僕は唇が切れるんじゃないかってぐらい強く噛み締めた。

僕は…僕は…

「じゃぁ、なんでオーディションを受けた?俺たちをバカにするためか?」

その言葉に

「違う!僕は一緒に踊りたかった。あなたたちの、あなたの後ろで踊りたかったから受けたんです!」

反射的に強く反論をした。そう、僕はこの人の後ろで踊りたかった。この人のために…

「ならいいじゃねぇか。お前の実力をみんなに見せつければいい。昔のお前とは違う、今のお前の実力をみんなに見せつけてやればいい。俺たちだってやすやす負けてやるつもりはないからな」

僕の言葉を聞き智さんがはっきりと言い切る。

「でも…僕は…」

僕は俯き言い渋る。一度芽生えは恐怖は簡単には拭えない。

本当にいてもいいのだろうか?

子供の頃に受けた傷跡は根強く、根深く僕の心の中に燻ぶっている。それこそ、海外に逃げ出して、表舞台から消えるくらいには…。

「だから言っただろ?今のお前が必要なんだよ。AGIAにもバックダンサーにもな」

ポフポフと軽く頭を叩かれる。智さんの言葉を聞き、僕の中で燻ぶっていた思いが少しずつ溶かされていく気がした。

「あぁ、もう。泣くな」

智さんの言葉で自分が泣いてるのに初めて知った。それと同時に自分が今、大好きな智さんの家にいて、智さんの服を借りているんだということにも気が付いた。智さんはタオルで僕の顔を拭きながら

「わかったら明日からもちゃんと練習に来いよ?」

ハッキリと言い切った。

「はい、わかりました」

僕は小さく頷いた。ここまで言われたら頷くしかないし、辞めたいわけじゃないのだ。

「今日は練習しなくてもいい。お前の実力はあの1回でちゃんと確認できたしな。まぁ、俺がけしかけたんだけどな。帰るか?それともこのまま泊まるか?」

智さんは僕の頭を撫でながらそんなことを聞いてくる。僕はその言葉に困った。

「えっ?あっ、じゃぁ帰ります」

じょ、冗談じゃない。このまま泊まったら僕の心臓の方が止まっちゃうよ。

「じゃぁ、送ってやる」

そういって智さんが立ち上がるから僕も急いで立ち上がった。

結局、僕は智さんに家まで送ってもらった。

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