เข้าสู่ระบบ冬の朝、教会の鐘はいつもより長く鳴り響いていた。その
鐘の七つ目が響き終えたとき、
重苦しい空気が揺らぎ、聖堂の奥にわずかな気配が走った。
この瞬間、その身は赤子ではなく、運命へ
執事の声はぴたりと止まった。赤子がアスイェの腕の中にいるからだ。「鐘の音が大きすぎる」アスイェは低い声で告げた。「この
ただ、教会の正殿の奥へと歩みを進め、九つ目の鐘が鳴《な》る前に、あの古びた石の椅子に腰をかけた。
赤子は目を開けることなく、ただアスィエの腕の中で静かに身を寄せ、顔を彼の胸の中へさらに深く埋めた。まるで生まれつき、この人は怖い音から連れ出すみたいに。
執事はアスィエの遠い後ろの扉の前に立ち、その光景を見て、呟く。「
あの夜、灯は早めに落とされた。 暖炉に薪《まき》はもうなく、風の音も小さい。執事の姿もない。 アスイェと子だけがいる空間は、異様《いよう》なほど静かだった。壁に掛けられた古い織物《おりもの》は、かすかに揺れている。わずかな隙間から忍び込んだ夜風が、ほとんど聞こえないほど小さな音を、石造《いしづく》りの床の上に落としていた。アスイェは灯を点けなかった。 古い長椅子に腰を下ろし、手元には開かれていない本が一冊。 部屋の中は深い漆黒《しっこく》に包まれ、窓の隙間から差し込む月光だけが、布の上に落ちた銀糸《ぎんし》のように断続的に揺れていた。その光は、時折《ときおり》雲に遮られ、またふたたび現れた。まるで、ためらうように、そこに留まることを許されているかのようだった。子はまだ目を覚ましていないが、動いていた。この者はまだ若く、成長も遅い。手足の動きは、まだうまく制御《せいぎょ》できていない。 その微細な動きは、アスイェの目には、かすかなもがきのように映った。子は、ただいつものように身を丸め、どこかに隠れようとしていた。この子は、暗闇を恐れている。 目を開けたことのない赤子にとって、それは未知ではない。むしろ、この身は暗闇から来て、うっかりすれば暗闇に呑まれる。それは――よく知っている感覚だった。子の小さな手が、無意識に揺籠《ゆりかご》の縁《ふち》を探っている。指先が木の縁に触れるたび、かすかな音が鳴る。アスイェは立ち上がった。灯りは持たず、いつものように、足音も立てない。それでも、赤子は気づいた。 空気が、わずかに変わった。 アスイェは揺籠の傍に立ち止まり、子を呼んだ。「この者」でも「子」でもない――ひとつの名前だった。ため息のような、人を呼ぶ音。 まだ名前を持たない子に向けられた、それでも意味を持つ呼びかけ。 それを聞いて、赤子の震えは止まった。そして――赤子は目を開けた。ゆっくり、ゆっくりと。夢の中から浮かび上がるように、まぶたが持ち上がる。その目は光を宿していない。だが、何もかもを見ていた。その目は、感情を持たず、ただまっすぐにアスイェを見つめていた。アスイェもまた、その目を見つめ返し、珍しいものを見つけたかのように、しばらくのあいだ、視線を逸らさなかった。――アスイェは、自分の目を見つけた。純血種《じゅんけつしゅ》は、めったに鏡を見な
子はいつも、朝の光よりも早く目を覚めた。 あるいは――これまで一度も、本当の眠りについたことなどなかったのかもしれない。 教会の暖炉《だんろ》が、夜通し燃えることはない。とくに冬の夜明け前、気温は一気に底《そこ》を突く。 石畳《いしだたみ》の隙間から這《は》い出す冷気は、古《ふる》びた木の扉さえ通り抜ける。 アスイェが目を覚ましたとき、火はすでに消えていた。暖炉《だんろ》の中には、白く乾いた灰が、うっすらと積もっていた。 空気は冷えていたが、静かだった。 赤子は泣いていなかった。ただ、黙《だま》って、揺籠《ゆりかご》の中にいた。まぶたを閉じ、小さな身体を折《お》り畳《たた》み、浅く呼吸を繰り返し、気配を限りなく薄めていた。 まるで、雪の中に埋もれた灰のようだった。アスイェは一度だけ、揺籠《ゆりかご》を見た。 執事はまだ現《あらわ》れていなかった。彼は物音ひとつ立てずに歩を進め、赤子に近づいた。 赤子の身体は冷えきっていた。指先も唇も、色を失っていた。だが、それでも泣かなかった。 泣いても意味がないと知っているようだった。誰も来ない。来ても、遅い。それを知っている者の顔をしていた。アスイェは何も言わなかった。 ただ膝を折り、赤子を抱き上げた。その動作に、迷いはなかった。戸惑《とまど》いも、逡巡《しゅんじゅん》もなかった。彼はただ、赤子を自分の腕の中に置いた。 それだけだった。 赤子は目を開けないまま、かすかに鼻先《はなさき》を動かし、何かを探るようにアスイェに寄った。 その匂いに、安心するように。力のない指が、彼の襟の端を掴んだ。アスイェは動かなかった。暖炉には、新たに火が入れられたが、彼は火のほうへは向かわなかった。暖かさを背に受けながら、振り返らず、視線も逸らさず、ただ揺籠《ゆりかご》の傍に立ち尽くしていた。 赤子の頭は、彼の肩にそっと凭《もた》れていた。呼吸はまだ浅かったが、震えは止まっていた。 ほんのわずかに、ほんのかすかに、体温が戻りつつあるようにも思えた。 あるいは――冷たくない何かが、すぐ近くにあると、そう感じ取っただけかもしれない。 執事が部屋に入ってきたとき、 その光景《こうけ》を前に、わずかに足を止めた。「まさか、お抱きになるとは――」「可愛がっているつもりはない。このものは、ただ寒いだけだ。」アスイェは
七日目の夜、雪は前よりも激しく降っていた。屋根には氷が張り、鐘が鳴るたびに、霧《きり》のような霜《しも》がぱらぱらと落ちた。暖炉《だんろ》には湿った薪《まき》がくべられており、今にも消えそうなほど弱い火が、かろうじて燃えていた。蝋燭《うそく》の油《あぶら》はなかなか溶けず、部屋の中には、温もりも得られないまま、埃の落ちる音さえ聞こえそうな静けさが満ちていた。その命は、白い布の中にあった。まだ目覚めていない。その名もないこれは、夜にだけ泣く。 ときには、泣くという仕草すら見せず、ただ口を開け、音も立てずに「泣いていた」。 まるで夢の中で、名もない何かを呼んでいるかのように。最初、執事はその存在は腹を減ったから泣いていた。彼は五つの液体を用意された。三種の栄養剤《 えいようざい》にはそれぞれ違う血を混ぜていた。二種の鎮静濃縮液《ちんせいのうしゅくえき》も試したが、すべて拒まれた。赤子は咬みつく欲も、吸いつく反応もなかった。 泣き止んだわずかな合間でさえ、まるで「正しい」味を待っているかのようで、口を開けようとはしなかった。アスイェは時折《ときおり》、その子に血を与えた。 吸血鬼の食事に先立《さきだ》つ古い儀式もなく、決まった頻度もない。 ただ石の座《ざ》に腰を下ろし、自らの指先を赤子の口元へと差し出すだけだった。その子は指を噛《か》み、咥《くわ》え、そしてすぐに離す。 毎回ほんのわずかしか吸わない。 まるで食べているのではなく、確かめているかのようだった。 ――あの味が、アスイェという存在が、まだそこにあるということを。その夜、アスイェは出かけた。 鐘楼《しょうろう》で、彼に会いたい者がいるという。 教会に残されたのは、執事とあの子だけだった。暖炉の火は消えかけており、 執事は厚手のマントを羽織《はお》って、ゆりかごの前に立ち、しばらくその子を見下ろしていた。その子は眠っていた。 いや、正しく言えば、「深い眠り」に沈んでいた。 まるで冷たい夢の中に閉ざされたように、小さく身を縮めていた。頬は蒼白《あおじろ》く、唇にも血の気はなく、 それは生きた赤子というより、未完成の彫刻《ちょうこく》のようだった。執事は、自分が責任感のない人間ではないと考えていた。任務は果《は》たしている。ただ、冷ややかに、淡々と、それを作業として処理しているにすぎない
冬の朝、教会の鐘はいつもより長く鳴り響いていた。その鐘の音は重く、濁っていて、どこか遅れて響く。それはまるで、巨大な何かが水底へ沈んでいくときに生じる、濁流の中で反響するような音だった。鐘舌には鉄錆《てつさび》と風雪が絡まり、鳴るたびに、寒さそのものを引きずって天頂から落ちてくるかのようだった。 教会の高い天窓は、外の冬空と同じ、冷たく曇《くも》っていた。石の壁にはひびが入り、窓枠《まどわく》の隙間から微かな風が忍び込む。光と影が交差《こうさ》するその聖堂は、まるで時が止まったように静まり返っている。鐘の七つ目が響き終えたとき、襁褓の中の幼子《おさなご》がわずかに身を震わせた。 目覚められず、眉間に皺を寄せ、まるで夢の中でもがいているようだった。白い額には薄く汗がにじみ、布の端に触れた唇は、かすかに震えていた。喉の奥から、震えるような声が漏れる。小さな声――だが、それはもはや、断続的で死に際が発する音ではなく、初めて、そこに「生」のざわめきがあった。不快で、鐘の音への抗い。 八つ目の鐘が響いた。 そしてその身は、初めて、はっきりと声を上げて泣いた。 その泣き声は、引き裂かれるような音、凍りついた土の深層が突如割れる音のようだった。数日前、死に際にあったはずの小さな体から、こんなにも大きく、いきいきとした声が響くことなど、誰も想像できなかった。重苦しい空気が揺らぎ、聖堂の奥にわずかな気配が走った。この瞬間、その身は赤子ではなく、運命へ抗うひとりだった。 執事は廊下から慌てて部屋に入った。 「どうしまし――?!」執事の声はぴたりと止まった。赤子がアスイェの腕の中にいるからだ。「鐘の音が大きすぎる」アスイェは低い声で告げた。「この者は、それを嫌がっている」命じることもせず、赤子の耳を塞ぐこともなかった。ただ、教会の正殿の奥へと歩みを進め、九つ目の鐘が鳴《な》る前に、あの古びた石の椅子に腰をかけた。 磨り減った石の床《ゆか》に、アスイェの長靴《ながぐつ》の音が淡く響く。聖堂の空気は凍《こお》りつき、古びた祭壇
最初は赤子の泣き声だった。まるで雪地に刻まれた細い跡のように、その泣き声は軽く、すぐに雪の中に溶けた。執事が扉を開けたときには、あの人はすでに揺籠《ゆりかご》の前に立ち、無表情のまま、その弱々しい「子ども」を見下ろしていた。その命の目元は赤く、泣き音はもう力がなく、どんどん短くなっている。 「もう三種類の命贄《いのちにえ》の御滴《 おしずく》を拒絶しました」執事が静かに告げる。「また、このものは全ての人間の血も全て拒絶しました」 純血の吸血鬼は目を伏せ、揺籠の中の子どもを静かに見つめる。まるで、一つの壊れかけた装置でも確認するように。 「予想以上に、適応していない」 しばしの沈黙ののち、執事が低く言った。 「元の人間の家系に戻す案も――」 「不要だ」 吸血鬼は執事の声を遮った。 彼の声に波はなく、「このものを産んだ人間の母体はもう死亡した。血族はこのものを認めない。あちらでは二年も保たない」 「では……」 吸血鬼は何もは静かにそのもののすぐそばにある、布の端を手にした。この布はまだ清潔で、このものを噛んでいないものだ。吸血鬼はそっと嗅いだ。微かな血の匂い。 そのものはまだ歯がないが、生きる為自分を傷つけた。 ふと、彼は小さく笑った。まるで、言葉にならない皮肉に気づいたかのように。 「どうやらほんとに何も食べられないようだ」彼はそう呟く。 しかし彼は黒い手袋をはずし自分の指を赤子の口元へ差し出した。 まるで何かをたしかめるように。 その身はかすかにおとを漏らし血の匂いに引かれるように、指をくわえた。 数秒後――泣き声は止んだ。純血の吸血鬼の低い笑い声は喉の奥から漏れた。 「……全くダメというわけでもないらしい。これは俺の血しか口にしない生き物だ」 この身元が分からない、人でも吸血鬼でもない「赤子」は最も気高く、最も純《じゅん》なる血しか受けつけない。 その身は力尽きたその身は、冬の夜の燃え残りの炉灰《ろばい》のように、小さくなって、長い眠りに沈んだ。 瞼は静かに閉じている。睫毛は雪に押し伏せられた蔦《つた》のように頬にはりついた。 この頬はよやくかすかな血の色がさした。今からこの命はやっと「赤子」になった。 赤子はまだ、純血の吸血鬼の指を離せずにいた。 執事はそっと吸血鬼の顔色を窺ったが、男は嫌悪の色も、喜びの色も浮か