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76.せっかく回復してきたのに……

Author: 桜立風
last update publish date: 2026-08-26 16:10:21

『もしもし……』

神楽にそっくりの声が聞こえて……ふざけているのかと思った。

「あの、神楽さん?」

『お世話になっております。神楽の父親で、坂口と申します」

「は……はじめまして、片桐紅と申します」

父というのが実父のことだとわかり、交流があったのかと少し驚いた。

父子水入らずの時間を過ごしているのなら、喜ばしい。別に……外科病棟で噂されていたことを信じたわけではなかったが。

ひと通りの挨拶を終え、神楽に変わった。

『信じる気になった?』

「はじめから疑ってませんよ?……ちょっと意地悪を言っただけで、ごめんなさい」

神楽は素直に謝る紅に、携帯の向こうで破顔した。

「改めて、ご挨拶に行きたいです」

『あぁ……だが父はどうも、依存症を患ってるようでな』

場所を移動したらしい神楽が小さく言った。悲しげな声が、初めて母の病気を知った当時の自分を思い出させる。

「神楽さん?」

『ん?』

「私が一緒にいるから、大丈夫です。私もお父さまを支えますから」

悲しみも不安も怒りも、私はずっと1人で背負ってきた。誰かに一緒に背負うと言ってもらえたら、あの頃の自分はどれだけ救われたかと思う。

『ありがとう紅
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yuu
心配… 父はどこまで苦しめたら気が済むんだろう。
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    『もしもし……』神楽にそっくりの声が聞こえて……ふざけているのかと思った。「あの、神楽さん?」『お世話になっております。神楽の父親で、坂口と申します」「は……はじめまして、片桐紅と申します」父というのが実父のことだとわかり、交流があったのかと少し驚いた。父子水入らずの時間を過ごしているのなら、喜ばしい。別に……外科病棟で噂されていたことを信じたわけではなかったが。ひと通りの挨拶を終え、神楽に変わった。『信じる気になった?』「はじめから疑ってませんよ?……ちょっと意地悪を言っただけで、ごめんなさい」神楽は素直に謝る紅に、携帯の向こうで破顔した。「改めて、ご挨拶に行きたいです」『あぁ……だが父はどうも、依存症を患ってるようでな』場所を移動したらしい神楽が小さく言った。悲しげな声が、初めて母の病気を知った当時の自分を思い出させる。「神楽さん?」『ん?』「私が一緒にいるから、大丈夫です。私もお父さまを支えますから」悲しみも不安も怒りも、私はずっと1人で背負ってきた。誰かに一緒に背負うと言ってもらえたら、あの頃の自分はどれだけ救われたかと思う。『ありがとう紅。もう……一心同体だな?』「はい。2人で1人前です」『あぁ紅……今すぐひとつになりたい」「それは、」『今すぐ抱き……』唐突に携帯を切ってやった。家族との顔合わせも具体的になり、実の父親へ挨拶に行く想像を膨らませる。……あとは結婚式?義母に連れられて行ったチャペルを思い出した。契約結婚は3回も繰り返した神楽だけど、結婚式をするのは初めてだろう。何度か出席した友人の結婚式を思い出し、つい口元が緩む。タキシード姿の神楽、かなりカッコいいだろうな……本人には言えない想像が脳内に描かれた。簡単な夕食と入浴を済ませ、早々に神楽のベッドに横になり、ウトウトし始めた時だ。携帯がにぎやかに着信を知らせ、紅は誰からなのか確認もせず繋げる。「紅さん、落ち着いて……聞いてほしいんだけど」「え、京香……先生?」寝ぼけた頭に響く声は間違いなく京香先生だ。こんな時間にどうしたのだろう……今夜は神楽も病院にはいないのに。ベッドの上に上体を起こし、携帯を持ち直して……「片桐さんが、お母さんがいなくなったの」「え、お母さんが……?」「見回りの看護師が気づいて、病院中を探したんだけど

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  • クズなハイスペ夫を改心させたのはもっとクズな私です   7.再会

    「英語は大丈夫だけど……」『じゃあ歌ってみる?ラバークラブMiAってガールズバーなんだけど』「うん。期間は?」『まずは一晩、2回ステージ。バラードを歌ってほしいみたいよ』亮子はクラブやBARの起ち上げやプロデュースをする仕事をしている。その関係で、こういうバイトの情報が早い。亮子が関わった店なら大丈夫だろう……その日の夕方、紹介された店に行ってみた。「亮子さんに聞いてます!まずは一曲、聞かせてもらえますか?」面接は歌のみ。難なく合格をもらった。手渡された衣装はシルバーグレーのシンプルなドレス。ヘアメイクはプロが入ってやってくれた。呼ばれるまで待機するよう言われ、若い女の子た

  • クズなハイスペ夫を改心させたのはもっとクズな私です   6.紅の生い立ち

    「紅か……?」神楽との契約結婚を終え、まず向かったのは実家だった。「……お久しぶりです」手を止めず、顔も向けずに返事を返す娘に、父はわかりやすくイラ立つ。「はんっ!久しぶりに来たと思えば……なんだ?泥棒のマネごとか?」「お母さんの服を取りに来ました。そろそろ暑くなるので」「お前は、口を開けば母さんのことしか言わないな?」……あんたが口にしないからだ。今日も、ギリギリのところで言葉を飲み込む。父と言い争ってスッキリした事など一度もない。むしろ逆……怒りと悲しみ、そして絶望。父は昔から、私にそんな感情しか教えなかった。「……多分、今回持ち出せば、この家からお母さんの私物はなく

  • クズなハイスペ夫を改心させたのはもっとクズな私です   5.Side神楽 謎の女、紅

    「君が契約結婚を引き受けたのは、俺への復讐か?香織と同僚だったってことは、当時から俺の話を聞いていた?」「香織さんは、別れた夫とセフレ関係になってつらいって言ってました。だから契約結婚を終えてからの相談ですね」「俺と出会ったのは偶然?……それとも探し出して、」ずいぶん話が意外な方向へ行くので……らしくもなく、動揺していた。それにまさか、梨沙子のことも知っているとは。「香織さん、夫の名前は伏せてましたよ。でもある日酔った勢いで「神楽」って名前と医者だって漏らして。あの料亭で出会ったのは偶然です。めずらしい名前だったからピンと来たんですよね」紅はソファから立ち上がり、携帯に表示される

  • クズなハイスペ夫を改心させたのはもっとクズな私です   4.契約満了

    「荷物、それだけだったか?」やがて、契約満了の日。見せつけるようにスーツケースを転がし、神楽の目の前に置く。「はい。このお宅にはすべてそろっていたので、ありがたく使わせていただきました」枕、毛布、シーツ、バスタオル、バスローブ……「引っ越し先の住所を教えてくれたら送るよ?使い慣れたものは手放したくないだろ?」「……あなたはそうかもね」使い慣れた契約妻を、今も時々美味しくいただいてる。「……え?」「……使わせてもらった枕、抱きしめて寝てくれません?私のことを思い出して」不思議そうな顔に作り笑いを返した紅に、今度は驚いた顔をするので、本気で吹き出してしまった。「冗談ですよ!

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