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第139話

Author: 木憐青
延浩はため息をつき、深雪を追うのは諦め、まずは目の前の問題を片付けることにした。

「当時、留学に行くと決めたのは俺自身だ。お互いに感情はあったが、何の約束もしていなかった。彼女が俺のために待つ理由なんてなかったんだ。

君が見た俺の落ち込みや悲しみそれは全部俺自身の問題であって、彼女とは関係ないだろ?」

星男は呆れ返った。

恋愛脳は見たことがあるが、ここまでひどいのは初めてだ。

眠ったふりをする者を起こすことはできないし、恋愛脳を治す薬もない。そう悟った星男は、ただ無力にため息を吐いた。

「社長の私事は僕には関係ありません。彼女を嫌うのも、僕の自由です。

ただし、会社に関しては絶対にプロフェッショナルな態度で臨んでいただきたい。

それだけは譲れません。我々がここまで辿り着くのは、本当に容易なことではなかったのですから」

「それでも謝罪をしてくれ」

延浩は頑なだった。

星男はしばらく彼を見つめ、最後には折れた。

「......次に会った時に謝ります」

だが、次があるとは思えなかった。

昼休みが終わり、深雪は定刻どおり会社に戻り、自分の席で業務を再開した。

もと
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