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第358話

Author: レイシ大好き
しかも、もし家族にこのことが知られたら、自分は一体どんな顔をすればいいのか。

何しろ、今の自分の婚約者は緒莉なのだから。

一方、紗雪は電話を切ったあと、ネットでますます炎上していく世論を見て、もはや手の打ちようがなかった。

仕方なく、彼女は自分がすでに結婚していることを公表することにした。

京弥の後ろ姿と横顔が少し写った写真に加え、二人の結婚式のカバー写真も添えて、文案を整えた上で、二川グループのタグを付けて投稿した。

一通りの準備を終えたとき、ようやく紗雪は一息つくことができた。

何しろ、今は世間の注目が自分に集中していて、ほんの些細な動きひとつでさえ、大衆の視線が一気に集まってしまう。

どんな小さな変化も見逃されない。

だからこそ、彼女も慎重に行動せざるを得なかった。

京弥の存在を明かすのも、やむを得ずの判断だった。

そうでもしない限り、世間の誰も彼女の言葉を信じないだろうと分かっていたからだ。

そして。

紗雪がその投稿をしてから、まもなくしてネットはほぼ機能停止状態になった。

【二川家の次女には、実は夫がいたらしい!】

そんな話題で、コメントやリポストが一気に増えた。

これで、辰琉を誘惑していたという噂話は完全に崩れ去ったことになるのでは?

同時に、ネットの人々の関心は紗雪の夫の容姿へと移っていった。

【え、うそでしょ?みんな見て、この写真の横顔だけでもうこんなにイケメンだよ?】

【他のことはともかく、あの高くて整った鼻筋は整形でもなかなか無理でしょ】

【二川グループのパーティーに行ったことないの?あそこでは、あの旦那さんの正面の顔が出てたんだよ!もう信じられないくらいの美形だった!】

そんなコメントを見て、ようやく人々は「紗雪が嘘をついていなかった」ことに気づいた。

本当に結婚していたんだ。

そう思うと、ネット上には驚きの声が広がった。

あれほど騒がれていた数々のゴシップも、振り返ればまったく根拠のないものでしかなかった。

【結局、全部デマだったんだ......】

その事実を知った瞬間、多くの人々が騙されたという感覚に襲われた。

だって、みんな本気で信じていたのだから。

紗雪が間違ったことをしたと、本気で思っていたのだから。

そして、一部ではすでに反省の声が上がり始めていた。

【やっぱり、ネットの情報
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