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第389話

Author: レイシ大好き
あまりにも悩みすぎて、山口は病室の中をうろうろしながら頭を抱えていた。

紗雪にこの件を伝えるべきかどうか、決めきれずにいたのだ。

しかし、もし伝えるとしたら、どんな言い訳をすればいいのかもわからなかった。

山口は病室に長い間とどまり、次に自分が何をすべきか分からなくなっていた。

ベッドに横たわる、まだ意識の戻らない美月を見つめながら、小さくつぶやく。

「美月会長......あなたが目を覚ましていたら、きっとどうすればいいか分かったはずなのに......」

山口は、今や完全に自信を失っていた。

取締役会の方も、どう対応していいか見当がつかない。

そんなことを考えるたび、頭が痛くなる。

もう、成り行きに任せるしかないか。

もともと自分はただの雇われ人だ、そこまで悩むことじゃない。

悩んだからって給料が上がるわけでもないしな。

そう思うと、山口はすべてを放り出すようにソファにどさりと座り込み、虚ろな目で時計を見つめながら、緒莉が戻ってくる時間を心の中で数え始めた。

......

一方その頃、紗雪のもとでは、いくら待っても秘書からの連絡が来ず、焦りはますます強くなっていた。

しかも、オフィスにいる京弥と日向を前にして、どう次の一手を打つべきかも分からず、困り果てていた。

取締役会の人間たちは、美月の所在を巧妙に隠していた。

というのも、この情報が漏れれば二川グループの株価に影響が出かねないと恐れているのだ。

そのため、彼らは一切外に漏らさず、二川グループに悪影響が及ぶのを恐れて、徹底して隠し通していた。

何しろ、美月はこれまで何年もかけて築き上げた信用とイメージ、そしてその言動すべてが二川グループと密接に結びついていた。

言ってしまえば、今の美月は二川グループそのものの象徴なのだ。

だからこそ、紗雪にできるのは秘書の連絡を待つことだけで、どこから調べればいいのかすら手がかりがない。

彼女の困りきった表情を見て、日向は思わず声をかけた。

「大丈夫。僕にできることは何でも言って」

「笑わせるな。俺の女に、お前の手助けなんて必要ない」

日向の言葉に、京弥は面白くなさそうに反応し、紗雪を力強く引き寄せてその腕の中に抱え込んだ。

その行動はあまりに強引で、独占欲に満ちていた。

だが、紗雪は拒むことなく、そのまま彼の腕の中に収まって
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