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第642話

Author: レイシ大好き
甘い言葉を言えて、素直で、しかも話し上手。

この点において、大人で嫌う人なんていないだろう。

当時、小さな紗雪もそう思っていた。

緒莉が何をしようと、彼女はただ横に立ち、まるで自分が人前に出せない私生児のようだと感じていた。

けれど、大人になり、自分の交友関係ができてからは、紗雪も少しは気持ちが楽になったのだった。

清那がなぜこれほどまでに知っているのか。

それは子供の頃、紗雪が本当にたくさんのことを彼女に話していたからだ。

幼い頃から二人はいつも一番の親友同士で、誰かが何か困ったことに遭えば、必ず秘密基地に集まった。

そこには、二人だけの思い出が山ほど詰まっていた。

清那の感慨深げな表情を見て、日向は心の中で思わず驚いた。

松尾さんって、なんでいつも上の空なんだ?

集中力がまるで続かないみたいだ。

けれど、時々ふと見せるその上の空な表情は、日向の目には可愛らしく映って仕方がなかった。

うまく言葉にできないが、清那には邪気がなく、一緒にいて楽な人間のように感じられる。

だが今の日向は、心の奥でそんな自分を激しく軽蔑していた。

紗雪のことをまだ好きなのに、どうして清那にも好感を抱いているんだ。

人として最低じゃないか?

そんなことを思うと、日向は理由もなく罪悪感に襲われ、今の紗雪の様子を思い、さらに胸が締めつけられた。

もうこんな気持ちでいてはいけない。

あまりにも酷すぎる。

日向は深く息を吐き、これからは清那と距離を置こうと心に決めた。

二人がこんなに近くにいるのは、どう考えても良くない。

第一の目的は、紗雪だ。

そうやって、日向は自分に言い聞かせた。

二人の姿が病院から消えるのを見計らって、緒莉と辰琉はようやく暗がりから姿を現した。

外に出る頃には、重装備もすでに外していた。

もともと暑い気候の中、あれほど厳重に包んでいたのだ。

バカじゃなければ、暑さに耐えられるはずがない。

胸を撫で下ろした辰琉は、安堵と恐怖の入り混じった声で言った。

「さっきなんで急に立ち止まったんだ?危うくバレるところだったんだよ?」

その時、何も言わずとも計画は台無しになり、後のこともすべて水の泡になっていただろう。

そう思うと、緒莉の胸にも恐怖が走った。

だが、幸い清那は鈍感だった。

おかげで、なんとか誤魔化すことができた
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