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第4話

Author: 匿名
1週間後。

病室で、凛は探偵から届いた封筒を開けた。指先は氷のように冷たかった。

刑務所に入る前、正人は翔平が松本家の人間だとは知らなかったらしい。

しかし、何という運命のいたずらか、正人は一族の権力と引き換えに、松本家に対して自分の隠し子である百合を探し出し、面倒を見てほしいと頼み込んだのだった。

そういうことだったのか。

凛は指先が白くなるほど力を込めて書類を握りしめる。

きちんと法の裁きが下ったのだと思っていたのに、その裏ではただ取引が行われていただけだった。

なんてことだろう……自分はこの手で、4年間も憎い敵の娘の面倒を見ていたなんて。自ら災いを招き入れ、自分の子供を死なせてしまった!

激しい吐き気に襲われ、凛はトイレに駆け込んでえづいたが、出てきたのは胃液だけだった。

トイレの床にうずくまりながら、5年前に病室で目覚めた時のことを思い出す。

翔平はうさぎのように目を真っ赤にして、自分の手を握り、「絶対、奴らに法の裁きを受けさせてみせるから」と言っていた。

そして、翔平は証拠集めや裁判に奔走する以外、全ての時間を看病に費やしてくれた。

あの事件で負った、酷くただれてしまった傷の手当ても、看護師には任せずに、「凛は痛みに弱いから、他の人が優しくやってくれなかったら困るだろ?」そう言って、いつも翔平が自ら薬を塗ってくれたのだった。

「凛は痛みに弱いから、他の人が優しくやってくれなかったら困るだろ?」

結婚してからの1年間、翔平は辛抱強く傍にいてくれ、凛が少しずつトラウマを乗り越えるのを助けてくれた。

周りの友人は皆、翔平のことを「最高の旦那さん」だと言っていた。

しかし、その優しさの裏には、こんなにもたくさんの事情が隠されていたなんて。

凛はふらつきながら階段を駆け下りた。爆発しそうな自分を、冷たい風で少しでも落ち着かせたかった。

その時、忘れもしないあの男の姿が目の前を横切った。

正人だ!

正人は全身をブランド物で固め、煙草をくわえたまま、これ見よがしに凛を触ってきた。

「お前のガキ、死んだんだって?でもな、俺はまた父親になるんだぜ!早めにシャバの空気も吸えたしな!」

凛は全身が震え、血の気が引いていくのが分かった。

正人が出所した?また、父親になる?

じゃあ、自分の赤ちゃんは?

生まれてすぐに息絶えて、たった4グラムの灰になってしまった、あの子は何だっていうの?

理性は吹き飛び、抑えきれない憎しみが凛を突き動かす。彼女は正人に向かって飛びかかった。

しかし、後ろから伸びてきた手が凛の口を強く塞ぎ、無理やりエレベーターの中に引きずり込んだ。

それが翔平だと分かった瞬間、凛はまるで氷の底に突き落とされたような気分になった。

凛が車に押し込まれ、ドアがロックされると同時に、車は猛スピードで走り出す。

凛は激しく息をしながら、翔平を睨みつけた。

「どうして、原田さんがここにいるの?」

翔平はハンドルを握る指に力を込め、しばらく黙り込んだ後で答えた。「模範囚で減刑になったから、刑期より早く出所したんだ」

模範囚?減刑って?

凛はとんでもない冗談を聞いたような気分だった。

「あの人は大勢の男に私を好き放題させたんだよ?それに、懲役15年だったのに、まだ5年しか経ってないじゃない!

絶対に許さない!もう一度、刑務所に戻してやるんだから!」

凛は震える手で携帯を取り出し、警察に通報しようとした。

しかし、凛が口を開いた瞬間、翔平が凛の手から携帯をひったくり、電源を切ると後部座席に放り投げた。

「何するの!」凛は叫んだ。

翔平も声を荒げる。「凛。もし今この事件を蒸し返したら、弁護士としての俺の評判はどうなる?やっとここまで来たんだぞ。全部、俺が自分の力で築き上げてきたものなんだ!なのに、お前は俺の人生をめちゃくちゃにする気か?」

車が急ブレーキをかけ、邸宅の前に止まると、凛は、翔平によって車から引きずり出された。

しかも、もみ合っているうちに、お腹の傷口が開いてしまい、激痛と共に傷口から生温かい血が滲み出てきてしまった。

手に血が付いたことに気づいた翔平が顔色を変え、慌てて救急箱を探し始める。

翔平は凛の足元にひざまずき、みるみるうちに目の縁を赤くした。

「ごめん、凛」翔平の声は掠れ、ガーゼを持つ手は震えていた。

「痛めつけようって思ったわけじゃないんだ。ただ、君が衝動的になってしまうんじゃないかって……」

凛はそんな愛情深いふりをする翔平の姿を見て、ただ恐ろしいと感じるだけだった。まるで、見知らぬ人のようだ。

「あなた自身と家の名誉がそんなに大事なの?じゃあ、私が受けた屈辱なんて、どうでもいいってこと?翔平、絶対にあの男たちを許さないって言ったのは、あなただよね?」

翔平は必死に頷く。「分かってる!だから俺は、この数年間ずっと君に尽くしてきたじゃないか!」

「どうしたの?」

二人が言い争っていると、百合が眠そうな様子で階段を降りてきた。

凛のネグリジェを着ている自分を、凛が怒りに満ちた目で見ていることに気づくと、百合は口元を覆って驚いたふりをする。

「ごめんなさい、凛さん。昨日、雨が降ってて、乾いたネグリジェがなかったから、凛さんのをお借りしちゃった。もしかしてだめだった?」

凛は傷口を押さえながら、ゆっくりと翔平に尋ねた。「翔平、これがあなたの言う『私に尽くす』ってこと?」

翔平は顔を強張らせる。「俺たちの問題に百合を巻き込むなよ。まだ子供なんだから……」

凛の心は完全に冷え切ってしまった。

凛は翔平を突き飛ばし、もう一度警察に電話しようとした。

その時、百合がのんびりとした口調で、ふたたび口を開いた。

「凛さん。これ見て。何だと思う?」

振り返った凛の顔から一瞬で血の気が引く。
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