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第7話

Auteur: 匿名
拘留期間が終わった日、留置場の外には誰もいなかった。

翔平は来なかったのだ。

凛はどんよりとした空の下に立ち、深呼吸を一つしてタクシーを止めた。家に荷物を取りに戻ったら、すぐにこの街を出るつもりだった。

車はすごいスピードで走っていく。窓にもたれていると、どっと疲れが押し寄せてきた。

次に目を開けた時、凛は鉄の椅子に縛りつけられていて、動かせるのは頭だけだった。

周りを見渡すと、そこはどうやら廃倉庫のようだった。

少し離れた場所に、百合も同じように縛られているようだが、どんな表情をしているのかはよく見えない。

「目は覚めたか?」聞き覚えのある声がする。

マスクをつけた男が、鞭を手に持って現れた。

男は凛の前に立つと、鞭を容赦なく振り下ろした。

焼けるような痛みが全身に広がる。凛は奥歯を強くかみしめ、うめき声を飲み込んだ。

この声は……

脳の奥深くにしまい込んでいた記憶が、無理やりこじ開けられる。

5年前のあの夜、耳元で何度も聞いたいやらしい欲望と残忍な笑いが混じったこの声……

あの時の男たちの一人だ。

「ちっ、相変わらず強情な女だな」

男はあざ笑い、もう一度鞭を振り下ろす。

「お前があの時、俺たちを訴えたり、話を大ごとにしなけりゃ、うちのボスの会社が潰れることもなかったし、俺たちがこんな風に落ちぶれることもなかったんだ!」

凛は叫ぶ。「もう一度訴えられるとは思わないの?」

「それがどうした?」

男は凛の言葉を遮り、ふてぶてしい態度で言い放った。

「一度やったんだ。一度も二度目も同じことだからな!

あのクソ弁護士だってそうだ。最初はお前をエサにしてうちのボスを誘惑してきたくせに、すぐお前の味方になって執拗に追い詰めてきた。結局、原田家の資産を横取りするのが目的だったんだよ!

今日は見ものだな。あの偽善者の二枚舌が、お前を選ぶのか、それとも他の女を選ぶのかがな!」

凛は全身の血が一瞬で凍りついたように感じた。

全てのピースが、今この瞬間に一つの真実を形作った。

やはり……翔平が自分を地獄に突き落としたのだ。

そして、その後は救世主気取りで颯爽と現れ、原田家を手に入れた。名誉も資産も手に入れた挙げ句、自分に感謝させ、心の底から彼に惚れ込ませていたなんて。

心臓がずたずたに引き裂かれ、痛みで気を失いそうだった。

自分の悪夢は、百合が現れてから始まったのだと思っていた。

しかし本当は、翔平と出会ったあの日から、この罠は仕掛けられていたのだ。

凛が苦痛に顔を歪めるのを見て、百合は不意に笑い出した。

「もう分かってると思うけど、この拉致は私が自分で計画したの。今の翔平さんの心の中にいるのが、一体誰なのか、あなたにはっきり見せてあげようと思ってね!」

すると、廃倉庫のドアが、勢いよく蹴り開けられた。

現金の入ったアタッシュケースを手に飛び込んできた翔平が叫ぶ。「金は持ってきたぞ!彼女たちを放せ!」

犯人はナイフを凛と百合に向け、陰湿な声で言った。

「『彼女たち』だと?贅沢言うな。どっちか一人だ!連れて帰るのを一人選べ!

さあ言え!どっちを選ぶんだ?」

翔平の視線が、躊躇うように二人を行き来する。

血の気を失い真っ青になった凛の顔を一瞬だけ見つめたが、翔平は全く躊躇うことなく百合を指さした。

「百合を連れて帰る」

百合が前に突き出された。

翔平は一歩前に出ると、百合の腕を強く掴み、自分の後ろへと庇った。

凛の方を向き、翔平は早口で言う。「凛。百合はまだ若いんだ。だから、こんな目に遭わせるわけにはいかない。待っててくれ、すぐに金を用意して、必ず助けに来るから!」

妻である自分よりも体の関係を持った女の方が大事だなんて。

犯人の笑い声が聞こえる中、凛は渦巻く暗闇に飲み込まれそうで、震えながら翔平に叫んだ。

「翔平、よく見て!この男は、あの時私を傷つけた男たちの一人なの!私をここに残て、あなたは後悔しないの?」

翔平は振り返りもせず言った。「百合を送ったらすぐ助けに来るから。俺を信じろ!あんなことは二度と起こさせない!」

翔平は犯人の方を向き、厳しい声で言う。「金を取りに行ってくる。もし凛に指一本でも触れてみろ、ただじゃおかないからな!」

しかし、翔平が背を向けた瞬間、犯人の冷たくざらついた手が、凛の下着の中に忍び込んできた。

凛は崩れ落ちるように叫ぶ。「翔平、警察を呼んで――」

しかし、翔平は何も聞こえないのか、百合を庇いながら足早に廃倉庫の出口へと向かっていってしまった。

だが、凛は見逃さなかった。百合が唇の動きだけで[誰にも相手にされない、このできそこない!]と言ったのを……

ガチャンと音を立てて廃倉庫の扉が閉まり、凛は底なしの絶望へと突き落とされた。

にやにや笑いながら凛の服を破る犯人の手が、どんどん下へと伸びてくる。

凛は口を大きく開け、その手に力いっぱい噛みついた。

次の瞬間、顔面に強烈な平手打ちを食らい、口の中に血の味が広がる。

凛はそれでも負けじと血の混じった唾を犯人に吐きかけ、椅子ごと体当たりした。

二度も同じ思いをするぐらいなら、死んだ方がましだ。

凛の態度に完全に逆上した犯人が、その目に殺意を宿らせた。ナイフをちらつかせながら大声で怒鳴る。

「このクソ女が!死にてえのか?死にてえなら、望み通りにしてやるよ!」

凛はよろめいた。何が起きたか分かった時には、冷たい刃がまっすぐに腹部へと突き刺さっていた。

肉が引きつり、身を抉られるような激痛が走る。下を見ると、傷口からどくどくと血が流れ出ていた。

視界がぼやけ始める。耳鳴りがする中、目の前の世界がだんだんと暗くなっていく。

脳裏に浮かぶ最後の光景は、庭で自分のために桜の木を植えながら、優しく約束してくれた翔平の姿だった。

「もう、あんな辛いことは二度と起きないから。

一生、君を愛するよ」

翔平、あなたとの「一生」は、こんなにも短かったんだね。
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