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12-1.ヒビキはゲームにどっぷりはまる

last update Last Updated: 2025-05-12 18:00:19

 気に入ってたけどモフモフのシートカバーはシラベの血がべっとりついてたからゴミ箱行き。いつかこの車のインテリア総とっかえしよう。昨晩はマジで危なかったな。レイカのおかげで助かったけど、逆にレイカがこれからどんなになるのか、あたしたちで本当に何とかできるのか不安になる。でも、これはあたしがトール道。これを乗り越えなければ目的は果たせない。

 昨晩青墓で一人で偵察に出て、誰もいないはずの受付にジャガーが停まってるの見た時はすぐにでも戻ろうかと思った。でも、会長が肩からボールケースを3つも掛けて車から出て来たから茂みに隠れて様子を伺うことにした。

 しばらくすると森の暗闇から、緩慢な動作のたくさんの蛭人間が現れて会長の周りを遠巻きにして集まった。その中の何匹かは、あたしのいた茂みの横をすり抜けて行った奴らだった。ずっと後ろにいやな気配を感じていたんだけど気のせいにしてスルーしてた。危なかった。

 蛭人間って、辻沢の風景に自然と溶け込んでいて、そこに居るのにいないような、目の端に捉えているのに気づかないような存在なのかもしれない。昨日の夜は狂暴化して襲って来たけど、突然そうなったんじゃなくて、ずっとそうやって暗闇から辻沢の生活を脅かしてたんじゃないかと思う。

 一人夜道を歩いているとき付けられてる気がしたとか、暗い田んぼの中で何かが蠢いたとか、森を車で走るとき木々の間に何かが佇んいる気がするとか。あたしたちは何も気づかぬふりをして、何も見てない体で生活してた。それが言い知れない不安の正体だなんて思いもしないで。

 それで会長はどうしたかっていうと、そいつらをいやらしい目でねめつけながら、ボールケースの中から何かを取り出して蛭人間に与えだした。蛭人間たちは猛烈な勢いでそれに群がり貪り食った。蛭人間がたてる気味の悪い音のせいで吐き気がしてきて、あたしは急いで車に戻ったけど、あれは確かに人の生首だった。

 今朝はココロの家の駐車場から会長の見張り。この地区、今日燃えるゴミの日なのかな。カラスがうるさい。

 カカカ。コァコゥァ。アーアーアー。カカ。コゥァ。アー

って、何か喋ってるみたいな鳴き声。

 ここからまっすぐのところに会長の家が見える。垣根の中は家族が誰も住まなくなったココ
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  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   12-2.ヒビキはゲームにどっぷりはまる

     トリマ、前進。靴のままでお邪魔しまーす。血の跡、階段からか。上がる? 上、真っ暗だな。電気点く。あんまりそこら触らないようにしてっと。会長が妓鬼狩りをしてたとしたら、ここで出るのは人間のツレに決まってる。対人用の武器買っとけばよかった。とりあえず車にあったの掴んで持ってきたけど意味あったかな? 水平リーベ棒。 血の跡は、あの左の部屋まで続いてる。音した? 気のせい? ドア半開きだ。部屋の中、暗くて分からない。誰か寝てる。夏なのに掛け布団? 背後に気配。すごく巨大な何か。そして、猛烈な古本屋さんの匂い。「ようこそ、カレー☆パンマン」(イケボ&重低音。以下同じ) 振り向くとそこにいたのは金色の眼をして真っ赤な口から銀色の牙を剥き出しにした怪物。これがツレなの? どう見てもヴァンパイアなんだけど。 終わった、あたしの人生。って訳にはいかない。あたしがいないとココロが寂しがる。必殺! 裏拳水平リーベ棒。痛たたた。手首つかまれた。ひねっちゃ痛いって。すっごい力。敵わない。乙女ってやっぱり非力。「怖がることはない。お前には危害を加えない」 手、放してくれた。ナンデ?「油断させておいて、血を吸う気?」「私にはお前の血など必要ない」「血に飢えた怪物なのでは?」「ああ、われわれはヴァンパイアだから常に血に飢えている。でもそれはお前たちも同じだよ。見なさい、これを」 そいつが布団を剥ぐと中に横たわっていたのは首のない体だった。合掌した手を胸に載せ、浴衣の帯を前にして結んである。体つきから女性? 枕と敷布団が赤黒く染まってる。でも、何故だかグロく見えない。傷口が見えないから? 人形のようだから? もっと近くで見ようと身を乗り出したら、そいつがそっと布団をかぶせ直した。いつの間にかそいつは黒縁メガネのおじさんになってた。男? 辻沢のヴァンパイアなのに?「あたしの友だちはあなたの仲間に殺されの」「そうか、それはすまなかった。そういうことがあるから、われわれはいつまでも安心して寝られない」「それはこっちの台詞」「そうだな。失言だった」「さっきの男がこれを?」「そうだ。私が昨晩、留守にし

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   12-1.ヒビキはゲームにどっぷりはまる

     気に入ってたけどモフモフのシートカバーはシラベの血がべっとりついてたからゴミ箱行き。いつかこの車のインテリア総とっかえしよう。昨晩はマジで危なかったな。レイカのおかげで助かったけど、逆にレイカがこれからどんなになるのか、あたしたちで本当に何とかできるのか不安になる。でも、これはあたしがトール道。これを乗り越えなければ目的は果たせない。 昨晩青墓で一人で偵察に出て、誰もいないはずの受付にジャガーが停まってるの見た時はすぐにでも戻ろうかと思った。でも、会長が肩からボールケースを3つも掛けて車から出て来たから茂みに隠れて様子を伺うことにした。 しばらくすると森の暗闇から、緩慢な動作のたくさんの蛭人間が現れて会長の周りを遠巻きにして集まった。その中の何匹かは、あたしのいた茂みの横をすり抜けて行った奴らだった。ずっと後ろにいやな気配を感じていたんだけど気のせいにしてスルーしてた。危なかった。 蛭人間って、辻沢の風景に自然と溶け込んでいて、そこに居るのにいないような、目の端に捉えているのに気づかないような存在なのかもしれない。昨日の夜は狂暴化して襲って来たけど、突然そうなったんじゃなくて、ずっとそうやって暗闇から辻沢の生活を脅かしてたんじゃないかと思う。 一人夜道を歩いているとき付けられてる気がしたとか、暗い田んぼの中で何かが蠢いたとか、森を車で走るとき木々の間に何かが佇んいる気がするとか。あたしたちは何も気づかぬふりをして、何も見てない体で生活してた。それが言い知れない不安の正体だなんて思いもしないで。 それで会長はどうしたかっていうと、そいつらをいやらしい目でねめつけながら、ボールケースの中から何かを取り出して蛭人間に与えだした。蛭人間たちは猛烈な勢いでそれに群がり貪り食った。蛭人間がたてる気味の悪い音のせいで吐き気がしてきて、あたしは急いで車に戻ったけど、あれは確かに人の生首だった。 今朝はココロの家の駐車場から会長の見張り。この地区、今日燃えるゴミの日なのかな。カラスがうるさい。 カカカ。コァコゥァ。アーアーアー。カカ。コゥァ。アーって、何か喋ってるみたいな鳴き声。 ここからまっすぐのところに会長の家が見える。垣根の中は家族が誰も住まなくなったココ

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   11-8.レイカはメンバのためにヒビキカリンと共闘する

     背中がボロボロになったニットシャツとお尻のとこ血だらけになったデニムの短パンは、ゴミ箱行き。どっちもお気に入りだったのに。  血はウチのでないよ。ウチは、カーミラさんに背中引っ掻かれたけど、ミミズバレですんだ。  カリンが血は転んだとき付いたんじゃないかって。掌とか膝とかにべっとりついてたから。靴にくっついてて持ってきちゃった葉っぱにも血がたくさんついてたし。 セイラ、嫌な顔しないでシャワー使わせてくれた。パジャマもありがとね。   ウチは疲れちゃって、セイラのベット借りてすぐにでも落ちそうになってたら、 「映ってない。やっぱり」 「映らないの? もしかして」 「ドライブレコーダーにも映ってないし」 「ヘッドライトで明るかったもんね。暗さのせいじゃないね」 「ぶつかったのは事実。車の前面ぼこぼこだった」 「新車なのにね」 「ツライよ。まだローン全然返してない」 「拾ったカメラは、ずっとあの場面映してて役に立たない」 「どうして映らないのかな」 「鏡に映らないから、CMOSやCCDにも反応しないのかも」 「試したことなかったね。シオネたちで」 「セイラ、そんな……」 「エビデンスとるのも大変か」 「システムテストしてるわけじゃ」 「ごめんね。つい……」 「ともかく、今回はレイカに助けられた」 「ホント、セイラたちだけなら二人とも死んでた」  次の朝、「スレッター」のトレンドで「強制退会処分」ってのがトップになってて、ソースに、 「重大な規約違反が発覚したため、以下のユーザーを強制退会処分、PTを強制解散処置にいたしました。以降当該情報にアクセスすることはできなくなります」  ってあった。昨晩、実況してたPTも含まれてた。

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   11-7.レイカはメンバのためにヒビキカリンと共闘する

    「あれ、さっきの実況で映ってた倉庫じゃないかな」  ちょっと広めの空き地。動くものはないっぽい。街灯が寂しげだ。 「さっきの実況、やっぱり同じ画面のまんま。うん、あの倉庫でいいみたい」  停めるの? やめとこーよ。降りるの? 絶対ダメだって。降りた人が最初にやられるって思ってると、車の中にもうナンカが潜り込んでて、最初に車の中の人やられて逃げ道なくなって全滅なシチュだから。そうじゃなかったら、降りた途端倉庫からナンカが信じられない数出て来て、みんながやられる中必死で逃げ回って、一人だけ助かったと思ってほっとしたところを土の中とか、木の上とか思わぬ角度から襲われてどのみち全滅なシチュだから。でも、降りるのね。はい? ウチだけ?  「ウチは動画撮らなきゃ。運転もあるし」 「セイラは、ゴマすらなきゃ」  なに言ってんの、あんたたち。とくにセイラ。 結局ウチか。一応武器って、なにこのホーキ。古い枯葉が積もってるから掃いてけって? ショージキいらない。で、なんでカレー☆パンマンの被り物すんの? どっから出て来た?  「レイカ小顔だし、暗くて見えにくいから」  なるほどって被っては見たけれど暑苦しいし見えにくい。ルームミラーにカレー☆パンマンの顔。悪くないね。 懐中電灯持って外。なんか変な臭いしてる。しめった落ち葉が靴にくっついてくる。ウエアブルカメラを探せっていわれてもね、暗くてよくわからないよ。 「もちょっと、左のほうじゃないかな。あ、カレー☆パンマンとホーキ映った。右右、そっち左。そう、そのまま前」  あてずっぽうにそこらじゅうを足ではらってたら、何か蹴った。ころころって。 「レイカ、どうした?」 「何か蹴っちゃったみたい」 「なんで蹴る? それ拾って」  どれ? 見えないよ。ん? なんかにつまづいた。すり鉢だ。ほっとこ。カメラ、カメラはっと。これ? 黒い目玉おやじみたいなやつ。 「それ! それだよ。レイカ。だから、蹴らなくていいから。手で持ってきて」  はいはい。  なんか音した。後ろで。やばいやつかも。ウチ、チョッカン信じてるから

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   11-6.レイカはメンバのためにヒビキカリンと共闘する

     森の中の真っ暗な道をゆっくりと進んで行く。明かりと言ったらヘッドライトだけ。「入れたものの」「ナニすればいいの?」 しばらく行くと、受付の札が立ってるのが見えた。「ちょっと様子見て来るよ」 車を脇に停めてカリンが一人で出て行った。二人きりになるとセイラはカバンからノートパソコン出して、いつもの真っ赤な画面表示させた。それからセイラはスマフォとパソコンで忙しそう。つまんないからウチはシートに横になってたら、「ちょっと! レイカ。やめてよ怖がらすの」 どしたの?「ミラー見たら、消えてるから」「寝転んでただけだよ」「もう」 変なの。 カリンやっと帰って来た。どうしたの? 顔色悪い。「何か分かった?」「収穫なし。『R』のほうはどう?」「だめだね。システム障害の情報だけ。マップも見られなくなってる」「スレッターは?」「こっちは運営へのヒボーチュウショーばっか」「実況は?」「動画のリンクは死んでるっポイ」 やっぱ帰ろ。ここなんだか気分よくない。「あ、ゴメン、PCの位置情報許可してなかった」 セイラ、会社のSEさんみたい。複雑怪奇なパソコン世界の全知全能者。そーいう仕事してるの? ウチ、それさえ聞いてあげてなかった。「F5っと。でた。やっぱりエリア内だと見れるんだ、生実況」 セイラがノートパソコンの手元のちっさい四角い所をこちょこちょいじって操作してる。マウスなくてよくそんなことできるよ。パソコンから声だけ聞こえて来た。〈システム障害の間隙を襲って、我が隊はAH地点を進攻しています。ミッションナンバーは何になるんすかね。後で運営にナンバーつけさせよう。そもそもヤツラの落ち度なんだし〉「カリン、あれ!」  すり鉢男たちがヘッドライトの光を横切って行った。ひょっとして、今実況してた人たち? すぐ暗闇の中に消えちゃったけど驚いた顔してた。ここ本当は車で入る場所でないのかも。 画面を眺めてたセイラ言った。「この

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   11-5.レイカはメンバのためにヒビキカリンと共闘する

     トリマ、ウチらは0時になる前にカリンの車にのって、現地に行ってみることにした。途中でヤオマンBPCってファミレスに寄ってご飯食べようってなったんだけど。なんで? さっき食べなかったっけ。ここでも、カリンとセイラはお肉をモリモリ。ウチはなんだか食べそびれちゃった。もったいなかったけど、残しちゃってカリンにほとんど食べてもらった。 セイラのマンションの前の道に車停めてセイラの準備待ち。 「おまたせー」  セイラが戻ってきた。荷物取りに寄ったの。 「セイラ、何持ってるの?」 「ん? これ? セイラのゴマスリセット。スリコギの絵柄なめネコなんだ。カワイっしょ」  本格スリ鉢とスリコギセット(5400円)、スリコギに「なめてっと、すりつぶすぞ」って書いてある。 「なんで持ってるの?」 「これないとさ、やばい」  なんで?  セイラ助手席にすっぽり収まって、彼女さんみたい。すり鉢抱えてなければのハナシ。 「大丈夫かな。いきなり行って」 『R』(どっぷりだね。こう言うようになっちゃ)に参加するにはいろいろメンドーな手続き(血の団結式とか?)がいって、今夜ってわけにはいかないから、ウチらはオシノビってことらしい。カリンが、 「こっちは辻沢の住人だから、『すみませーん、道に迷っちゃってー』で、とーす」 「住人が道に迷うムジュン」  ってセイラ。 「うっさい、黙れ笑」 宮木野神社前。境内に誰もいなさそう。ジーって虫の声だけしてる。 「たしか、ここがスタート地点のはずだけど」 「『R』見てみよ。何か出てるかも」 「あれ、SIMカード差せっておこられた。レイカどしたのこれ」  ガラケーに差したまんまだった。はい。ガラケー。 「イマドキ、ガラケーって。なんで?」 「だって、そのスマフォ反応悪くって」 「え? それまずいな」  セイラ、あっというまにSIMカード入れ替えちゃった。すごい。 「ぜんぜんフツーに動くよ。接触かな」  どぃうこと? 「まだ

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   11-4.レイカはメンバのためにヒビキカリンと共闘する

     スレッター、例の『スレーヤー・R』ユーザ専用SNS、ちょっと分かったことがあるから見て欲しいって、カリンが。やだなって思ったけど、この間、バス停でカリンが言った「シオネとココロのため」ってのが気になってて。 「ココロやシオネをあんなにした奴がまだのうのうと生きてると思うとね」 「なんで生きてるって思うの?」 「殺したヴァンパイアが死なない限り、ココロやシオネはあのまんまだから」 「それとゲームと何の関係が?」 「そいつがゲーム運営にかかわってる気がするの」  また、気がするなの? パソコンの画面、真っ赤で目が痛い。動画やってる。この間の連中みたいのが暗がりでスリコギ振り回してる。誰と戦ってるの? みんな仲間みたいだけど。あ、万歳した。 〈ミッションレベル1。初の改・ドラキュラ殲滅、成功。このゲームに比べれば、他のARゲームなんかクソでしょ。リアル戦闘感ハンパない。仕留めた時がめっちゃ良き。俺氏、興奮しすぎ? 次は、カーミラ・亜種。第七ヘルシング隊でした〉 〈カケダシガンバレー〉〈みんな知ってるぞ〉〈そのために高額課金に耐えたんだろーが〉〈PT名がオモすぎー〉〈氏ぬなー〉〈いや、むしろ氏んで来い!〉  だって。 「この人たち何やってるの?」 「多分『スレイヤー・R』。リアルサバゲーだよ」 「『スレイヤー・R』?」 「『V』とは違って『R』はゲーマーが実際にフィールドに出てプレーするゲームなんだ」  中の人たち本当に面白いのかな? リアルって言うけどごっこ感強い気がする。 「すごく接近して撮ってるんだね。誰が撮ってるの?」 「ゲーマー自身が身に着けるカメラで撮ってるから」 「ウエアラブルカメラ。ゴリプロっていうやつ。ヤオマンでも売ってるよ」 「これって、どっかのテーマパークでやってるの?」 「何言ってんの? レイカは。辻沢だよ。辻沢町全域がフィールド」 「この間、こいつらに遭ったじゃん。すり鉢被った奴ら」  おこられた。しょぼん。 「他に聞きたいことある?」  ないけど、ない

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   11-3.レイカはメンバのためにヒビキカリンと共闘する

     台所からカリンの声は聞こえない。お母さんのすすり泣きの合間に聞こえてくる、 「……優良企業の正社員に……そろそろ、いい人見つけて……お付き合いしてる人は」 みたいなこと、ウチもママによく言われたよ。  セイラは、カリンのPC立ち上げて真っ赤な画面ずっと見てる。カリンの部屋初めて。壁に大きなお札貼ってある。霊媒師さんからもらったのかな。  他にすることなくて、カリンの本棚物色。『ネコの医学』、『動物学大全』、『動物医療の最前線』、『獣医のこころえ』。ずいぶん難しそーな本読んでる。ウチ、難しい本読むと頭の中でせせらぎの音がサラサラサラってずっとしてるから、頭に入ってこない。 『女バスな人にも分かる! 経営学入門』だって。 これなら読めそう。 あ、これはー、うしし。 『ココロとカリンの交換日記No.1』。 表紙、めっちゃデコってあってココロの字で「夢」。ココロ、こういうオトメ好きだった。何書いてあるんだろ。  カリンが部屋に入ってきた。やば。カリンは壁のお札を目にすると舌打ちして剥がし、ゴミ箱に放り込んだ。ナイスシュート。カリンこわい顔。 「麦茶しかなかった」  お盆にコップ3つ。ウチ、いらないです。 「レイカ。そのノート、見てもいいよ」  こういうのなんて言うんだっけ。ジゴショーダク? なんか、トーサツした気分。カリンたらウチの横来てノートを開いて。だから、ゴメンって。 「ちがうんだ。見て欲しかった。ココロが何をしたかったか。あんなにならなかったら、今頃、どんなになってたか」  わかった見るよ。そんなに急かさなくっても。 「ココロとウチの夢の実現ノート」  カリンがノートのページを指して、 「『No.1』の最初のページ。『カリンの夢、獣医さん。ココロの夢、ネコカフェ。二人の夢、ネコにゃんリゾート(仮称)の経営』。乙女でしょ、ココロ。ウチ、獣医さんなんて夢、持ってなかったんだ。でも、ココロと一緒だったらウチもやってみようって」  そうだったんだ。全然知らなかった。  ノートの内容、全然乙女じゃなかった。バスケノートみ

  • ザ・ラストゲーム・オブ・ 辻女ヴァンパイアーズ   11-2.レイカはメンバのためにヒビキカリンと共闘する

     ミワちゃんとナナミは、またまた用事があるって先に帰っちゃった。取り残されたウチらはカラオケ行ったけど、すぐ飽きちゃって『この花』の主題歌みんなで歌ってお開きにした。泣けた。 「レイカ。あのね」 「セイラ。ゲームなら」  そんなだから、ミワちゃんたちも。 「分かってる、でも」  カリンがセイラを制して、 「レイカ、今日、車あるから送るよ」  ありゃりゃ、まだ9時じゃん。ニーニーのいるあそこに戻るの、やだな。 「ゴメン。カリンち、泊めてくれないかな」 「え? いいけど。汚いよ」 「それなら、セイラも行く」 「PK?」 「なに?」 「PKってく?」 「パンツ買って行くでPKは無理あるよ」  うわー。ムラサキの軽自動車だ。これがカリンの車? ウチ、後ろ乗るー。おっと、横に開くのね、このドア。バスケのボール置いてある。わかるよ。女バス出身者の心のよりどころだもんね。ガーーバン。ふーん、中こんななんだ。わりと広いね。天井も高いよ。アタマ、ほれ、ほれ。届かない。座席もっふもふのふっかふか。気持ちいー。 「ナニあばれてんのよ。レイカ」 「ごめん。つい」  カリンが運転してる。コーコーの同級生が運転する車に乗るのって変な感じする。ってか、カリンの運転アライ。酔った、テキメンニ。 途中一回エチケットタイム設けてもらったけど、何とかたどり着いた。カリンの家は、東揚屋団地。お母さんと二人暮らし。 「入りなよ」 「おじゃましまーす」 「おじゃましまーす」(小声)。 「おかーさん、ただいま」 「夜分にすみません。お邪魔します」 「あら、カリン。おかえ……。ひいーーーーーーーー!」  おかーさん、奥に行ってドア閉めちゃた。 「あ、やっば。このかっこ」  そっか、「血塗られたJK」じゃやばいよね。 ゴリゴリゴリゴリ。 「すぎこぎごりごりもうすぐあさがごりごり……」  カリンのおかーさんてば台所の隅ですり鉢抱えて、

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