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理想郷のため、成子は東京へ

last update Last Updated: 2025-06-27 06:30:22

殺されると思い、

震えが止まらない。

以前この部屋でお湯を張った浴槽に沈められ、

コンセントに挿したドライヤーを放り込まれ、

感電死した女を思い出した。

彼女の肉を肉団子と液体にするため、

山奥で煮込み、

ミンチにしたことを思い出した。

妻である自分がそんな目に遭うとは考えられないが、

どうなるか分からない。

今まで何人もの死を見届けて来たからだ。

正座をしていると、

うなじに熱さを伴った鋭い痛みを感じた。

スタンガンの電極を当てられ通電されたようだ。

遠くの方でバリバリという音が聞こえた。

電気を流されていると、

脳が一瞬働かなくなって少し遅れて音を感知する。

成子が痛みに耐えるために背中を丸めて悶えていると、

髪の毛を引っ張られて無理矢理顔を上げさせられた。

ユウコが髪の毛を握っている手とは反対の手に、

夫が作ったディルドが握られていた。

棒状の器具を見た瞬間、

嫌な記憶が蘇る。

「それだけはやめて」

必死で訴えるも、

恍惚に満ちた表情のユウコの耳に届くことはないようだ。

彼女は成子の口の中にディルドを突っ込んだ。

口蓋垂をディルドの先端で弄られ、

おえっと声が出る。

ニーヒッニーヒッ、

と笑う彼女はディルドに付いているボタンを押した。

これは夫が細工したディルドだ。

陰茎の根本にボタンが付いており、

ボタンを押すと先端からアンモニア水が発射するようにできている。

濃度は三十パーセントだ。

喉に苦くて生っぽい激痛が走る。

成子は思わず嘔吐物が顎を濡らした。

喉が焼けるようだった。

「ユウコありがとう。

もういいぞ。

今夜は君と一緒に寝てあげるからな」

夫の声が頭上から聞こえた。

見上げると、

ユウコは先程サヤカに噛み千切られた頬の傷口を夫に舐めてもらっていた。

「成子。

佳苗のことはサヤカに任せることにする。

お前には別件で頼みたいことがある」

「はい、

何でしょう」

「お前、

東京に行きたいって昔言ってたよな」

夫と同棲し始めた時、

一緒に東京で暮らそうと頼んだことがあった。

その望みは叶えられなかった。

だが今ではどうでも良い。

「ええ。でも、それは昔の話」

「今はどうだ?」

「行きたくはないですね。

貴方様と一緒にいたいからです」

夫は明らかに苛立った表情をした。

行きたいと言うべきだったようだ。

だが、

彼と別れて暮らしたくないというのが正直な気持ちだ。

彼と離れ離れになったら今までの頑張りは何だったのか分からなくなる。

成子は夫と一緒に暮らすために自分を犠牲にして来た。

王子様のような外見をした彼と暮らす日々が夢だった。

夢のためにはどんな犠牲も厭わなかった。

成子は夫との生活のために様々なものを捨て去って来た。

彼女の恋慕の気持ちなど考慮せず、

夫は成子の太くてスライムみたいな首を右手で鷲掴みにした。

彼女は驚いて口を大きく開けた。

ユウコが再び口の中に太めのディルドを突っ込んだ。

彼女の喉の奥まで突く。

「おえ、げっ」

アンモニア水を飲んで思わず口から涎と一緒に橙色の嘔吐物が飛び散った。

「東京に行くことが夢だったんだろ」

「はい」

夫の言うことを否定してはいけない。

彼との生活の中で自我を捨て去った。

「行くか?

全ての費用は出す。

そんで必要な役者も揃える」

「はい」

どうして東京に行くように言われたのか理由は分からなかった。

何か意味があることは分かっているのだが、

全く予想ができない。

彼の思考回路が読めない。

そんな自分の状況が悲しい。

夫のことは妻である自分が一番分かっていないといけないのに。

「東京でも連絡だけは取ろう」

夫は笑顔で嬉しいことを言ってくれた。

「良いのですか」

口角から唾液を垂らしながら喋る。

「良い考えがあるんだ」

東京に行っても何でも言うことを聞こうと決めた。

「大量の馬鹿を捕らえて来てもらおうと思っているんだ。

馬鹿なんて世の中に蟻みたいにいるからな。

一緒に蟻地獄でも作って馬鹿ばかりのユートピアを作ろうじゃないか。

もちろん自分たちだけの理想郷だ。

別に金が目当てとか世の中に恨みがあるとか、

目的があるんじゃない。

ただ僕が生きる世の中にいる人たちの人生を腐らせたいだけなんだ」

夫は浴室の中で両手を広げて、

全身で照明のオレンジ色の光を浴びながら宣言した。

大望を抱く彼は魅力的に見えて仕方がない。

彼に好かれるためには、

失敗は許されない。

恋心を昔のように抱いてもらうため、

東京で彼にとっての理想郷を作ってみせようと決心をした。

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