(もうそろそろ、彼からメッセージ来るかなぁ……?)
淡い期待に……とふと思っていたら、ピコンっとスマートフォンからLIMEの通知が鳴っていた。
そろそろ辺りは真っ暗になる頃だった。
恭弥さんからメッセージが届いていたから、手に取って確認をする。
恭弥さん「お疲れ。今、何してる?」
私「今、晩御飯を食べてる最中。この後、星空観察するから暗くなるの待っているの」
恭弥さん「そっか、なるほど。今日は昼間も曇りが一切無かったから良い天気だったね」
私「うん。でも外はまだ寒くて冷えるからカイロ持って温めてる。あと、今日の晩ごはんにカレーラーメンのカップ麺を食べて身体を温めてた」
少し行儀が悪いけど、麺を食べ切ったカップ麺の残りスープを飲みながら彼に返事を送る。
もう少しで晩ごはんの食べ終わりが近い。
でも、スープはゆっくり味わいながら最後まで飲み干していこうと思う。
恭弥さん「だったらストーブ出せば良かったのに……。と言っても、家の炬燵の方が寛げられるか(笑)」
私「うーん、というか……炬燵で過ごす以前に、そもそも電源コードとかが無い」
恭弥さん「そうだった。今度、電源コードをどうするか検討もしないとなぁ。あれば便利なんだけどねぇ」
私「うん」
(と言っても……恭弥さん、こっちに帰って来る予定はいつなのだろう……)
なぁんてなことを思っていたら、またしても彼から返事が届いた。
今度は思いがけない内容だった。
恭弥さん「次の休みなんだけど」
私「うん?」
恭弥さん「今度、誕生日期間だから一週間をひとまず貰えるようにしたよ。その時に久しぶりに買い物とかしよう」
私「恭さん、今回も休みを貰えたの?」
恭弥さん「あぁ、もちろん。てか、毎年この時期は貰えるようにしてるだろ?(笑)」
私「そうだね」
確かに、毎年の記念日など大切な日は必ず帰ってくるようにしてもらっている。
ただ、どうしても都合がつかない時があったりすることも……。
その場合は、代わりにリクエストしてプレゼントを送ってもらうことがある。
恭弥さん「なぁ、空」
私「なに?」
恭弥さん「今日の星空、北斗七星が見えるね。初めて、空が家に来た頃を思い出すなぁ……」
(あっ……そうだった。私が初めて星空を見て感動した星座……)
彼も私と一緒で、休憩の合間に眺めているのかなと想像する。
恭弥さん「じゃあ、そろそろ俺は残りの仕事を終わらせてくる。ゆっくり眺めてね。あと寒くなるから風邪引かないように」
私「うん、ありがとう。夜もお仕事頑張って」
これで今日の分のメッセージを送信し終えた。
この後、私は食後のコーヒータイムに取り掛かろうと思う。
同じコッヘルに水を入れ、火をつけてお湯を沸かした。
今回選んだコーヒーは、赤いパッケージの袋に入ったコーヒー粉。
(コレを、今日初めて飲むコーヒー……どんな味だろう?)
先月、恭弥さんから送ってくれたものだ。
香りは、その袋に「キャラメルバニラ」と英語表記で記されている。
私自身コーヒーの製品については、そんなに詳しくない。
自分が飲みやすいかどうかくらいしか、判断が出来ないレベル。
恭弥さんはそれをわかっていたのか、私でも味が好みそうなものとオススメしてくれた品物だ。
(恭弥さんって、色んなこと知ってるんだね……私の好みの味も)
私は苦いものより、少し甘い方が好き。
ステンレス製のマグカップに、百均で買った茶色いプラスチック製のコーヒードリッパーを乗せる。
その中へドリップ用のペーパーをセットした。
コーヒーの粉を計量スプーンで計りながらセットしたペーパーの中に入れる。
(一人分の量だから、これぐらいでいいかな?)
あとは、お湯が沸騰したら飲める態勢だ。
今はまだ、小さな泡が出始めたところ。
沸いてくるまで、あともう少し。
(誕生日は恭弥さんとお出かけデート……。楽しみだけど、それより早く会いたい……)
今は、会えない寂しさで少し悶々している。
でも久しぶりに会ったら、私が緊張してお湯のように沸いちゃうのだろうか。
ちょっと恥ずかしいかも……なんて思っている内にボコボコと大きい泡の出る音がした。
(あっ、もうお湯が沸いてきた)
沸いたお湯をドリッパーに入れたコーヒーの粉へゆっくり注いていく。
注いだコーヒーの粉から、ふわっとキャラメルの甘い香りが漂ってきた。
(いい匂い……! この香り、キャラメルが甘い……。うっとりする)
全て注ぎ終わり、ミルクを入れてひと息……。
(はぁ……コーヒーを飲むとホッとする。落ち着くなぁ……)
寒さの中、温かいコーヒーを飲むひと時も悪くない。
むしろ、その温かさから私や色んな人の心を落ち着かせてくれる。
ようやく薄暗かった夜空の景色が一段と深まってきた。
さっきまではまるで密かに隠れていたであろう、星が次々と鮮やかに見えてくる。
(あっ! やっとハッキリ見えてきた。あの時と同じ……)
夜空一面にあちこちと星が散りばめられている。
この時期の象徴でもある春の大三角形が簡単に見つけられた。
恭弥さんとの思い出の一つ、北斗七星も美しい。
今日の星空は、一段とキラキラと輝いている。
初めて見たあの日の星空の出会いと同じように……。
私は、そんな気がした。
――恭弥さんと紡いだ思い出が、夜空に詰まっているのだから……。
緩やかな坂道を登りきった後、ショッピング施設の入口の反対側にある裏手へ行く。そのまま真っ直ぐ行くと、カフェレストランの入口へ着いた。営業時間帯はまだカフェタイム……と言っても、あと一時間ぐらいで終わってしまう。メニューを確認してると、私たちを見かけた店員さんが扉を開け声をかけてくれた。「本日のカフェタイムで提供できるデザートメニューは、残りのドライフルーツのパウンドケーキのみになりますが……いかがでしょうか?」「あぁ、まぁ……とりあえず入ろうか」私はコクっと深く頷いた。恭弥さんは入りますとゴーサインを出し、カフェレストランコーナーへ入ることにした。「お席は空いてる所へどうぞ」(どこにしようかな……あ、ここにしよう)店員さんがそういうと良さそうな席を選ぶように、私は周りを見回す。景色も眺められそうな窓側の席へ指定した。「おっ、外の景色も見えるんだな」「うん、だからここにした」「いいじゃない?」そして店員さんが水を持ってきて早速、注文を取ろうとする。「ご注文はお決まりですか?」「デザートはパウンドケーキのみでしたっけ?」恭弥さんは、その店員さんに質問をかける。「そうですね、他の二つは生憎既に完売してしまいまして……」そう言って、店員さんは申し訳ございませんと頭を下げた。ちなみに完売した他の二つのデザートは、ガトーショコラとベイクドチーズケーキだった。
今日は恭弥さんとドライブも兼ねてのお出かけ。だけど……。「え~……今この辺だけどさぁ~……コレ、どこへ行こうとしてるんだ?」彼と、行きたい目的地の専用駐車場へ向かおうとしているはずだった。しかし、今はそこと別の駐車場付近に居る。コレはつまり、完全に迷ってしまった。車に搭載しているカーナビとスマホのマップアプリで検索したものを照らし合わせている最中だ。(曲がる場所が複雑すぎる……ナビでも難しいなんて)どうやら高速道路のジャンクションらしい所を通ると、すぐ目の前が目的地の駐車場。だが、そこへ辿り着くまで少々ややこしい……。というのも、曲がる場所を間違えてしまうと高速道路に向かう方向へ入ってしまうそうだ。「とりあえず、私も地図見ながら案内のサポートするからゆっくり前へ進んでみよう?」「ん……わかった」そんな訳で、少々不機嫌で難しそうな顔の恭弥さんは運転を再開。私も慎重にフォローをしないといけない。(とりあえず、道の曲がる場所を正しく誘導出来るのを頑張ろう)「恭弥さん、ここを左に……」「ん? ここ?」「そう、ここ」私は曲がるタイミングを伝えながらサポートをしていく。今日は前から行ってみたかった、隣の市にある大きな公園内のフィールドパーク。昨年九月頃にオープンしたものの、予定がなかなか合わなくて行けずじまいだった。(あぁ、やっと恭弥さんと予定の合う日が出来
——タイマーの待ち時間、彼は私たちの出会いを語ろうと提案してくれた。「俺らって、初めて会ったのは何年前だっけ?」「確か……」そう、あれは出版社の創立記念パーティーのこと。「乾杯!」私は当時、編集社員としてまだ一年か二年目くらいの頃だった。重要な事情がない限り、全社員はそのパーティーへ出席していた。(うぅ……。コミュ障の私にとって雪絵さんがいないと心細いなぁ)しかし、当の本人は別の事情あってどうしても出られないという理由で欠席。彼女以外の仲の良い人は一人も居なくて困っていた。乾杯の挨拶など進行通りに進めた後、歓談会へとフリータイムになった。(どうしよう……。私から話しかけるのも……怖い)その時のことだった。一人の男性から、私が一人でいるのを見かけて声を掛けてきた。「ねぇ。君、一人?」「は、はい……」黒のスーツ姿に紅色のネクタイで締めていて、まるでバーテンダーの佇まい。そして彼の手には、ネックホルダー付きの立派な一眼レフのカメラも持っていた。彼の顔から、優しそうな目の眼差しと柔らかい微笑みを見せる。それが、後の夫・恭弥さんだった。当時の彼は、パーティーの出席者兼写真撮影の担当として呼ばれていた。私はふと、その当時のことで一つ疑問に思っていた。「そういえば、あの時、なんで声を掛けてくれたの?」「ん? あぁ、一人だったからのもあるけど……」「けど?」恭弥さんの顔を少し覗き込むと、なぜか少し頬が赤い。「
——次の日の午後。いよいよパーティーの当日がやってきた。恭弥さんは外の収納庫で、キャンプの道具を取り出してメッシュタープなど設営に勤しんでいる。私はキッチンでの作業として、二品のメニューを庭で料理できるように材料の下準備をする。(恭弥さんの料理は楽しみ! だけど、私の作る料理は……大丈夫かな?)緊張も相まって手が少し震えるけど、ひとまず調理から始めなきゃだ。まずは、ローストチキンの下ごしらえから。(えーと、鶏肉に使う調味料はコレだけかな?)……というのもチキンをスパイスやオリーブオイルにつけて、ある程度寝かさないといけないからだ。私は手袋をはめ、鶏肉をフォークで何箇所か突いてからポリ袋の中に入れる。その中にオリーブオイルやハーブソルト、胡椒、ローズマリーを加えて揉みこんでしばらく置いておく。次は、野菜を切る作業に入る。(昨日買った野菜だけど、皮も食べられる新じゃがを選んだんだね)新じゃがをしっかり水で土落としをして、食べられる一口ぐらいのサイズに切っていった。人参はジャガイモよりも少し小さく乱切りにし、ブロッコリーは軸から切り落として小分けに切っていった。野菜も、ジップ付きの袋にまとめて入れた。(ローストチキンに使う食材の準備は完了。次は、パエリアの下ごしらえ……)量の少ないものを作るのは、意外と容易ではなかったりする。玉ねぎをみじん切りにしておいてから、パプリカを切る。(パプリカは四分の一以下ぐらいしか使わないから残りは冷凍しておこう)
——ある記念日の前日。私と恭弥さんは、今スーパーで食材を買いに行っている。なぜなら、夫婦にとって重要なイベントの準備をしている最中だ。それは……次の日に行う私達の結婚記念日。いつもならレストランで予約を取ったりしている。けれど、今年はちょっとした事情があった。 ◇ ◆ ◇ ——遡ることある日、私が晩御飯を食べている時間。この日のおかずは、人参やジャガイモの入った煮込みハンバーグ。リビングでテレビを見ながら、のんびりと頬張っていた。その最中にピコンっと、スマホから通知音が鳴った。(あっ、恭弥さんからだ)恭弥さん「空、今LIMEしても大丈夫?」私「うん、大丈夫だけど……どうしたの?」何となくだけど、彼がちょっと焦っているような気がした。そして、次のメッセージを見て腑に落ちた。恭弥さん「いつも予約しているレストランなんだけど、今年は臨時休業で予約取れなくなったんだ」私「え? そうなの?」恭弥さん「なんか、オーナーシェフが言うにはお店の設備点検らしい」恭弥さんが予約をしようとしているレストラン。その店は仕事関係も含め、私達が懇意しているイタリア料理のカジュアルレストランだ。夫婦で営む一軒家の小さなお店を構え、コース料理を売りにしている。味は一級品なのに、値段が手の届く範囲のリーズナブル。なんでもオーナーシェフは、下積み時代にホテルや有名料理店で修行を積んでいたらしい。オーナーの奥様も、パティシエのスタッフとして店を手伝っている優しい方である
——カシャッ、タンッ、タンタン。(うん、この写真がいいからこれにして……送信っと!)私はスマートフォンのカメラで、出来上がったカレーライスの写真を数枚撮る。写りのいいいものを選択して、恭弥さんにLIMEで送った。もちろん、メッセージも添えて……。(あとは返事が来るまで待つ……その間冷めないうちに食べてしまおう)彼からの返信を待ちながら、カレーライスを食べることにする。「いただきます」手を合わせて食事の挨拶をした後、カレーの皿に添えた木製のスプーンを手に取る。カレーとご飯の狭間の部分をひと口分すくって口へ運ぶ。(おぉ! ガラムマサラをかけたことで、ピリッとしたスパイシーさが増してる)でもそんなに嫌な辛さはなく、大人なら誰でも食べられる辛味が良い。それも加え奥にある甘みや酸味、旨味といったコクのハーモニーが上手く調和されている。(くぅぅ~、やっぱりカレーは美味しいから最高!)一口食べるごとに、どんどん食欲が増していく。時折、カレーに添えた甘めの福神漬けで食感を変えるととまらない。これを食べて、今年も夏バテから乗り越えられたらいいなぁと思っている。——カレーライスを半分くらい食べた頃……。ピコンッ!スマホからメッセージの通知がきた。(あっ、恭弥さんからだ! どんな返事が来たかなぁ?)