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last update 最終更新日: 2025-11-17 06:00:42
 誰かがグラスを落としたような乾いた音が会場に響いた。会場の空気がぴんと張り詰めていたのに、そのせいで崩れてしまった。せっかく犯人をあぶり出そうとしたのに台無しだ。舌打ちしたいのを堪え、一成は言葉を続ける。その声は静かなのに、まるで全員の喉元に刃を当てるように鋭かった。

「東条家が没落した理由は、借金ではありません。それを偽って流布した者がいます。僕はその真相を必ず突き止めるつもりです」

 ざわっ……!

 動揺の波が一瞬で走る。

 綾音の指先が、扇子を強く握りしめた拍子に震えた。

 京の喉が、ごくりと鳴る。

(な、なによ……そんな話、聞いてない。東条なんてただの没落家門だってお母さまが言っていたのに……)

 綾音の心臓が嫌な鼓動を打ち始めた。

 一成は、あえて間を置き、ゆっくりと視線を会場全体へ滑らせる。

「確かな証言が少しずつ集まってきています。

 ――誰が東条家を追い詰めたのか。

 ――誰が嘘を広めたのか。

 ――誰が生き残った幼い娘を死んだことにして隠そうとしたのか」

 その言葉に、綾音と京の背筋が跳ねた。心当たりでもあるのだろうか。

 美桜の手は小さく震えていたが、一成はそっと包むように握り返し、安心させるように親指でやさしく撫でた。

「美桜。大丈夫だよ」

 その一言だけで、胸の奥の不安が薄れる。

 彼の声は、嵐の中で傘を差してくれるみたいに心強かった。

「幼い美桜を連れ去り、利用した者や、彼女の家を踏みつけにして利益を得た者。今日この場には、その関係者も来ているはずです。今ここで名乗り出るのは難しいでしょうが、なにか情報を知っているなら、僕の元へ来ていただきたい」

 ざわつく会場。

 震える扇子の綾音。

 目を細める桐島京。

 静かに耳をそばだてる財界人たち。

 一成は美桜だけがわかる程度の声で囁いた。

「見てごらん、美桜。嘘をついた人間ほど、今いちばん顔色が悪い」

 美桜がそっと視線を上げると、本当にそうだった。

 濃紺のドレスを着た奥方が青ざめ、桐島京は表情を作り直すのに必死。

 綾音にいたっては、唇が震えている。

 一成はあえて彼女たちに目を向けず、ただしっかりと会場中央に立ち続けた。

「真相に辿り着く情報を提供していただいた者には、金一封を差し上げましょう。但し、有益だとみなした場合に限ります。もちろん、その情報がとても有益で犯
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