Share

82

last update Date de publication: 2025-12-16 06:00:25

 美桜の中に初めて一成が入ってきた。

 狂おしいほどの情熱に包まれ、京の時には得られなかった悦びを感じる。剛直に貫かれ、一成の背中に跡が付くほどしがみついた。溢れる蜜が体を濡らしていくのがわかる。

 一成が触れるたび、囁く声が耳に落ちるたび、心の奥底にしまい込んでいたなにかがほどけていく。

 京との夜にはなかった、自分が愛されていると実感できる幸福が、波のように押し寄せてきた。

 苦しかった過去が、ゆっくりと塗り替えられていくような感覚。

 一成は美桜の震えを受け止めながら、まるで宝物に触れるみたいにやさしく、それでいて熱く抱き寄せた。

「愛しているよ、美桜」

 その一言だけで、胸の奥が熱くなる。

Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé

Latest chapter

  • ニセ夫に捨てられた私、双子と帝都一の富豪に溺愛されています   97

     その言葉に、美桜は思わず笑った。「ふふ……あなたたち、本当にそっくりね」 双子は顔を見合わせ、どちらからともなく美桜の裾を握る。 「だって、おかあさまがだいすきなの」 「ずっと、いっしょにいるの」  胸の奥が、じんわりと温かくなる。 ――東条家が没落したあの日、すべてを失ったと思った。名前も、家も、居場所も、未来も。 けれど今。 愛される日常。  守るべき命。  信じ合える人たち。 それは、誰かを蹴落として得たものではない。  踏みにじられながらも、立ち上がり、手を取り合って積み重ねてきた時間の結晶だった。  帝都一の富豪の夫と、その子供のふたりに、自分は溺愛されている、と感じる。「美桜」  一成が、穏やかな声で呼ぶ。「これから先、どんなことがあっても僕たちは一緒だ」「ありがとう」 短い言葉だったが、そこにはすべてが詰まっていた。 双子の小さな手を左右に感じながら、美桜は催事場を見渡す。  笑顔で談笑する人々。  《花桜》の服を手に取り、未来の子どもたちを思い浮かべる母親たち。(お父さま、お母さま……) 心の中で、そっと呼びかける。(主人のおかげで、東条の工場や技術がこうやって蘇りました。これからもずっと、末永く、子供たちの未来までお守りください) 東条家は過去の悲劇では終わらなかった。絶望は、終点ではなかった。 それを証明するように、温かな愛情が柔らか美桜を包み込む。「さあ」 一成が微笑む。「みんなに挨拶をしに行こうか」「はい。あなたもご挨拶をお願いします」 美桜は頷き、背筋を伸ばした。 もう、怯える令嬢ではない。  誰かの影に隠れる必要もない。 彼女は、愛され、守り、そして未来を創る女性なのだから。 双子の手を引き、夫と並んで歩き出す。 帝都の春は、穏やかで、明るい。 花は散っても、また咲く。  想いは、次の世代へと受け継がれていく。 咲き誇る《花桜》のように―― -完-永らくのご愛読、誠にありがとうございました。

  • ニセ夫に捨てられた私、双子と帝都一の富豪に溺愛されています   96

     三年後。帝都に、また春が訪れていた。 浅野商会が手がける新設デパートは、今や帝都の象徴となり、その最上階に設けられた催事場には、朝から多くの人々が集まっていた。  あれから西条家は失脚し、綾音たちは路頭に迷い、その末路を知るものはいない。  桐島家も同様。世間からは見放され、地方の田舎で貴族たちにこき使われながら質素に暮らしているという風の噂だ。康臣は犯した罪の重さから、まだ獄中にある。京や薫子、綾音たちは存分に贅沢な中で生きてきた。これから先の人生までも、絶望に至っていることだろう。 もちろん、彼らの人生の末路など、一成たちの頭からは抜け去っている。世間も彼らのことは忘れていた。 美桜もまた然り。本日はデパートで催事がある。  彼女が立ち上げた子ども服ブランド《花桜(HANAZAKURA)》の披露パーティーがあるのだ。 かつて没落令嬢と呼ばれ、すべてを失った少女は、今や東条紡績会社の創業者として、そして浅野家の女主人として、この場に立っている。 彼女の足元で、二人の子どもが小さな声で笑った。「おかあさま、あれが、わたくしたちのふく?」「そうよ。今日は、あなたたちが主役なの」

  • ニセ夫に捨てられた私、双子と帝都一の富豪に溺愛されています   95

     翌朝。帝都の朝は、これまでになくざわめいていた。 新聞売りの声が通りに響き、見出しを見た人々が足を止める。『名家 西条・桐島 両家の闇』『東条家没落の真相、ついに白日の下に』『西条康臣 逮捕――帝都政財界に激震』 それは誰の目にも明らかな「終わり」と、「始まり」の知らせだった。 浅野邸の庭では、やわらかな陽光の下、美桜が双子をあやしていた。 小さな手が彼女の指を掴み、無邪気に笑う。「平和ね」 ぽつりと零したその言葉に、一成が背後から微笑む。「ああ。やっと、ここまで来た」 美桜の肩にそっと手を置き、庭の先の空を仰ぐ。「君が一人で背負ってきたものを、ようやく下ろせたな」 美桜は双子を胸に抱き、ゆっくりと頷いた。&

  • ニセ夫に捨てられた私、双子と帝都一の富豪に溺愛されています   94

  • ニセ夫に捨てられた私、双子と帝都一の富豪に溺愛されています   93

     そのときだった。「――美桜様っ!!」 駆け足の音とともに、聞き慣れた声が広間に響いた。次の瞬間、勢いよく飛び込んできた洋子が、美桜の姿を見つけるなり目を見開く。「……っ、美桜様ぁ……!!」 躊躇は一切なかった。  洋子はそのまま美桜に抱きつき、ぎゅっと腕を回した。「よかった……よかったです……!! ご無事で……っ……!!」 肩を震わせ、声を殺しながら泣く洋子の背中に、美桜はそっと手を回した。「洋子さん……心配をかけてごめんなさい」「違います……! 美桜様を守ると決めていたのに……私が……私がわる……っ……」 自分を責める言葉は、嗚咽に紛れて途切れ途切れになる。「洋子さん」 美桜は少しだけ距離を取り、真っ直ぐ彼女の目を見た。&

  • ニセ夫に捨てられた私、双子と帝都一の富豪に溺愛されています   92

     一成の腕の中で美桜はようやく息をついた。 胸いっぱいに溜め込んでいた恐怖と緊張が、遅れて押し寄せてくる。「来てくれてありがとう。よく見つけてくれたね」「当たり前だ。君がどこに行こうと、必ず見つけ出すよ」 一成はそう言って、美桜の額にそっと額を重ねた。 その仕草は、夫としての確信と、失うことへの恐怖が混じったものだった。 背後では康臣が床に押さえつけられ、なおも喚き散らしている。「放せ! 儂を誰だと思っている!! 浅野ごときに、この西条を裁く資格があるか!!」 その叫びに、京がかすれた声で笑った。「まだ、そんなことを言ってるのか……」 京は肩を押さえながら、ゆっくりと上体を起こした。足も撃たれているので相当重症だ。 血に濡れ、息も絶え絶えだが、その目には不思議な落ち着きが宿っていた。「あんたは……なーんもわかってない」 康臣が睨みつける。「黙れ! 裏切り者が!!」「それはこっちの台詞だ」 京は視線を逸らさず、はっきりと言った。「人を道具にして裏切って……全部壊したのは、あんただろ」 吐き捨てるように言った。「俺は証言するよ」 どうせ自分が証言しなくても、一成が美桜のために証拠を手に入れるだろう。「……もう俺もあんたも終わりなんだよ」 静かな言葉だった。 だが、その一言は、康臣を確実に締め上げた。「京様」 美桜が名を呼ぶ。京はほんの一瞬だけ、昔の面影を残した笑みを浮かべた。「全部話す」 一成が静かに頷いた。「それがいい。君自身の罪と向き合う唯一の道だ」 京は深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。「もう終わりにしたい……うっ……」 痛

  • ニセ夫に捨てられた私、双子と帝都一の富豪に溺愛されています   88

     早瀬は洋子と別れたあと、最短距離で一成のもとへ駆けた。  昼の帝都は人で溢れているが、今の彼の視界には何も映らない。ただ、最悪の事態を避けるために、一秒でも早く辿り着かなければならなかった。「旦那様!」 曲がり角

    last updateDernière mise à jour : 2026-04-03
  • ニセ夫に捨てられた私、双子と帝都一の富豪に溺愛されています   50

     翌日。帝国ホテル大広間――。  現在の日本を象徴とする、粋で贅を極めた社交場。煌めくシャンデリアの下、大勢の事業家・その家族が集まった。  赤い絨毯を踏みしめる靴音が絶えず響き、笑い声と楽団の調べが混ざり合う。 美桜はその光景に身が固くなる。金と名誉をまとった人々の間に、己

    last updateDernière mise à jour : 2026-03-25
  • ニセ夫に捨てられた私、双子と帝都一の富豪に溺愛されています   41

     その後、2人の様子を眺めていた館長がカメラから顔を上げ、うっとりと呟いた。「……まるで外国映画のワンシーンのようですね。これは、ぜひできあがった写真を、ここへ飾らせていただきたい」「えっ……か、飾るの……ですか?」  美桜の頬が瞬く間に紅潮した。 一成は小さく笑い、館長に向き直る。「光栄です。ただ、彼女は少し照れ屋なんですよ。そこがまたかわいくて。今妊娠していますから、今日はここで写真に残せてよかった」「そ、そんなこと……!」美桜は慌てて首を振る。  しかも妊娠していると他人に告げるとは…まるで自分が父親化のような口ぶりで美桜は困惑した。 「君の美しさは誰もが認めている。現に館長

    last updateDernière mise à jour : 2026-03-23
  • ニセ夫に捨てられた私、双子と帝都一の富豪に溺愛されています   67

     「一成がここへ来た、ですって?」  薫子の顔から血の気が引いた。  京は喉をひゅっと震わせ、情けない声を漏らす。

    last updateDernière mise à jour : 2026-03-29
Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status