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幼い原石

Author: 一一
last update publish date: 2025-06-19 21:00:00

 窓から差し込む夕日に照らされ、レイは目を開ける。

 どうやら、ここは今朝まで居た宿屋の一室の様だった。

 辺りを見回そうとするが、全身に激痛が走り上手く動けない。

 朦朧とした意識が痛みでハッキリしていくにつれ、意識を失う前の出来事を思い出してくる。

 そう、確か自分はニイルに言われランシュとの戦闘中だった筈……

「あ、起きたみたいだね」

 横から声を掛けられそちらに意識を向けると、フィオがこちらの様子を伺っていた。

「君、あれから半日近く寝ていたんだよ?部屋には鍵が掛かってたからアタシの部屋に連れて来たの。今2人を呼んで来るから待ってて!」

 そう言って部屋から出て行くフィオ。

 1人になり落ち着いてきた所で、ようやく頭が冴え意識もしっかりしてきた。

 そうして1つの事実に気付く。

「そっか……私、負けたんだ……」

 意識を失う直前、顎にとてつもない衝撃を受けたのを覚えている。

 恐らく、ランシュのアッパーをモロに受けてしまったのだろう。

 顎に残る激痛がそれを物語っていた。

 そして、それ以外の体の激痛は……

「随分とお寝坊なお姫様ですね?」

 そんな声と共に、部屋にニイル達が入って来る。

 それにレイは身体を起こそうとするが、やっぱり身体は言うことを聞いてはくれなくて。

「そのままで良いので楽にして聞いて下さい。それとも明日にしましょうか?」

 そんな様子に苦笑しながらニイルは言った。

「ううん、今聞くわ」

 師匠相手にさえ使わなかった奥義を使っても勝てなかった。

 そんな事実に、焦る気持ちを抑えられずレイは言う。

「私が負けたのは見れば分かるわ。でも、どうやってあの状態の私を止めたのか分からないの。自分で言うのも何だけれど、あの状態の私は雷みたいなもの。それを簡単に捉えるなんて、身体能力に優れていると言われる獣人でも出来ると思えない。それとも彼女もあれ程の速さで動けると言うの?」

 もしそうなのだとしたら今後、戦闘において自分の優位性が失われる可能性がある。

 自分と同じ速度で動けるのなら、自分は奥の手を封じられたと同義だ。

 それはつまり、相手に対して決定打が無いと言うことに他ならない。

 これからの強敵、特にに対抗する手段が無くなると思えば、焦りもするだろう。

 そんな焦燥からの質問を受けて、ランシュは静かに首を横に振った。

 代わりにニイルが答える。

「彼女にそんな手段は存在しませんよ。そもそも雷とになれる人間はそうそう居ないでしょう。あの技術と魔法はそれ程までに素晴らしい物でした」

「じゃあどうやって……」

 その質問に対する答えは、レイの想像よりも遥かに悪いものだった。

「簡単ですよ、、それ故にあの技には弱点がある。彼女はそこを突いたに過ぎません。それに、一流の戦士なら誰でもあの技は破れるでしょう」

 その答えに愕然とするレイ。

 それではエレナート家の奥義は、自分の今までの努力は、その程度の物だったと言うのか。

 ランシュのアッパー以上の衝撃が襲い、頭が真っ白になりかける。

 そんな思考を遮る様に、ニイルは言った。

「言ったでしょう?素晴らしい技術と魔法だと。本来であれば、アレはそんなもので破られる程チャチじゃありません。となれば残る理由はただ1つ、貴女がまだ未熟なだけです」

 と、そんなフォローしているのか、追い討ちをかけにきているのか、悩ましい発言をするニイル。

 ただ、それを聞いたレイは少し安心する事が出来た。

 何故なら、自分が代々受け継いできた物が悪い訳ではなかったから。

 自分が未熟なのは百も承知、強くなる為にここまでやって来たのだから。

 それなら出来る事はある筈、そんな期待を込めてレイはニイルへと問う。

「私が未熟なのは知っているわ。だからどうすれば強くなれるのか、教えて欲しいの」

 それに、満足そうに笑いながらニイルは答える。

「現状の力量を正確に把握し、向上心を失わない。なら、貴女は強くなれますよ。ではまず現状を把握する所から始めましょうか」

 その提案に頷くレイ。

「まず、何度も言う通りあの魔法とそれを使だけの魔力量、そして技術力とセンスが貴女には有る。他にも魔法だけに関して言うなら、貴女はそこらの一流魔法師と比べても遜色ないレベルの持ち主だと思います」

 その言葉に少し照れるレイ。

「悪いのはそれを使だけの体と技術力を持っていない事です。これを16歳の少女に言うには酷な事ですが……貴女の身体と知識量が、まだまだ十分に出来上がっていないという事に他ならない」

 それに、そうだろうなとレイは思う。

 確かにこの10年、数々の戦闘を繰り広げてきたと言っても、相手は大抵こちらを舐めているか、本気を出さずに終わってしまう者がほとんどだった。

 命懸けの死闘が無かった訳ではないが、常に修羅場の只中に居た訳でも無い。

 それ故に、一流よりも戦闘経験が劣っていると言われればその通りであり、身長も未だに伸びている最中だ。

 子供だからまだ弱い。

 それは事実ではあるのだがだからと言って、はいそうですか、と納得出来るほど大人にもなりきれていなかった。

「今、あの魔法を使った反動で全身が痛むでしょう?それはあの魔法の負荷に、身体が付いていけていない証拠であり、あの魔法を制御出来ていない根拠でもあります」

 その言葉に、ある疑問が浮かぶレイ。

「制御?確かに、まだあの魔法を使うには私はまだ未熟だろうけれど、制御なんて出来るものなの?そもそも、なんでこの魔法の事についてそんなに知っているのかしら?」

 この魔法は、エレナートの者しか知らない秘術である。

 他人であるニイルが知っている筈は無いのだが。

「私の特技でね。どんな魔法も見れば大体分かるんですよ」

 と、そんな有り得ない事を言って誤魔化されてしまった。

「それに少し考えれば思いつく事です。今の貴女は装填した魔法を100%で解放している。だから身体が耐え切れていないのです。ならば耐えられる量を解放すれば良い」

「そんな事が可能なの?」

「勿論。あなたが魔法に関する知識と理解を深めれば可能です。それに伴い身体作りと戦闘経験も積めば、今より強くなれるでしょう」

 少し怪しさも感じたが、言っていることは理解出来る。

 今まで独学がほとんどだった分、明確な目標が出来た事で、やる気が出てきたのも確かだ。

「なので今後の修行は身体作りと戦闘経験、基礎はあの爺さんから教わってたみたいですし、独学でも学んでいたみたいなので実践を繰り返しましょう。そして、魔法の座学と魔力量の増加も行っていきましょうか」

「ええ!よろし……く?」

 その言葉に新たな疑問を覚えるレイ。

「魔力量の増加とはどういう意味?人が持てる魔力量はほとんど生まれつきで決まっていて、一朝一夕で増やせるものでは無い筈だけれど?」

 レイの言う通り、魔力量は大抵が遺伝で決まっており、貴族出身の者が膨大な魔力量を誇るというのは、良くある事だった。

 突然変異で大量の魔力を持って産まれる事も稀に有るが、それ以外で、後天的に増やす方法はかなり限られていると言うのが、一般的な常識である。

「まさか私に魔薬を飲めって言うんじゃないでしょうね?」

 魔薬とは、飲めば魔力量を一時的にだが増やせる薬である。

 一昔前、その有用性から多数の使用者が居たが、実は使用者の生命を削り、それを魔力にしている事が判明。

 それ以降全ての国で使用を禁じられており、その薬は姿を消した。

 そういう経緯もあり、レイが警戒するのも仕方の無い事であった。

「あんな物使いませんよ。それにアレは一時的なものですからね。私が言っているのは永久的に、です。その代わり、キツイ修行になりますが、耐えられますか?」

 内容に不安が残るが、強くなれるのなら是非もなし。

 レイは確固たる意志をその目に宿し、頷いた。

「では明日からその様に。ところで話は変わりますが、貴女は魔力切れになった事はありますか?」

 魔力切れとはその名の通り、体内の魔力が尽きる事を言う。

 魔力は人間にとって大なり小なり持っている物なので、それが尽きるという事は、非常に危険な事なのである。

 細かく言うなら、軽度で全身の倦怠感や目眩など風邪に似た症状。

 悪化するにつれ動けなくなったり気絶したり、最悪の場合は死に至る、つまり。

「なった事なら有るわ。というか軽くだけれど、今がその状態な訳だし。あの魔法、消費魔力が半端じゃなくて、使うと大体魔力切れを起こすのよね」

 そう、全身の痛みもあるが、今動けないのは魔力切れも起こしているからなのである。

 本気を出さなければいけなかったとは言え、流石にこれはやり過ぎた。

 危うく死んでしまうところだったと、少し反省するレイ。

「なら話が早い。明日の修行では、今以上の魔力切れになってもらいましょう」

「??????????」

 明日から修行と意気込んでいたところに、死刑宣告を言い渡されたレイの意識は、宇宙へと旅立ったのであった。

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