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垣間見た力の片鱗

作者: 一一
last update publish date: 2025-06-18 21:00:00

「今日は遅いので明日の朝、ここの1階に集まりましょう」

 ニイルの言葉でその日は解散となった。

 レイもセストに到着したばかりである。

 拠点とする様な場所も探しておらず、腰を落ち着けたい気持ちもあったので、逸る気持ちを抑えながら賛同した。

 幸いこの宿屋の空き部屋を借りられたので、その日はゆっくりと休む事が出来たのだった。

 翌朝、レイが1階に降りると3人はもう揃って、レイを待っていた。

「おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」

「おはよう。お陰様でね。待たせてしまったかしら?」

「いえいえ、これから朝食にしようとしていた所ですよ。良ければ食べながら話しませんか?」

 そう言われ、空いている席に案内される。

 レイもお腹が空いていたのでその提案に乗り、店主に注文をする。

 頼んだ朝食が並び始めたところで、ニイルが切り出した。

「さて、修行を行う約束でしたが……まずはお互いの力量を知らなければなりません。こちらも貴女がどれだけ出・来・る・のか分からなければ何も教えられませんし、貴女も自分より弱い相手に教わりたくないでしょう?」

 それはもっともである。

 いくら師匠の言葉といえど、実際に見て体験してみない事には、いまいち信憑性に欠けるとレイも感じていたところだ。

「見たところ、貴女は帯剣をされているので剣士だとお見受けしました。なのでまずはこのランシュと戦ってください。それを私が見て判断します」

 その言葉にランシュが頷く。

 そうして朝食後、ランシュとの模擬戦が行われる事となった。

 街から少し離れ、多少暴れても大丈夫そうな場所まで移動してきた一同。

 広々とした場所で、いかにも訓練に向いてそうな場所である。

「ここは冒険者が特訓や訓練をする為の場所でしてね。ここなら派手に暴れても大丈夫ですよ」

 そのニイルの言葉に、少し感謝しながらレイは答える。

「模擬戦なら、この剣を使うより素手や木剣とかの方が良いんじゃない?」

 見たところランシュは丸腰、魔法師のほとんどが杖か魔法使用を補助する物を持っている事を考えると、恐らく素手で戦うタイプだろう。

 そんな相手に対して剣を使用する事は憚はばかられたのだが、それを笑いながらニイルが否定する。

「問題ありません。その剣を使って本気で殺・し・に・来・て・く・だ・さ・い・。彼女はそんなにヤワじゃ無いので」

 その言葉に少し苛立ちを覚えるレイ。

 自分だってそんなに弱い訳では無い筈なのだ。

 何せあの剣聖の元で2年も学び、それ以前にも数々の修羅場をくぐり抜けてきたのだから。

「そこまで言うなら本気でいくけれど、怪我してもしらないわよ?」

「大丈夫ですよ。そっちは魔法も使って構いません。本気の実戦だと思ってください。でないと実力が分かりませんので」

 しかし、更に煽るような事を言ってくるニイル。

 その言葉に、内心後悔させてやると決めながらレイは剣を抜いた。

 そうしてランシュがフードを脱いだところで。

「では、始めてください」

 ニイルが開始の合図を出す。

 まずはお互い様子見、剣を構えたままランシュの動きを観察しようとしたレイは、その違和感に気付く。

 そう、ランシュは構えもせず、その場に棒立ちになっているのだ。

 しかし油断している訳でも無く、隙が見当たらない。

 その事実に気味の悪さと、明らかに向こうの方が実力が上なのだろうという事が分かり、少し苛つくレイ。

 今までの相手は大体が格下か、例え格上であったとしても、自分が少女という事で油断して負ける様な相手ばかりだった。

 故に師匠以外には、負けた事が無い。

 今目の前に居る相手はそのどれでもない、油・断・は・し・て・い・な・い・が・舐・め・て・い・る・、そんな印象を受けた。

 そう、この10年間強・者・の・噂・を・聞・け・ば・、わ・ざ・わ・ざ・倒・し・に・向・か・っ・て・い・た・自・分・に・対・し・て・。

(なら、その自信すらも打ち砕いてやる!)

 レイは一瞬で自身に強化魔法を付与し、目にも止まらぬ早さでランシュに接近。

 その胴目掛けて剣を振り抜く。

(取った!)

 勝利を確信し寸止めしようとした剣は、しかしその直後ランシュの右肘と右膝に挟まれる。

 所謂いわゆる真剣白刃取りの様な形で、完璧に止められてしまった。

「な!?」

 そのレイの一瞬の動揺を、ランシュは見逃さない。

 空いた左手で思い切り殴られ、レイは地面に叩きつけられる。

「だから言ったでしょう?殺す気で来なさいと。今の貴女では、彼女にかすり傷すら与えるのも難しいですよ?」

 ニイルの言葉に、しかしレイは反応する事すら出来ない。

 凄まじい衝撃に息も詰まり、意識が飛びそうになる。

「まぁこの程度ですか。今日はここまでですかね」

 その言葉に手放しかけた意識を戻し、立ち上がるレイ。

「まだよ……まだやれるわ……」

「ほう?」

 どうやら油断していたのは自分らしい。

 その事をしっかり反省しながら、改めてレイは思考する。

(今ので実力差は大体掴めた。どうやったところで私は勝てない。ならあ・の・技・を使ってでも……殺すつもりで行く!)

 そう決意し、レイは新たな魔法を刻む。

「魔法装填!」

 その言葉と共に雷魔法を剣に付与し、そして奥の手も発動する。

「装・填・魔・法・!」

 無機物に魔法を装填する魔法装填と呼ばれる技・術・だが、魔法をその物質に付与するという事で、とても高い技術が要求される。

 更に別の魔法を同時に発動する技術も難易度が高く、例えるなら左右の手で違う文章を書く、という様な技術が求められる。

 その2つを同時にこなすなど、到底16歳の少女に出来る芸当では無かった。

 そして装・填・魔・法・。

 これは有機物に魔法を付与出来る、エレナート家に伝わる秘伝魔法であった。

 本来有機物には強化魔法、治癒魔法、精神魔法、状態異常魔法の4種類のみしか付与出来ない。

 装填魔法はその制限を取り払い、あらゆる魔法を付与出来る様になるという魔・法・である。

 エレナート家でも、魔法に高い適正と天才的なセンスを持つ一部の者しか使えない、まさしく奥義と呼ぶべき代物であった。

 勿論いくら天才のレイでも、今の段階では10秒維持するだけで精一杯だった。

 しかし全身に雷を纏ったレイは、今や雷とほぼ同等のスピードを手に入れている。

 このお陰で、大抵の敵は10秒以内で殲滅出来る程の戦闘力を獲得していた。

「ほう!」

 これには流石のニイルも驚きを隠せない。

 ただでさえ高度な技術を2つも行いながら、更に超高度な魔法を使用しているのである。

 その魔法適正の高さと戦闘センスには、目を見張るものがあった。

 雷を纏いながら剣を構え、ランシュに向かって突進を行うレイ。

 たったそれだけで落雷の様な音が響き、レイが走り抜けた地面は抉れていた。

 獣人特有の直感でギリギリ避けていたランシュだが、その惨状を見ても焦ること無く、しかし遂に拳を構える。

(残り6秒、次は仕留める!)

「ハァァ!」

 裂帛れっぱくの気合と共に、自身が出せる最高速度で突進するレイ。

 その剣がランシュに届く直前、目の前のランシュが視界から消え……

 下から昇ってきた衝撃に顎を打ち抜かれ、レイの意識は刈り取られたのだった。

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