Share

1-25.土山を築く(1/3)

last update Last Updated: 2025-07-31 06:00:06

 朝ごはんを食べた後、バイトへ行く支度をしながらどうして辻女の制服を持っていくのか冬凪に聞いた。

「昼休みに挨拶に行くからだよ」

 なんか近場みたい。高校に行くのではなさそうだ。他に制服着るのはテーマパークかお葬式かVIPに会う時だけだから今回はきっと、

「えらい人?」

「まあ、えらいと言えばえらいかな」

「誰。あたしが知らない人?」

「夏波も知ってると思うけども。まあ、会ってからのお楽しみ」

 冬凪はそう言うと、先週よりもでっかいリュックを担いで玄関へ出て行った。それ何入れてる? 雪の中でビバーグでもする気?

 クーラーボックスを抱えて外に出ると、とんでもない暑さだった。予報では最高気温40度、最低気温25度で雨は降らないそう。リング端末を見るともう体感温度が32度と出ていた。太陽に対する遮蔽物の全くないあの現場で熱死しないことを祈るのみだ。

 辻バスは涼しかったので辻沢駅までで掻いた汗は引いていたのに、バス停から現場までで大汗になった。女子更衣室になっているハウスで作業用の服に着替えて、朝礼まで待機する。

「あれ? ナミちゃん。今日来たの? 休みじゃなかった?」

 ティリ姉さん、もとい江本さんに言われた。

「はい。そうなんですけど、冬凪に強引に連れてこられました」

「ナギちゃんってば、ナミちゃんとお仕事できるのがホントにうれしいのね。前々から言ってたのよ。うちの姉はとっても可愛くて、頑張り屋さんなんですって、いつか一緒にこのお仕事できたらいいなって」

 そんなこと冬凪に言われたことなかったのでポカンとしていると、冬凪が走って戻ってきたかと思ったら、ものすごい力で腕をつかまれてハウスの陰に連れて行かれた。

「ほら。あるじゃん。話のついでにあることないことをさ」

 何を焦ってるんだ? ほっぺが真っ赤だぞ。あたしは冬凪の肩をポンとたたいて、

「いいよ。その気持ち、受け取っとくよ」

「な、なに言ってるの? そんなんじゃ」

 あたしは冬凪をそこにおいてきぼりにして朝礼の輪に加わった。いつも教えて貰ってばかりの冬凪から一ポイント奪取した感じで悪い気はしなかった。

 皆さん
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   2-72.ブクロ親方(3/3)

     取りあえず順番にシャワーを浴びて夕食にした。豚バラ肉とゴーヤーを買ってあったので、異端の、と言いたいところだけれど、こればかりは本格的ゴーヤチャンプルーを作る。あたしはミユキ母さんに沖縄料理のお店に連れて行ってもらって一度だけ食べたことがあるけれど、基本はVR動画とかで見た通りのもの。だから出来た物が本当にゴーヤチャンプルーって言っていいかどうか不安があるけれど、ミユキ母さんも冬凪もあたしが作るゴーヤチャンプルーが好きと言ってくれるので夏の定番料理。あたしはゴーヤチャンプルーが豚肉の一番美味しい食べ方かもって思ってる。豆腐は島豆腐がいいみたいだけれど、スーパーには置いてないことが多いので木綿豆腐の堅そうなのを買っておく。準備段階で平皿で重しをして木綿豆腐の水を抜く。ゴーヤは種を取って切ってから塩もみして絞り、苦みを取っておく。まず豆腐を丁度良い大きさに切って焦げ目が付くまでフライパンで炒めて別皿に取っておく。次に豚バラ肉を赤いところが無くなるまでごま油でよく炒める。その後ゴーヤーを入れて炒め、早めに塩を降り入れて火が入ったなーというところで水100ccを入れる。醤油とカツオ出汁を入れて、置いておいた豆腐を混ぜ炒める。弱火にして軽く溶いた卵を入れて放置。皿に取って鰹節をたんまり掛けたらできあがり。それにお味噌汁とサラダを付けて、白飯でどうぞ。「「ぜっふぃん(絶品)」」 二人とも満足そう。よかった。 お皿をかたづけたあと、クロエちゃんには内緒で冬凪と二人で今後の作戦会議をした。少し課題を整理すると、・十六夜を解放するために人柱をブッコ抜かなければならない。調由香里、千福ミワさん、志野婦のことだったらしいけれど、現在の所、ブッコ抜けたのは調由香里の首だけ。・ミワさんとまゆまゆさんたちを遭わせるために次元を繋げなきゃいけない。でも、クロエちゃんたちが地獄へ行ったときに乗った鬼子神社の屋形船は使えそうにない。自分たちでその方法を探り当てなきゃならない。・鬼子神社に薬指を置いてどこかに行ってしまったユウさんを探す。クロエちゃんは何処に行ったか知ってる風だけれど、今はミユキ母さんに口止めされてて言ってくれない。 問題山積だ。冬凪の顔を見たけれどどうしてい

  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   2-72.ブクロ親方(2/3)

     四ツ辻からは、鬼子神社に来た時の峠のワインディングロードへ抜けることができない。だから、うねうねとした山道を下って辻沢の街へ出る。山道は舗装されてはいるものの狭く、路肩の下は切り立った崖になっている。その底を覗き込むと白い渓流が細く見えていて、落ちたら車ごと粉々になってしまいそうだった。ブクロ親方はそんな道を猛スピードで駆け下りてゆく。なんでこんな道のカーブで突っ込んでいけるの? 対向車来たら終わりじゃない。「スピードどうですかね?」 とめっちゃ遠慮して言ったつもりだったけれど、ブクロ親方は、「そうですね。車、もっとスピードに慣らしとかなくちゃですね。もうすぐマヒが帰ってくるんで!」 とアクセル踏み込みやがった。 前後左右に頭振られて死んだ。藤野の家に着いたときには髪の毛バッサバサになってた。それでも、「「「ありがとうございました」」」 とお礼をしてブクロ親方のポルシェを見送った。真っ赤な残像を残して秒で視界から消えた。 リビングのソファに腰掛けて一旦気持ちを落ち着かせて、「すんごい運転だった」「マヒが帰ってくるから浮ついてるんだよ」「マヒって誰のこと?」 クロエちゃんもゲーマーのイザエモンのことをマヒって言った。「世界最強の伝説的ゲームアイドル、夜野まひる。あの子、鬼ゴリのチブクロだから」 だからブクロ親方だったんだ。池袋でも傘袋でもなくチブクロ親方。チブクロといえば浄血集団のことだけど。「ブクロ親方って浄血とかする人なの?」「浄血? 何それ」 クロエちゃんにゲーム部の部室で一年生の子が血を搾り取られてそれがチブクロの仕業だったらしいと話した。「それはカタリだね。チブクロは夜野まひるが所属していたゲームアイドルグループRIBのファンの呼称ってだけ」 そして、夜野まひるが飛行機事故で冬のオホーツク海に消えた後、海の中から瀕死の夜野まひるを救い出し北海道を一緒に旅して辻沢に連れ帰ったのがブクロ親方だと言った。「生きてるの? その夜野まひるさんって」 クロエちゃんはこっそり、しかも小さく頷いて、「誰にも

  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   2-72.ブクロ親方(1/3)

     座敷に戻って紫子さんと色々話をした。あたしに会ったのが初めてじゃないと言ったは鬼子神社であたしが生まれた時に紫子さんがエニシの糸を結び直してくれたからだと知った。紫子さんにはエニシの赤い糸を操る特別な力があったのだそう。「あった?」 過去の話のように聞こえた。「もう使えなくなってね」 最近衰えてきたと言った紫子さんはいったいいくつなのか。すごく若いようにも見えるし、クロエちゃんの接し方からして絶対年上な感じはするのだけれど、やっぱり辻沢の人たち共通、年齢不詳なのだった。「あたしもそろそろ四ツ辻の世話役を辞めさせて貰おうと思っててね」 四ツ辻には集落の代表を務める世話役という役職ある。村の行事を取り仕切る役なのだけれど、辻沢町役場やヤオマン勢力との折衝を請け負うこともあるのだという。それを代替わりするにあたって候補者を選ばなきゃいけないとなって白羽の矢が当たったのが、「冬凪ちゃん」 まだミユキ母さんには相談してないけれどと言った。冬凪はそれにはまんざらでないようで、「夏波、どう思う?」 そんないきなり言われても困るけれど、「冬凪はどうなの?」「あたしは四ツ辻が好きだから」 いいらしい。それってここに移住して山椒農家を始めるってことなのかな。冬凪の夢だったフィールドワーカーはどうするんだろう。「大学はどうするの?」「行くよ。大学終わったら四ツ辻を拠点にして辻沢を調査するつもり」 そういうところまでちゃんと考えているのが冬凪らしいと思った。あたしなら、ボタンがあったら取りあえずポチッてして何か起きてからどうするか考える。「そこまで考えてるなら、あたしは反対なんてしない」「よかった」 あたしは多分ここに住むことはないだろう。そう思ったら冬凪と一緒に暮らせるのもあと何年もないんだと気づいて、急に寂しくなってなってしまった。「そろそろ帰ろうか」 クロエちゃんが時計を見て言った。それとほぼ同じくして外でボボボボボというエンジン音が聞こえて来た。「迎えに来たみたいだから」 クロエちゃんと冬凪とあたしは、

  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   2-71.薬指の約束(3/3)

    ――『夕霧物語』「夕霧太夫のゆびきりげんまん」――――「伊左衛門は、いるかえ」 夕霧太夫の寂しげな声がした。「はい、太夫。ここに控えてございます」「こっちへ、おいで」 夕霧太夫が日々生活する部屋にはなんぴともそこを開けてはならない隠し戸がある。ただ、夕霧太夫のお呼びがあった時だけは中に入ることが許される。年に一度あるかないかの僥倖。それが今だった。伊左衛門は打ち震えながら隠し戸を開けてにじり入る。 中は十畳ほどの広さ。調度はすべて黒檀で、落ち着いているが凛とした空気が漂っていた。部屋の中央に青白い月光が差し込んでいる。外戸が開け放たれているのだ。見ればその月影に夕霧太夫のお姿が染め抜かれている。夕霧太夫は欄干に凭れて夜の景色を眺めていたのだった。もともとこの世の者とは思えぬ夕霧太夫の横顔を、冬の月がいっそう凄惨に映して美しい。「伊左衛門、近こう」 太夫は伊左衛門を側に呼んだ。「はい、太夫」 伊左衛門が太夫の足下ににじり寄ると、「伊左衛門や、あたしはもうじき死にます」 と夕霧太夫は寂しそうに言われた。「そんな」 伊左衛門は二の句を告げぬまま、嗚咽した。これまで夕霧太夫のお言葉は必ずそうなった。伊左衛門が水際に打ち上げられて藻屑のように横たわっていた時も、「この者をあたしの部屋へ連れて行く」 と言って本当になった。だからきっとご自分のお命のこともまた、かならずやそうなるのだ。「あたしが死んでひと月たったらむくろを掘り起こし、きっと辻沢にある青墓の杜に連れて行っておくれ」 辻沢という場所は知らなかったが、青墓の名なら

  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   2-71.薬指の約束(2/3)

    「変態ってのは半分冗談なんだけど」とクロエちゃんは天井を指さしている。見上げると天井の半分を占める大きさの図面が貼られてあった。冬凪が、「これって鬼子神社の?」それはどう見ても和船の断面図だった。喫水線の部分から上が鬼子神社の空祭壇の間から上の部分、下が中板間と船底の部分だった。「そう。エニシに集められたあたしたちは、これに乗って地獄に行った」鬼子神社のすり鉢を抜けて石畳の参道を滑り降り鳥居をくぐったらその向こうは地獄だった。クロエちゃんたちにとって、それは次元を越える体験だったのだそう。それを聞いてあたしはミワさんと交わした誓いのことを思い出した。ミワさんとまゆまゆさんたちを会わせるため次元を結ばなければならない。「じゃあ、夏波やあたしもこれに乗ったら次元を越えられるのかな」 冬凪も同じ事を思ったらしかった。「それがね」 クロエちゃんは残念そうに、「これが使えたのは一度きりだったんだよね」 他にも地獄から連れ帰りたい人がいたのだけれど二度目に試したらまったく動かなかったらしい。エニシは、その時その時で自分たちの方法を見つけ出すことを強いるのだそう。 次元を結ぶ方法をここに探しに来たわけではなかったけれど、それこそ渡りに船と飛びついてしまったので無駄にがっかりした。「自分で探さなきゃなんだね」 冬凪があたしを見て言った。「何かあるの?」 クロエちゃんに聞かれて、ミワさんのことを話そうかとも思ったけれど、それをするには白黒のまゆまゆさんのこととか、まだ知られていいかわからないことが多すぎた。だから今もっともホットな話題の、「ユウさんのこと」 と応えた。ただ、ユウさんが何処にいるかなんてあたしには想像も付いていなかったのでほんの急場しのぎのつもりだった。けれどもクロエちゃんは、「そうだね。ユウはもうこの世にいないから」 と、とんでもないことを言ったのだった。「どういうこと?」 あたしに問い詰められて、「あ、口止めされてたんだった」もう遅いよ、クロエちゃん。ユウさんは、鬼

  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   2-71.薬指の約束(1/3)

     紫子さんは親戚に接するようにあたしを迎えてくれた。玄関の中は広めの土間になっていて、御座に緑の粒が山のように積んである。それが10いくつ。強い山椒の香りを放っていた。「クロエちゃんは何年振りになる?」「うーんと」覚えてなさそう。「上がって」「「「お邪魔します」」」座敷にあがらせてもらった。山椒農家ってどこもそうなのか、蘇芳ナナミさんの家と作りが同じだった。だだっ広い座敷に囲炉裏、天井にはぶっとい梁が渡してある。その上はやっぱり暗闇。 紫子さんが、「クロエちゃんが来ること皆に知らせたら今朝釣ったアマゴを持って来てくれた人がいてね。それ塩焼きにしたから食べて」 そういえばメッチャいい匂いしてる。思い出したように食欲が反応して冬凪とあたしのお腹が合唱を始めた。「そんなに?」言ってるクロエちゃんのお腹も鳴ってるから。「アマゴって清流の女王と言われててすごく貴重でとっても美味しいんだよ」冬凪が教えてくれた。配膳のお手伝いをしながらも我慢出来なくなってよだれたれそうになった。「「「いただきます」」」生まれて初めて食べるアマゴは、「ぜっふぃん(絶品)」どころではなかった。ホクホクの身にちょうどよい塩加減。これまで食べたお魚の中で一番、いや、生涯かけてこれ以上のお魚は食べられないんじゃないかってくらい美味しかった。大袈裟でなく。それと山椒粒の佃煮掛けた白飯。合いすぎて、死ぬ。たらふく食った。眠くなったけど初めて来たお宅で昼寝はまずいと思って我慢した。「あれ見せてあげたら?」 紫子さんがクロエちゃんに言った。「そうだね。もう知ってることだし。ね、夏波」ね、とはよ。あたしは冬凪に何のことかと目で確認したけれど、冬凪にも分からないようだった。「じゃあ、見に行こう。夏波の変態っぷりを」廊下を歩きながらクロエちゃんが前世のあたしは変態だったと言った。「おかげであたし達は地獄に行くことができたんだけどね」言ってる意味が全く分からなかった。「ここがその変態が

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status