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2-37.調由香里の首(3/3)

last update 最終更新日: 2025-08-13 18:00:23

 高倉さんにお別れをしてホテルに戻ることにした。辻バスに乗るためバス停に向かおうとしたら、豆蔵くんと定吉くんが、

「「ううあう」」

 冬凪が、

「豆蔵くんと定吉くんがバスは嫌だってから歩こう」

 と翻訳して言った。少し遠いけど、まあ、二人の気持ちも分からなくないし、あたしも切ない二人を見るのは嫌だから賛成した。

 お屋敷街は高い石垣や植え込みがずっと続く。まるで迷路の中ような道を北を目指して歩く。垣根の間の空を見上げるとお日様が西に傾き始めていた。つい癖で時間を確かめるためリング端末を見ようとしてしまった。何も反応がなく、指についているのはただのアクセサリーだった。光の加減から推して3時ごろだろうか。

「今何時?」

冬凪が足を止めてスマフォを取り出し、

「3時過ぎたところ。どした?」

「いや、これから明日の夕方まで暇だなって」

 それを聞いて冬凪は、

「体調はどう?」

 あたしは放心状態になったことなどすっかり忘れるほど快調だった。

「全然いいよ。今からでも雄蛇ヶ池に行けそうなくらい」

 すると冬凪はあたしの顔や体を見まわして、

「本当?」

「本当だよ」

「なら、今から捜索再開しない? 辻川ひまわりと鞠野フスキにも連絡して」

 異存はなかった。高倉さんから聞いた、光の浮かび上がる現象が深夜である以上、三日の予定のあたしたちには今夜しかチャンスがないからだった。

「いいよ。スマフォ貸して」

 あたしが広報兼町長室秘書エリとある連絡先に電話をかけると、

「夏波? 復活したんだ」

「今夜、人柱を探しに行く」

「わかった。暗くなったら雄蛇ヶ池で」

 電話が切れたので鞠野フスキにも連絡した。

「了解しました。5時になったらホンダ・バモスTN360で雄蛇ヶ池の北端に向かいます」

 バッキバキのスマフォを冬凪に返して、

「豆蔵くんと定吉くん、ごめん。辻バスに乗らなきゃになった」

「「う」」

 と言った大男と武者髭男を見ると。気のせいか二人とも目に涙を浮かべているように見えたのだった。
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