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2-60.夏波&冬凪絶体絶命(3/3)

last update 最終更新日: 2025-09-05 18:00:15

「あたしの顔見て」

冬凪に見てもらった。

「変わってたらこんなに近づけない」

 言った冬凪が慌てたように、

「潮時だって毎回変わらない人いる」

あたしってばそれなのかな。気分だけ凶暴になってる感じ?

「栓を」

冬凪がブロックを差し出した。それを受け取り竜巻の根元へ。その時丁度、光の球が猛烈な回転をしながら目の前の渦の中に落ちて来た。手を伸ばすが周囲を巡る高速瓦礫に当たって弾かれる。ワンチャン当たるかとブロックを投げつけた。それが一瞬だけ竜巻の芯を歪ませて大きく軌道を変えた。のたうつ竜巻。光の球が目の前に近づいて来た。思いっきり手を伸ばす。目の前を人影が過る。何かがぶつかるグチャっという音。大きな水飛沫をあげて池に突っ込んだのは冬凪だった。

「捕まえた!」

水の中から顔だけ出して叫んだ。

「こっちへ」

手を差し出したけど、冬凪は首を横に振る。

「ダメ、めっちゃ重くて持ち上げらんない。抑えるのがやっと」

小爆心地でコンクリの蓋を投げ飛ばした冬凪が言うのだから相当な重さだ。あたしは手を貸そうと冬凪に近づいた。すると突然池の水が沸騰したようになって激しく波が立ち始めた。ヘドロ臭い水が冬凪とあたしを盛大に濡らす。水が滴る前髪を手で払って辺りを見回すと、

「夏波。後ろ」

そう言う冬凪の後ろにだって蓑笠連中が出没中。何人? 10人はいる。そして口々に、

「ともがらがわざをまもらん」

と気味の悪い重低音で呟いている。冬凪とあたしは完全に蓑笠連中に囲まれてしまっていた。

「これってばヤバイやつ?」

「それっぽい」

「なんて言って豆蔵くんと定吉くんが助けには?」

「ネストしすぎて来れなさげ」

 惑星スイングバイのせいで頼みのSPをどこかへ置いてきぼりにしてしまったようだ。ならば頼みの綱は鞠野フスキ。どこにいるかと探したけど、六道園の外で瓦礫を避けてうずくまっていた。あかん、あの人。

「あたしたちって絶体絶命?」

「間違いない」

 見渡せば大勢の蓑笠連中の周りに生首がいくつも水中から生え出ていて、

「「「「「「ともがらがわざを
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