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2-60.夏波&冬凪絶体絶命(2/3)

last update Last Updated: 2025-09-05 11:00:13

 池周りの遊歩道を渡り池端に着いた。たしか図面では水深はそれほどないはずだった。せいぜいあたしの膝上くらい。でも暗いのとアオコで水の中がまったく見えない。恐る恐る足を池に入れる。つま先で底を探ったけれど感触がない。しかたないので両足揃えたまま池の中に降りた。ズボッと音がして一旦は膝下で止まったけれど、少し動いたらズブズブと膝上10センチぐらいまで沈み込んでしまった。この気持ちが悪い感触はヘドロが溜まっていたせいだろう。それでもなんとか足を抜きながら前進するけど凄まじい遅さだった。上空を見上げると、瓦礫が渦巻く向こうに光の球が透けて見えていた。その中に胎児のように体を折り曲げた辻川ひまわりとミワさんの姿があった。それはもう竜巻の中にあって、どんどんと下降してきていた。

「あそこに吸い込まれる前に止めなくちゃ」

 言いながらしまったと思った。栓がない。渦に蓋するものを持っていなかった。

「冬凪!」

 聞こえるはずないと思って後ろを振り返ったら、

「ここにいるよ」

 すぐ後ろにいてくれた。

「栓がない。あそこに栓がしたいのに」

「待って」

 冬凪は腰を落として両腕を池の中に浸した。

「あった。これじゃだめ?」

 水から拾い上げたのはレンガの破片だった。池に落下した瓦礫なんだろう。

「充分すぎ」

 今度は冬凪と二人して竜巻の根元に進む。それにしても足が重い。一歩足を出すたびにヘドロに取られてしまう。しまいにがっちりかたまって動けなくなった。狂ったように回転する竜巻は目の前だ。光の球はすぐ上まで落ちてきているのに。

「夏波。何か変」

 冬凪が水面を見ながら言った。

「水が?」

「違う。足を掴まれてる」

 足に何かが絡まる感覚があった。藻とかではなさそう。そして水の中から聞こえて来たのはお経のような、

「ともがらがわざをまもらん」

 蓑笠連中の重低音だった。そういえば竜巻が激しく渦巻いているのに音が静かすぎた。精気の無い色が支配していた。別世界にづれ込んだ感覚があった。

「夏波足あげられる?」

 めっちゃ重かったけれど冬凪の言う通りに池から片足を上げると、
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