LOGIN「それは、どういうことですか? もしかして、望まない妊娠を無理やり誰かにさせられたとか⋯⋯」
私にハンカチを差し出しながら、大河内カイが聞きづらそうに口を開く。「あ、あの私⋯⋯」
初めましての彼に何を打ち明けようとしているのか。 彼に事情を話せば助けてくれるとでも期待しているのか。そんな訳はないし、とても人に話せる内容ではない。
これから、幸子を育てていくことを考えると、真実は闇に葬るべきだ。
自分が母親がレイプされできた子だなんて知って、幸子が正気でいられる訳がない。突然、産院の扉が勢いよく開く。
先程のベテラン看護師さんが薬袋を持って来てくれたようで、無言で差し出された。
「痛みを感じた時に飲みなさい。それから、話が聞こえちゃったんだけど⋯⋯」
気まずそうにする看護師さんのネームプレートには関口とあった。 家事代行で私を地獄行きにした関口翠と同じ苗字だ。家事代行サービスの事務所社長の関口さんは桃山家の企みをどこまで知っていたのだろうか。
「あの⋯⋯私、すみません」
「子供をこのまま里子に出す事もできるわよ。カウンセリングの予約もできる。冴島寧々子さん、貴方の力になれるわ」 先程まで冷ややかだった関口看護師は目を潤ませ私の手を握ってきた。あまり優しい言葉を掛けないで欲しい。
この世界は悪魔だらけだと見限った方が強く生きられる。すやすや眠る幸子に目を向ける。
「私、幸子と二人で生きていきます」
「分かったわ。今、母子家庭のサポートについての資料を持ってくるわね」 関口さんはサッと病室を出て行った。「寧々子さん、俺も手伝えることがあったら言って。寧々子さんのお家、住所見た限り大学の近くだし、ミルクやオムツを届けたりくらいはできると思うんです」
「い、家?」 「ご、ごめんなさい。マイナンバーカードで勝手に住所確認しちゃいました」 カイさんが頭を下げる必要はない。当然、こちらの産婦人科に入院する為に必要があってしたことだ。気を失った私を産婦人科まで運び込み、見つけた情報でできる限りのことをしてくれた人。
「ありがとうございます。でも、もうそこには帰れないんです」
半年間、住み込みのバイトをすると言うことでアパートの契約は切ってしまった。 私自身も三千万円も入ればもっと良い所に住めると軽く考えていた。「じゃあ、どこに⋯⋯あっ、えっと、俺の家に来ませんか? 今、兄貴と二人だけで部屋が余っているような大きい家に住んでいるです」
「そういう訳にはいきません」 眼前の男が私に悪さをするとは思えないが、桃山優斗にされたことの記憶が蘇る。私は自分の体を守るようにギュッと抱きしめた。「寧々子さん、そんなに一人で抱え込もうとしないでください。一緒に住むと言っても、離れがあるからそこにどうかな?って思ってるんです。困ってる人には手を差し伸べるようにって死んだ母がよく言ってたので⋯⋯新しい住まいが見つかるまででも、寧々子さんを助けたいだけなんです」
───親切過ぎる大河内カイはきっと両親が揃った過程でぬくぬくと生きてきた。
私の勝手な想像とは裏腹に母親を亡くし遺言を守っているという彼。 人を信じるのが怖くなっていたけれど、彼を頼ることにした。♢♢♢
そして、退院の日。
大河内カイは私を迎えに来てくれた。 本当は無償で自分の家に住まわせてくれる話を怪しんでいるし怖い。また騙されているのではないかと言う気持ちになってくる。
でも、彼は一週間の入院中何度も私を訪ねてくれた。「寧々子さん、じゃあ行きましょうか」
「はい」 幸子を抱っこしながら、お世話になった産婦人科の助産師さんや看護師さんに挨拶をする。 すると、関口さんが私に近づいて来て小さな手紙を手に握らせてきた。 「後で読んで」 「はい、ありがとうございます」 最初は怖そうだと思ったけれど、彼女は時間があれば私の病室をのぞき悩みを聞いてくれた。 私は母乳が一滴も出なかった。 関口さんが胸をマッサージしてくれたりしたけれど、やはり無理だった。落ち込む私に彼女は母乳が出ないのはストレスのせいかもしれないから、気楽に過ごすようにと言ってミルクを持ってきてくれた。
ミルクは腹持ちが良いらしく、幸子がよく眠るようになった。 他の母親に比べて手を抜いている気がして母親失格だと愚痴をこぼすと、「気楽に」と注意された。産婦人科の駐車場に行くと、カイさんが車の鍵をピッと操作した。
カイさんの車は一際輝くシルバーの高級外車だった。 運転席の後ろの後部座席にはしっかりとベビーシートが設置してある。 (ノブレス・オブリージュ?)「凄い車ですね。ベビーシート買ってくれたんですか? お幾らしたんでしょうか?」
「いやいや、貰い物だから気にしないで」私はカイさんが私に気を遣わせない為に嘘を吐いていると直ぐにわかった。
酷い嘘に騙されて苦しんだけれど、優しい嘘があるのだと知った。汚れ一つないピカピカのベビーシートにうとうとしている幸子を寝かせてシートベルトを締める。
「寧々子さんは助手席へどうぞ」
サッと扉を開けてくれた彼に小さくお礼を言うと、助手席に座った。 車が発進して外の風景を見ていたら不安が襲ってくる。この道は通った事がある。桃山邸のある高級住宅街の近くの大通りだ。
「ここの交差点の辺りで寧々子さんと出会ったんですよね」
「そうですね」 不安で心臓の鼓動がどんどんスピードを上げていく。「うち、あと五分くらいで着きますよ」
どうやら大河内カイの家は桃山邸と同じ高級住宅街にあるらしい。(マリアンがまだ幸子を狙ってたらどうしよう)
震える手で関口さんから貰った手紙を開ける。
『一人で抱え込まないで。頼れる時は頼るのよ。関口恵子080-xxxx-xxxx 』
短いメッセージだけれども、心に染みる言葉。 気持ちが落ち着いて来たところで、大きな門の前に着く。 要塞のように大きな塀に囲まれた場所は別世界だった。シャッターが開くように、自動的に開く門。
桃山邸を遥かに超える敷地内には温室だけでなく、庭師が管理しないといけないような美しい庭園が広がっていた。 「これは、家ですか? 博物館みたい」 思わず漏れた言葉にカイさんが笑う。「兄貴がアパレルで成功して建てた家なんです。離れは両親が住む予定だったんですけど、僕が小学六年生の時に事故で亡くなっちゃって⋯⋯すみません。そんな縁起の悪い場所に住むのは気になりますよね?」
「大河内セイ⋯⋯」 私は気がつけばファッション業界のカリスマの名前を呟いていた。大河内セイの家の住所は当たり前に公表されていないが、ここは桃山邸の直ぐ近く。
大河内という苗字は珍しいものではないけれど、大河内セイを神格視しているマリアンは彼の近くに住もうとしそうだ。「兄貴はやっぱり有名人ですね。DEARESTの大河内セイが俺の兄です」
イッツアスモールワールドとはよく言ったものだ。世界はどうしてこんなに狭いのか。
親切にしてくれた男の子の兄が、因縁の相手が崇拝する神様だった。マリアンの代わりに彼女に用意された衣装に着替える。ロングの向日葵をモチーフとしたワンピースに腕を通すと、夜、温室で昼間あった太陽の方を向いたまま咲いていた向日葵を思い出した。今シーズンの春夏のフラワーシリーズのテーマは『LOVE OF FLOWERS』。向日葵の花言葉は『あなただけを見つめる』。きっとセイさんは太陽のような恋人に焦がれるようなイメージでこの服をデザインしたのだろう。「メイクの柳田です。冴島さん、肌綺麗ですね。メイク時間短縮できそうです」「お褒め頂きありがとうございます」メイクはイエローやパープルを基調として、非常にカラフルだ。普段、粉しかはたかない私が別人になれる気がした。「もしかして、冴島さんってハーフですか?」きっと柳田さんは私の身長の高さと肌の白さから純粋に疑問を投げかけたつもりだろう。でも、両親が誰かも知らない私には痛い質問だ。この間、突如蘇った記憶によると、私を殴っていた女が母親なら日本人だった気がする。「どうでしょう。多分、違うと思いますよ」「ふふっ、多分、違うって冴島さんは面白い方ですね」メイクが終わり、パープルダイヤモンドのジュエリーを身につける。パープルダイヤモンドの石言葉は『愛情』。モデルが身につけるジュエリーまで自分で選定することで有名なセイさん。セイさんの自室の本棚には石や花の由来や、色についての歴史など様々な本があった。彼はインスピレーションだけではなく、様々なメッセージを衣装にのせている。「お待たせしました!」スタジオに戻ると歓声が湧いた。「うわー見違えたねー。存在感あるわー。冴島さん先に他の子の単独を撮影したから、グループ撮影行こうか」「はい!」自分でも見違えたとは思うが、問題はここからだ。身長で存在感を出せても、マリアンが凄いのはポージングのバリエーション。指先まで綺麗で見惚れるだけでなく、ここまで体を捻れるのかというくらいの柔軟性もある。彼女はポージング一つとっても別格
「セイさん! セイさん!」私は彼に駆け寄って、彼の髪をかきあげ額を触る。朝から顔が赤いとは思っていたが、あえて指摘はしなかった事を後悔した。セイさんの額は燃えるように熱く、明らかに四十度近い熱がある。「寧々子? 幸子は泣かなかったか?」ボーッとした声を出すセイさんに少し腹が立った。「自分の心配してください。今、動けないくらい熱が上がってますよね」私に怒られ少しシュンとしたセイさんは引き出しから解熱剤の箱を出す。「お水⋯⋯」ウォーターサーバーが見えたので、私は紙コップに水を入れて差し出した。セイさんは解熱剤を水で流し込み、立ちあがろうとしてふらつく。私は慌てて彼の体を支えた。布越しにも体温がだいぶ高いのが分かる。「寧々子、解熱剤も飲んだし大丈夫だ。今からフォトシューティングの確認に行かないと」「全然、大丈夫じゃないですよね。インフルエンザだったらどうするんですか?」「インフルエンザ? この時期にか? 幸子に移ったら大変だな」また、幸子の心配をしている彼を愛おしいと思うと同時に呆れてしまった。「モデルさんに感染したらもっと大変ですよね。大人でこんな熱が出るなんて滅多にないと思うんです。一度、医者に診てもらってください」「そうなのか? 俺は割としょっちゅう熱を出すんだが、まだ子供だったのかもしれないな」普段、キレ者の彼が何だかフニャフニャしているし、言動も意味不明になっている。この状態の彼を人に見せたくないし、彼に無理をして欲しくない。「セイさん、かかりつけ医はありますか?」セイさんは鞄から診察券を出して見せてくれた。どうやらDEARESTは社内に内科も備えているようだ。「電話したら来てくれる。点滴と注射を打ってもらったら復活すると思う。面倒掛けて悪いな、寧々子」「私はセイさんを支えるのが仕事です!」私の言葉にフニャフニャとまた笑う彼をよそに、私は内線電話を掛ける。十分もしない間に、ワンレンの仕事がで
「これは一体なんですか?」セイさんに開けるように促され、そっと蓋を開ける。そこにはブルー系の宝石が沢山入っていた。綺麗に陳列してあり、名前や石言葉や重さまで記載してある。「本物を見て学ぶと良い。他の色もあるぞ。重いから石の勉強をしたい時はこの部屋でした方が良いかもな」「はい!」私はセイさんがいない時も彼の部屋に入る許可を正式に得た。どんどん彼と距離が縮まるようで嬉しかった。幸子がもうすぐ一歳になる頃には、セイさんは部屋に私のデスクと幸子のベビーサークルを用意してくれるようになっていた。そこでオモチャで遊んだり、ころっと寝てしまったりする愛しい子を見ながら好きな人と過ごす至福の時間。彼の仕事を手伝い、彼の食事を作り、愛しい娘を育てる生活に私はこれ以上のない幸福を感じていた。いつものように彼の部屋で資料の整理をしていると、突然彼から紙を差し出された。「これは?」「見ての通り、雇用契約書だ。今までタダ働きさせてしまってたようで忍びなかったんだ」「私の方がご厚意で居候させていただいているので⋯⋯」契約書を前に私はショックを受けていた。彼を支えて一緒に子供を育てる事で、まるで彼の妻になったような妄想をしてしまっていたようだ。「寧々子も早く自立してこの家を出たいだろ」「えっ?」窓の外を見ながら静かに語るセイさんの本音が分からない。赤の他人の親子が居候しているのは、普通に考えて迷惑なはずだ。私はここでずっと一緒にセイさんと暮らせるような錯覚に陥っていたが、当然彼だって新しい所帯を持つ。一見、芸術家肌で関わりづらく見えるセイさんだが、接する程に常識的で面倒見の良い方だとは私以外の女性も気が付く。きっと大切に育てられた優しいお嬢さんと結婚して素敵な家庭を作るのだろう。心臓を針で刺されるような痛みを感じながら、私は雇用契約書を読む。動揺して頭に内容が入って来ないが、かなりの高待遇だ。「保育園?」雇用契約書の後ろに保育園
「こうやって精一杯変な顔をさせても、好きなんです。もう、手遅れですね。寧々子さん、自分を卑下しないでください。寧々子さんを誰より大切に思ってる俺に失礼ですよ」少しムッとしたような顔をして私をリラックスさせようとしているカイさんは本当に優しい。「そうですね、私を好きになってくれてありがとうございます。カイさんが私に恋してくれた初めての人です」悲しいけれど、今まで誰にも好きになって貰った事はない。「誰より大切」だなんて誰かの一番になるのも初めてだ。「気持ちを返してくれたら嬉しいんですが、俺の事を好きになってくれなくても寧々子さんには幸せになって欲しいです」カイさんが苦悩の表情を浮かべながら、私に伝えてくる言葉の真意を分からない程馬鹿じゃない。セイさんを好きになっても苦しい思いをするだけだし、因縁の相手であるマリアンと関わり傷つくだけだとやんわりと忠告してくれている。マリアンがセイさんのブランドのアンバサダーをやっている限り、私は彼女を警察に突き出せない。DEARESTはブランド発足からマリアンがメインモデルをやっている。彼女は世界的モデルの一人で、日本では誰もが認めるナンバーワンでオンリーワンの個性を持ったスーパーモデル。彼女を引き摺り下ろしても、彼女の代わりになれるモデルが思い浮かばないのだ。「にしても、三千万円か⋯⋯」「すみません」カイさんの呟きに、思わず謝罪してしまう。「違うんです。航空機事故があった時、死んだ客室乗務員に支払われる額が三千万円だったなと思い出しまして」「えっ?」「うちの両親、航空機事故で死んだんです。大西洋上で行方が分からなくなって遺体は見つかっていないんですが⋯⋯」初めて明かされたセイさんとカイさんの両親の話。事故で亡くなったとは聞いていたが、航空機事故とは知らなかった。「遺族が集まり会社から説明を受けたんですが、その時、客室乗務員の親だという方が会社は自分の娘の価値を三千万円程度としか思ってないのかと怒鳴っていたんです」「それは⋯⋯」
「寧々子さん⋯⋯ごめんなさい。寧々子さんには何の問題もありません。問題があるとしたら、俺なんです」カイさんは私の背を優しく撫でると、離れの中に入るように促す。本をテーブルの上に置くと、私から幸子を受け取り抱っこしてトントン叩いてくれた。(あれ? これはセイさんが幸子を泣き止ませようとした方法と同じ?)幸子はぐずりながらも夜で眠たかったのかそっと目を閉じた。カイさんは幸子が起きないようにそっとベビーベッドに寝かしつける。「やっぱり、兄貴は凄いですね。何一つ俺は彼に敵わない。実は寧々子さんと兄貴の会話を扉の外で聞いてたんです」「寝かしつけの方法を?」「はい、『ポイズネス』を流してるのも聞いてました」肩をすくめて、照れたように笑うカイさん。「寧々子さん、俺の嫌な部分を言ってくれませんか? 全部、俺が悪いところを直したら兄貴より俺を選んで欲しいんです」一瞬、カイさんの話が理解できなかった。私は人を選べる立場になんてない。私は彼が意を決したな表情で伝えた言葉に、双眸の眦に溜まった雫を飛ばしながら首を振った。「嫌なところなんてありません。カイさんはとても優しい素敵な方です」「でも、寧々子さんは俺ではなく兄貴が好きでしょ。俺は貴方が好きだから分かってしまうんです。いつも貴方の視線は兄貴を追ってた⋯⋯」意識はしていなかったが、カイさんのいう通りだ。最初はマリアンが『神』と崇めるセイさんに興味があり目で追っていた。今はセイさんの表情や仕草を何一つ逃したくなくて、気がつけば彼を見てしまっている。「ごめんなさい。以後、気をつけます」頭を下げた私を見てカイさんはゆっくりと首を振った。「人の気持ちはどうにもならないって俺自身が分かってます。俺だって寧々子さんに惹かれるのを止めようと何度もしました。適当に大学生をやっていて、兄貴みたいに稼ぎもなくて⋯⋯。幸子と寧々子さんを守ってく覚悟も力もないのに、好きって気持ちばかり膨れ上がって苦しかったんです」彼が絞り出すような声で本心を告げてくれているの
「カイさん、どうかしましたか?」彼を怒らせるような事をしたと思い怖くなり、恐る恐る尋ねる。「今、寧々子さん兄貴の部屋から出て来ましたよね。兄貴は仕事場に人を入れないのに⋯⋯」本音はもっと兄と関わりたいカイさんなりのヤキモチだろうか、私は思わず口が綻んだ。その表情を彼は誤解する。「寧々子さんは兄貴のことが好きなんですか?」私は自分の隠している気持ちがバレている事に動揺して、脇に挟んだ本を落としてしまった。「痛っ!」足の上に分厚い本が落ちて痛い。「寧々子さん、すみません気が利きませんでした。離れまで本を運ぶのを手伝いますから、一緒に行きましょう」「大丈夫です。私、一人で⋯⋯」「幸子ちゃんを落としたら大変ですよね。寧々子さんは幸子ちゃんに集中してください」さっきまでの怒りの表情から代わり、いつもの穏やかなカイさんに戻っていたホッとする。階段を気をつけて降りて、玄関を出て離れまで歩く。気まずくて私たちは一言も言葉を交わさなかった。外は真っ暗で月だけが私たちを見ていた。雲が立ち込めていて星は見えないのに、月の部分だけ雲が切れている。庭に咲く多種多様の花たちが昼とは違って夜は香りでその存在感を主張するが、香りだけでは目を奪えない。。温室の方に目を向けるとライトに照らされた色とりどりの花が見えた。フラワーシリーズの制作の為に植えられた季節外れの夏の花々をこの時期に見られるのは貴重だ。その中で鮮やかな黄色い向日葵が斜め上を向いているのが、昼間に照らしてくれた太陽を求めているように見えた。寄り添うように植えられた色とりどりの紫陽花は淡い色で可愛らしく、赤いハイビスカスは気品があり華やかで目を惹く。色というのは個性の一つであり存在感を主張する重要なファクターだと思い知らされる。人も花もスポットを浴びないと、なかなかその存在には気がついて貰えないのかもしれない。私は地下室に追い込まれ、死ぬかもしれなかった自分と暗闇に咲く花を重ねていた。月明