LOGIN 落とし物の財布を拾い、
そして、それが俺が「他人の面倒に前向きに突っ込んだ」こと
つまり無気力だった自分を乗り越えて世界に関わろうとしたことの証だと、「やったー! やったよしょーへー! 私の肌! 見て見て! どんどん綺麗になってる!!!」
その純粋な喜びようを見ていると、さっきまでのダルさや困惑が、少しだけ薄れるような気がした。
本当に、こいつは俺の煩悩と活力から生まれたんだろうか?
こんなにも感情豊かで、パワフルな奴が、俺の中から?「さてと、次はどこ行くー!?」
「どこって……もういいだろ。家に帰る……」
「ダメに決まってんじゃん! まだ煩悩いっぱい残ってるし……!
私の文様も全然全部消えてないし! ほらほら、次!」
「そうだ! お正月だし、原宿とか行こ! 人いっぱいいてなんか楽しそー!」
「原宿……? 人混みなんて一番ダルいんだけど……」
考えただけで吐き気がした。
人混み、騒音、他人の視線……無気力な俺が最も苦手とする場所だ。「いーじゃん! お祭りみたいでアガるし!
アンタのその閉ざされた心を開放するには、刺激が必要なんだって! 行くよ!」
抵抗しても無駄だ。
俺は諦めて、
◇
原宿の竹下通りは、予想通りのカオスだった。
色とりどりのショップ
大音量で流れる音楽
甘い匂いや香水の匂い
そして何よりも、人と人との波。
無気力な俺にとって、それは情報の洪水であり、ただただ疲れるだけの場所だった。「うっわー! マジ人ヤバいんですけど! 楽しそー!」
「あのアクセサリー超可愛い!」
「あの服屋さん行ってみたい!」 「んー! なんか美味しそうな匂いする!」
ダルい。早く家に帰りたい。
そんなことを考えていた、その時。
「あ! あれなに!?」
俺は普段、こういうものを見ても何も感じない。ダルいだけだと思っていた。
しかし、
パフォーマーは、身体能力の限界に挑戦するような、とんでもない技を繰り出していた。
高くジャンプしたり、ありえないバランス感覚で静止したり。周りからは「うおおおお!」とか「すげえ!」といった歓声が上がる。
俺は、初めはただ眺めているだけだった。
どうでもいい、と。
しかし、人間離れした動きを見ているうちに、ふと、身体が粟立つような感覚を覚えた。
それは、感動、というほど大げさなものではない。でも、確実に、今まで俺の中にはなかった種類の「何か」だった。
純粋な驚き、そして、目の前で起きている非常識な出来事に対する、ほんの少しの興奮。 その、ほんの小さな感情の動きに、
「ヤバいヤバい! また消えた!!!ラリってボンノー!!」
「え……!?」
「ひゃっほー」
さっきコンビニで大きく消えた後、またさらに
「マジか……」
パフォーマンスを見て、ほんの少し「すごい」とか「驚いた」とか感じただけで、こんなに
「やったー! しょーへー! アンタ、今パフォーマンス見て『すげー!』って思ったでしょ!?
その『驚き』とか『興奮』とか、今までアンタが目を背けてた感情の一つ!
それを感じて認めたから、また私の文様が消えたんだよ!」「え、いや、別に抱きつくなよ……」
「いーじゃん! 嬉しいんだもん!
見て見て!私の肌、どんどん綺麗になる! 全部の文様が消えたら、私、もっと可愛くなるんだからね!」
その姿を見ていると、本当に、俺の無気力や無関心といったものが、彼女の身体を蝕む「呪い」だったのかもしれない、と思えてくる。
そして、俺が少しでも感情を取り戻し、世界に関心を示すことが、彼女を救うこと、そして彼女が言う「自由」への道に繋がるのだろう。
「煩悩……感情……」
俺は自分の手を見つめた。
さっきパフォーマンスを見て感じた、微かな驚きや興奮の感覚は、まだ心の奥に残っている。
人混みは相変わらずダルい。
でも、
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羅璃の言葉が、俺の頭の中に響き渡る。(逃げるな……ちゃんと受け止めろ……) 羅璃は、俺を無気力の底から救い出し、人との繋がり、夢中になれること、そして生きる喜びを教えてくれた。彼女の導きがなければ、今の俺は存在しない。そして、今、その羅璃が、俺に最後の「課題」を与えている。 それは、「愛」を受け入れること。 俺はゆっくりと立ち上がった。さくらさんの視線が、不安げに俺を見上げている。羅璃は、じっと俺を見つめ、その表情からは一切の冗談めいた雰囲気は消えていた。 ----------「……今日の天宮司さんと……私……どっちの方が……魅力的で……翔平の好み……?」 以前羅璃はそう俺に聞いてきた。「……うれしいよ、しょーへー……」 イヤリングをプレゼントしたとき泣いていた羅璃。 ----------「潟梨君がちょっと良いな……って」 大学で羅璃を監視に来た時の天宮司さんの新鮮な反応。高橋先輩のバンドと聞いて見に行ったライブハウスのサクラ……。「そこで……私が考えた策が……潟梨君を恋人として、結婚前提でお付き合いしていると紹介し…」 ---------- そういえば、御父上に会う切っ掛けはいきなり結婚相手としてだったっけ…… 俺は、さくらさんの前に向き直った。 さくらさんの目には、迷いも、計算もない、ただ純粋な感情が宿っていた。彼女は俺の無様な姿も、俺の隣にいる羅璃の存在も、すべて知った上
「きらーん!羅璃の正体は……天邪鬼だよ!」 羅璃の口から出た言葉に、俺は息を呑んだ。 天邪鬼。 ……ん?邪鬼とどう違うんだ?……と思っていたら…… 「邪鬼とか言ってる雑魚じゃねぇぞ、サクラ」 羅璃は、さくらさんを睨みつけるように言った。 さくらさんは、少し緊張した面持ちで、ただ頷いている。 俺は一体どういうこと?という顔をしていたと思う。 ◇「あの年末……しょーへーお前は、あの時点であらゆる煩悩が体から剥がれかけて、引き摺っていた。そんなニンゲン、初めて見た。全部一塊で喰えばラッキーくらいの気持ちで、お前についていったんだ」 羅璃は、淡々と語り続ける。 ……?ん?……ついてった……?憑いてた?色々なんか初情報が多すぎて混乱する。煩悩って引き摺るものなのか?煩悩って喰らうモノなの?「だが、除夜の鐘を撞いたことで全て一気に剥がれた煩悩の塊が、全て羅璃の体に憑依して、羅璃を強烈に縛ったんだよな……」 すでにほとんどが消えている文様の痕を摩る羅璃。「喰らうどころか、羅璃が煩悩の塊に喰われる形になったんだ」 手のひらを掲げて電灯にかざす羅璃。「逃げても呪縛から抜け出せず、このままでは羅璃の力を吸い尽くされて、消滅してしまうところだった……しょーへーの溜め込んだ欲求の煩悩は極めて濃縮された呪いの力みたいなもんだったんだよな~マジやばくね?ってなったんだよね…あの坊主、絶対全部分かっててしょーへーに鐘撞かせたよな~」 そうか……そういえば、あのお寺……羅璃に引っ掻き回されてあの後一度も行ってないけど…あの住職には何か見えていたのだろうか? それにしても……羅璃の説明に、いかに人間性を失くして生きていたのかを思い知らされる……羅璃も大変だったのだな……「こうなると、元の持ち主である翔
完成したゲームは、ネットのゲーム配信プラットフォームを使って、無料で遊んでもらおうということになった。 インディーズタイトルとして集金できる方法も検討したが、山本中会長が「利益を追求するのは、プロになってからで良い」と言ったので、誰も反対しなかった。 その会長のセリフは『プロのゲーム開発者を目指す』という、強い決意の表れだと感じた。 配信を開始すると、予想外の反響があった。 シンプルなゲーム性、中毒性のあるテンポと難易度が受けたのだろう。 数名のゲーム系配信者の目に留まり、彼らに紹介されたこともあって、あっという間に数千本のダウンロードに届いた。 ユーザーからの評価もそこそこ良く、想定よりもバズったと言って良いだろう。 俺たちが作ったゲームが、見知らぬ誰かのPCの中で動き、楽しんでもらえている。 その事実に、胸が熱くなった。 その夜、さくらさんも呼んで、サークルメンバーとささやかな祝賀会が開かれた。 メンバーも多くないこのチームは小さな居酒屋に席を取り、これまでの苦労話や、今後の夢を語り合う。「やっぱり会長はゲーム業界目指すんですか?」「いやぁ~どうしようか……と悩んではいるよ。叔父さんがゲーム業界の人って言ったけど、色々大変だっていう話は聞いているからね……でも、今回こうやって身内以外にプレイしてもらって生の感想を貰った達成感得ちゃうとね……」「全然迷ってないじゃん……悩んだふりしてもう決めちゃっているんでしょ?」 普段は大人しめの中村山くんがアルコールの力もあってかツッコミがキツイ。「どうなんだろうな……実際プロの現場ってこんな少人数じゃないだろうし、そんな中でどれだけ自分たちの思い通りのものを作れるのかとか……まあ、今回だって羅璃君が焚きつけなければ僕らは無為に時間を消費するだけだったしな……」「そうだそうだー羅璃様に感謝シロー!!」 羅璃は相槌打ちつつさくらさんと話し込んでいた。 俺はグラフィッカーの寺社杜さんと今どき
後日、さくらさんの母親からさくら経由で、千明が高校に復帰したこと、そして軽音部に入部したこと、さらにはさくらと同じ大学を目指すことを決めたと教えられた。「大学進学とか翔平さんができるなら、私にもできそう」 千明は、そう言ったらしい。 俺は複雑な気分になった。 俺は、羅璃にここ半年で半ば強制的に引っ張り上げられたようなものだが…… しかし、千明にとっては、それが大きな一歩になったのだとしたら、素直に喜ぶべきだろう。 さくらさんは、千明が自分で何かをやろうと決めたことを、心から喜んでいるようだった。 ある日、さくらさんが俺のアパートを訪れ、羅璃に手作りのカップケーキを渡した。「羅璃さん、本当にありがとうございました」 さくらさんが深々と頭を下げる。「千明さんが、自分から前向きになって……上之園さんも父も女子高校生の気持ちを動かすことは難しく、同世代とは言えないまでも、若い人の行動が良い影響を及ぼすことの証明になったと……私も自分を解放するためにバンドを始めましたが、その力や行動で良いことばかりがあるわけではないと改めて反省しました……羅璃さん、気づかせてくれて本当に感謝しています」 羅璃は、満面の笑みでカップケーキを受け取ると、自慢げに食べ始めた。「しょほへー、見てみろぉよ! 羅璃は感謝されてるんだぞぉ!んぐんぐ……」 いや流石に食べ終わってからしゃべれよ…… 羅璃に煽られて、俺は少しだけ複雑な気分になる。 お礼は、羅璃にばかりで俺にはないのか、と。 すると、さくらさんが、小さなラッピングのクッキーを俺に差し出した。「あの、翔平さんにも……あります」 羅璃がもらったカップケーキと比べると、明らかに小さい
後日、なぜか千明が俺の通う大学のオープンキャンパスに参加していた。 もちろん、さくらさんと羅璃も同席だ。 この企画は、羅璃が「この際、推しが普段どんなことしているのか、実体験してもらおう」と言い出したものだ。 最初は、「羅璃が千明と一緒に住んで、翔平がグータラ大学生なだけではないと知ってもらおう」とか、恐ろしいことを言い出したのだが、さすがに「犯罪だからやめてくれ」と懇願する羽目になった。 千明自身は「どうせ家には帰っていない」と開き直っていたが、さくらさんがなんとか説得して、オープンキャンパスに落ち着いた形だ。 まずは講義の見学。 法学部の講義室に足を踏み入れた千明は、学生たちの真剣な眼差しや教授の難しい専門用語に、最初から戸惑っている様子だった。「ねぇ、羅璃さん、これ、何言ってるか全然わかんないし、つまんなーい~……ウチ思うんだけど……『勉強なんか意味ない』『学歴社会は終わった』ってネットでも見るし~友達も皆言ってるんだよね~だるぅ~って」 千明が、俺の隣で小さな声で羅璃に囁く。 羅璃は、フッと笑って肩を竦めた。「しょーへー、千明に大学の意義を教えてやれよ」 俺は、羅璃に促され、千明に話しかけた。「まあ、いきなりは難しいよな。でも、千明ちゃんはさ、『勉強なんか意味ない』とか『学歴社会は終わった』とか、ネットとか友達から聞いたことそのまま言ってるだけだろ? それって……本当のことかな?」「え~どういう意味ですかぁしょーへーさん?」「今俺と会話している千明ちゃんは日本語で話が通じ合っているよね?」「え?当たり前じゃん」「でも……じゃあ、すいませんさくらさん……」 さくらさんに話を振る。 さくらさんは意を得たと頷き突然英語で話しかける「I'd like to ch
女子高校生千明がさくらさんに駆け寄っていくのを見て、羅璃がニヤニヤしながら千明に話しかけた。「で? 千明の推しは誰なんだよ? やっぱりサクラ?」 千明は頬を染めて頷いた。羅璃は、そんな千明を見て、満足げに俺の方を振り返った。「なあ、千明、羅璃の推し活のことを教えてやるよ~ 翔平?!羅璃の推しは誰だと思う?」 俺は一瞬言葉に詰まった。羅璃の推し? もしかして……さくらさんとか? 羅璃は俺の煩悩の具現化のはずだし、推しとかあるのか? 羅璃は、混乱している俺の様子を見て、フッと笑った。「そんなの、しょーへーに決まってんだろ?」 羅璃の言葉に、千明は「え?」と声を上げた。 俺と羅璃を交互に見て、目を丸くする。 羅璃は、そんな千明に向かって、わざとらしい声で言った。「こんな冴えないオッサン、千明は推せないだろ?」「オッサンは無いだろ! せめてお兄さん……!」 俺は、思わずツッコミを入れた。羅璃は、俺の反応を楽しんでいるようだ。「羅璃の推し活舐めんなヨ~ しょーへーはな……欲望含めたすべての煩悩を解脱しちゃって、正月に死ぬところだったんだぞ…… それを推し活……活力ぶっこんで羅璃がここまで復活させたんだぞ。」「え?俺死ぬところだったの?」初耳だ……「生きたいって言うのは煩悩だぞ、しょーへー……逝きたいってのも煩悩だけどな」「さっきライブで逝きかけたけどなー」回想する俺。 ニカリと笑う羅璃。「そんな冗談いえるなら、今は大丈夫ってことだ……どう、千明。これがギャル







