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第2話

Auteur: イチゴエッグタルト
病院で過ごした一週間、陽葵は一度も理翔の姿を見ることはなかった。だが、その代わりに看護師たちの噂話から、理翔とあの女の子が繰り広げたドラマのような恋物語を耳にすることになった。

あの女の子の名は青木柚乃(あおき ゆの)。医大に入ったばかりの一年生だという。

数ヶ月前、理翔が大学の特別講義に登壇した際、彼女に一目惚れされた。そこから、彼女のなりふり構わぬ猛烈なアプローチが始まった。

最初は見向きもしなかった理翔だったが、柚乃は取り憑かれたように毎日手を変え品を変え、花や食べ物、飲み物といった差し入れを届け続けた。

さらには全校生徒の前で大胆な愛の告白までしてのけ、大学から警告を受けても、彼女が引き下がることはなかった。

氷のように閉ざされていた理翔の心が動いたのは、彼をひたむきに追い求めるあまり、彼女が交通事故に遭い、重傷を負って入院した時だった。

そこで理翔は初めて、太陽のように真っ直ぐで眩しい彼女に、自分もまた心を奪われていることに気づいたのだ。

すべてを聞き終えた陽葵は、自嘲気味に微かな笑みを浮かべ、退院手続きのために病室を出た。

だが一階に降りた途端、目に飛び込んできたのは、柚乃が理翔の白衣の裾を掴んで無邪気に揺らし、上目遣いで何事かを語りかけている姿だった。

彼は病院という場所さえ忘れ、愛おしそうに彼女の唇に口づけを落とした。

陽葵の全身が、石のように硬直した。

次の瞬間、刺すような視線に気づいたのか、理翔がふと顔を上げた。

陽葵の姿を認めた途端、彼の表情は一瞬で険しく歪んだ。彼は一言も発することなく、隣の少女を強く抱き寄せると、そのまま一度も振り返ることなく立ち去った。

最初から最後まで、彼が陽葵に言葉をかけることはなかった。

陽葵は苦笑をもらし、退院手続きを済ませて病院を後にした。

家に戻ると、思いがけず理翔がいた。

口を開くよりも早く、彼の冷徹な声が突き刺さる。「また俺に付きまとっているのか?」

陽葵は呆気に取られ、首を振った。「そんなこと、していないわ」

「病院にまで現れて、よくもまあそんなしらじらしい嘘がつけるな」

理翔は勢いよく立ち上がった。その声は、芯まで凍てつくような冷気を孕んでいる。「以前からそうだ。弁当を届けに来たり、講義についてきたり、出張先にまで現れたり……

その都度、冷たく突き放して拒絶してきたはずだ。いい加減、身の程を知ったと思っていたが、まだそんな付きまといを続けていたとはな」

彼の怒りに満ちた顔を見て、陽葵の胸には、やりきれないほどの痛みがこみ上げた。

彼が食事を抜いていないか心配して弁当を届け、長時間の講義で疲れているだろうと迎えに行き、出張先で倒れたと聞けば居ても立ってもいられず看病に駆けつけた。それらすべての献身が、彼にとっては「付きまとい」でしかなかったのだ。

陽葵は鼻の奥がツンとするのを必死に堪えた。「付きまといなんてしていない。私はただ……」

「陽葵、お前には本当に反吐が出る」

言い終える前に、理翔が冷たく言葉を遮った。その瞳には、隠そうともしない嫌悪が渦巻いている。

「お前はそうやって、人の後ろを這いずり回ることしかできないのか?他にすることはないのか?仕事も、自分の情熱を傾けられるものもないのか?

昔はカメラマンになりたいと言っていなかったか。今やそのカメラを放り出し、自らが監視カメラにでもなり果てて、四六時中俺を見張るのがお前の生きがいか!」

陽葵は全身を衝撃に貫かれ、立ち尽くした。まさか彼が、自分のことをそこまで卑しい存在だと思っていたなんて、耳を疑わずにはいられなかった。

理翔の言葉は、容赦なく陽葵を切り裂き続けた。

「病院に来たのなら、もう分かっているだろう。俺は一回りも年下の女の子に惚れた。彼女が相手なら、潔癖症なんて欠片も感じない。それどころか、骨の髄まで溶け合いたいとさえ思っているんだ。

お前が俺をどう思おうと構わないが、彼女にだけは指一本触れるな。もし手出しをしたら、絶対に許さないからな」

言い捨てて上着をひっ掴むと、彼は外へと歩き出した。

まるで、その警告を叩きつけるためだけに帰宅したかのようだった。

去り際、理翔は陽葵のそばを通る際、まるで汚らわしいものを避けるように二メートルは距離を取り、大きく迂回して玄関へと向かった。

陽葵は目を真っ赤に腫らし、去りゆく彼の背中に向かって絞り出すように言った。「理翔。そんなに彼女を愛しているなら、もう離婚しましょう」

もう、十分だった。この五年間、自分なりに尽くし、耐え忍んできた。

けれど、どれほど尽くしても彼の凍てついた心を溶かすことはできなかった。

理翔は虚を突かれたように一瞬呆気にとられたが、すぐに滑稽な冗談でも聞いたかのように、冷ややかな嘲笑を浮かべて振り返った。

「陽葵、今度は何のつもりだ?また新しい小細工を弄するつもりか?」

陽葵が拳をぎゅっと握りしめ、反論しようとした瞬間、それよりも早く彼の冷徹な声が追い打ちをかける。

「お前が腹の底で何を企んでいるかなど、すべてお見通しだ。俺にサインをさせて離婚の証拠を手に入れ、それを盾に親たちの前で泣きつくつもりだろう?他に女ができたと被害者面をして、親の手で目障りな彼女を排除させる。それが狙いだろ、違うか?」

自分という人間が、彼の心の中でこれほどまでに卑劣に映っていたのか。陽葵は言葉を失った。

理翔は唇を固く結び、蔑むような視線を投げつける。

「かつての恩義をこれみよがしにひけらかして、俺の親に結婚を強要させたお前だ。そんな女が、自分から離婚に応じるなどと誰が信じると思う?

陽葵、これはお前がすべてを賭けて選んだ道だ。安心しろ、離婚なんてしてやるものか。お望み通り、一生お前と添い遂げてやるよ。ただし、お前はその特等席で、俺が別の女と家庭を築き、睦み合って老いていく様を、指をくわえて見ていろ」

その言葉は毒を孕んだ刺となり、陽葵の心臓の最も深い場所を無慈悲に抉った。

陽葵の瞳は血が滲むほどに赤く染まっていた。「……あの女を一生、あなたの愛人として日陰に置いておくつもりなの?」

理翔は鼻で笑った。「聞いたことがないか?『愛されていない側こそが、本当の愛人』なんだよ。俺は外で、彼女と新しく家庭を築く。お前は一生、ここでたった一人、孤独に朽ち果てていればいい」

「愛されていない」。その言葉を、彼はわざと陽葵を辱めるように、一語一語に憎しみを込めて言い放った。

彼女が我に返った時、部屋にはもう誰の姿もなかった。

陽葵は突如、乾いた笑い声を上げた。同時に、熱い涙が堰を切ったように溢れ出し、頬を伝い落ちる。

どれほどの時間が過ぎたのか。彼女は涙を拭い、立ち上がると、理翔の本家へと向かい、綾子を訪ねた。

「陽葵、本当に離婚するつもりなの?」

綾子は驚きを隠せない様子で問い返した。「あんなに理翔のことを愛していたじゃない」

陽葵は自嘲気味に口角を上げた。「無理に繋ぎ止めた縁なんて、決して幸せにはなれませんから」

綾子も病院での騒ぎを耳にしていた。彼女はため息をつき、五年もの間、何の兆しも見せなかった陽葵のお腹に視線を落とすと、惜しむように呟いた。

「五年経っても子を授かることがなかったし……理翔とは、本当に縁がなかったのね」

陽葵の身体が凍りついた。この五年間、薬を盛られたあの一夜を除いて、彼に一度も触れられなかったことをぶちまけてやりたかった。

けれど、今さらそんなことを言っても何の意味もないと思い直し、言葉を飲み込んだ。

「本当にいいのね?離婚届にサインをしたら、もう後戻りはできないわよ」

綾子の念押しに、陽葵は迷うことなく自分の名前を書き込み、離婚届を差し出した。

「お義母さん。離婚が正式に受理されて、全ての手続きが終わったら、彼に伝えていただけますか」

その時になれば、きっと彼はこの上なく喜ぶだろう。

本家を出て、荷物をまとめるために家に戻ろうとした陽葵だったが、車に乗り込む前に、凄まじい怒りを顔に張り付かせた理翔がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

「陽葵!やはりお前か!」

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