結婚して五年の間、近藤陽葵(こんどう ひまり)は、瀬戸理翔(せと りしょう)の度を越した潔癖症は職業柄のせいなのだと自分に言い聞かせてきた。生死や細菌と隣り合わせの外科医であれば、自宅を無菌室のように徹底管理したがるのも無理はないことだと、自分を納得させていたのだ。しかし、理翔のスーツのポケットから、くしゃくしゃに丸まったティッシュを見つけた瞬間、陽葵の顔から血の気が引いた。そのティッシュの端には黄色いシミが滲み、さらには数本の短い縮れ毛がこびりついていた。耳の奥で、昨日親友の宮崎結葵(みやざき ゆき)がためらいがちに告げた言葉が蘇る。「陽葵、理翔の職場の近くで、彼が女性と一緒に歩いているのを見かけた気がするの。その人、彼の腕にぴったりしがみついていたけど……彼は避けようともしていなかったわ」その時の陽葵は、理翔は自分の手に触れることさえ滅多にないのに、他人に腕を組ませるはずがないと笑って否定した。だが今、あの時の言葉が針となって喉を突き刺している。突き動かされるように、陽葵は理翔の勤める病院へと駆け出した。すべてをはっきりと問い詰めるために。入院棟のエントランスに差し掛かったその時、一台の救急車が猛スピードで突っ込んできた。陽葵は避ける間もなく激しく撥ね飛ばされ、花壇の縁に叩きつけられた。内臓がことごとく砕け散ったかのような激痛に襲われながらも、皮肉なことに、意識だけはやけに鮮明だった。視線の先では、理翔が救急車から一人の女性を抱きかかえて降りてくるところだった。上着を羽織ってはいるものの、その下は一物も纏っておらず、女性の股の間からはおぞましいほどの鮮血が滴り落ちている。理翔の顔に浮かぶ焦燥は、これまでの結婚生活で陽葵が一度も見たことのないものだった。そして、その肌を寄せ合うほどの距離も、彼女が一度として味わえなかったものだ。病院の中へ消えていく二人の背を追いかけようと、陽葵は無意識に立ち上がろうとした。だが、一歩踏み出した瞬間に視界が暗転し、そのまま力なく地面に崩れ落ちて意識を失った。再び目を覚ましたとき、耳に飛び込んできたのは看護師たちのひそひそ話だった。「信じられる?あの瀬戸先生、普段はあんなに禁欲的で冷徹なのに、一晩で十回も致したんですって。相手の女性が出血するまでなんて、よっぽど激しかったのね」「
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