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第2話

Author: 浪川
彼はそう言いながら、手際よくおでんを椀に装った。

私は椀の中にゴロゴロと入っている大根の塊を見つめ、次第に表情を凍らせた。

「大根が好きなのは、私じゃない」

……莉乃だ。

「それに、私、大根苦手なのよ。忘れたの?」

その言葉に、翔太はハッとして、無意識に莉乃の方を見た。

莉乃が食事に来るたび、私は彼女をもてなそうと腕によりをかけて料理を並べた。

彼女が大根好きだと知っていたから、必ず大根を使った料理を用意するようにしていたのだ。

最初、翔太は不満そうだった。

「美月、君は食べられないんだから、次は無理して作らなくていいよ」

それがいつしか。

彼は笑顔で莉乃に大根を取り分け、「痩せすぎだからもっと食べなよ」と勧めるようになった。

ある時など、私が大根を買い忘れたのを見て、彼は眉をひそめて言ったものだ。

「あれ、大根料理ないの?莉乃ちゃん好きなのに」

私が大根苦手だということなど、彼の記憶から完全に消え去っていたのだ。

私は彼をじっと見つめた。

翔太はようやく気まずさと申し訳なさを感じたらしく、慌てて取り繕った。

「ごめん美月、うっかりしてた……後で下に行って、何か食べられるものを買ってくるよ。いいかな?」

水のように優しい声色。

私が何か言おうと口を開きかけた瞬間、莉乃が割って入った。

彼女は甘えた仕草で翔太の腕に抱きつく。

「美月さんがいらないなら、私がもらって帰っちゃおっかなー?……翔太さん、いいですよね?」

翔太の体が強張り、目で彼女を制そうとする。

莉乃は悪びれる様子もなく、挑発的に彼を見つめ返す。

しばしの沈黙の後。

翔太はため息をつき、妥協した。

「……ああ、好きにすればいい」

二人の間で交わされる、まるで私など存在しないかのようなアイコンタクト。

その場の空気は、胸焼けするほど甘ったるい。

どうして今まで、二人の関係に気づかなかったのだろう?

……

莉乃と翔太は、いつも二人揃って見舞いに来た。

ようやく病室に二人きりになる機会を見計らい、私は真剣な声で翔太に告げた。

「私、しばらく莉乃には会いたくないの」

お粥を冷ましていた翔太の手が止まり、スプーンが揺れてシーツにこぼれそうになる。

「……どうして?」

「莉乃は君のこと心配してくれてるんだよ。子供が生まれたからって、そんな……」

そこまで言って、私の視線に射抜かれた彼は口をつぐんだ。

以前の彼なら、私がどれほど理不尽なワガママを言っても、二つ返事で叶えてくれたはずだ。

なのに今は。

莉乃のために、私に口答えしようとした。

私が眉をひそめると、彼はすぐに前言を撤回した。

「わかった。君が会いたくないなら、そうしよう。俺から言っておくよ」

そう言うと、彼は視線を落とし、一口ずつ丁寧にお粥を私の口に運び始めた。

彼の友人たちはいつも私を羨ましがった。「あんなにいい旦那さんはいない」と。

私もそう信じていた。

けれど、その「世界一の夫」は、あろうことか妻の私が支援している学生と、裏で不倫していたのだ。

食事が終わると、翔太は電話に出るために廊下へ出た。

しかし、いつまで経っても戻ってこない。

私はベッドを降り、ドアの方へ歩み寄った。すると、莉乃の拗ねたような声が聞こえてきた。

「美月さんが会いたくないって言っても、翔太さんは会いたくないんですか?」

翔太は困り果てたようにため息をつき、そして――ガラス越しに、二人がまた唇を重ねるのが見えた。

キスが終わり、翔太が言う。

「美月は産後なんだ。一番に優先してやらなきゃいけない……彼女は俺の妻だ。君とは立場が違うんだよ」

その言葉を聞いて、私は自嘲気味に口角を上げた。

偽善者。吐き気がする。

それでも、胸の奥底から悲しみが津波のように押し寄せてくる。

私はドア枠にすがりつき、膝から崩れ落ちそうになる体を必死に支えた。

次の瞬間。

莉乃の声はさらに甘く、切なくなった。

「じゃあ私は?私のこと、少しも愛してないんですか?」

翔太が答える隙を与えず、彼女は言葉を継ぐ。

「嘘。口では認めなくても、本当は愛してるはずです。美月さんが妊娠中から今まで、翔太さんと寝ていたのは私だけなんですよ。

私の方が、あの人よりずっと翔太さんを満足させられます……それでも、愛してないって言えますか?」

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