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同じ部屋

Penulis: たつき
last update Tanggal publikasi: 2026-09-25 20:14:07

 夜のあいだ、ヨルは何度も引き金を引いた。

 眠ったままで、指だけが動く。

 胸の三輪目も鳴っていた。ただし、指と同じ拍ではない。少し早い。ヨルの指が追いかけて、追いつけずにまた遅れる。

 弾は出ない。撃鉄が落ちて、また上がる。それだけの音が、一晩に何十回も鳴った。

 イノリは寝台の横に座って、それを聞いていた。

 触ってよいと言われた手だけを握って、それ以上は何もしない。

 握っている手も、時々動く。指が引き金の形になって、また戻る。

 銃口は、ずっとイノリの方を向いていた。

 イノリは位置を変えなかった。

 変えたところで追ってくるのは、昼のうちに分かっている。

 窓の外に、白い灯籠が上がっている。

 三つ目の大悪夢が消えたことを、王都は知らされたらしい。

 誰が知らせたのかは分からない。

 三つ。

 イノリは数えてから、数えたことを後悔した。

 灯籠は、上がりきると見えなくなる。どこかへ落ちているはずなのに、拾ったという話を聞いたことがない。

 夜が明ける頃には、三つとも見えなくなっていた。

     *

 空が白む頃、ヨルが目を開けた。

「寝てないの」

「ヨルも寝てないでしょ
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  • 七つの悪夢を食べた魔女   同じ部屋

     夜のあいだ、ヨルは何度も引き金を引いた。 眠ったままで、指だけが動く。 胸の三輪目も鳴っていた。ただし、指と同じ拍ではない。少し早い。ヨルの指が追いかけて、追いつけずにまた遅れる。 弾は出ない。撃鉄が落ちて、また上がる。それだけの音が、一晩に何十回も鳴った。 イノリは寝台の横に座って、それを聞いていた。 触ってよいと言われた手だけを握って、それ以上は何もしない。 握っている手も、時々動く。指が引き金の形になって、また戻る。 銃口は、ずっとイノリの方を向いていた。 イノリは位置を変えなかった。 変えたところで追ってくるのは、昼のうちに分かっている。 窓の外に、白い灯籠が上がっている。 三つ目の大悪夢が消えたことを、王都は知らされたらしい。 誰が知らせたのかは分からない。 三つ。 イノリは数えてから、数えたことを後悔した。 灯籠は、上がりきると見えなくなる。どこかへ落ちているはずなのに、拾ったという話を聞いたことがない。 夜が明ける頃には、三つとも見えなくなっていた。     * 空が白む頃、ヨルが目を開けた。「寝てないの」「ヨルも寝てないでしょ」「私は病人だから」「病人は寝るものじゃないの」「今日は例外」 イノリは握っていた手を離そうとした。 ヨルが指を絡め直す。「今は、離さないで」「うん」「でも、ずっとは嫌」「難しい注文だね」「私、人間だから」 ヨルは窓の方へ首を倒した。「花みたいに、一つの命令では動かない」「花は動くの」「動くよ。命令されたとおりに」 ヨルは自分の胸元へ目をやった。「誰が命令してるのかは、知らないけど」 イノリは何か聞こうとして、やめた。 昨日、二度目に答えてもらえなかったことだった。「ヨル」「何」「お腹すいてない?」「今それ聞く?」「聞くよ」 ヨルは少し黙ってから、答えた。「すいてない」「昨日から何も食べてないでしょ」「食べたよ」 言ってから、自分で口を閉じた。 イノリも、それ以上は言わなかった。 机の上に、干した果物の包みが置いてある。三日前のものだった。誰も片付けていない。誰も食べていない。紙の折り目が、少しずつ開いてきている。     * 朝、扉が開いた。 ミコトが立っている。教会の制服のままで、目の下が黒い。 右手の銃は、青白い

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  • 七つの悪夢を食べた魔女   三日

     封印した夜を最後に、ミコトは眠らなかった。 三日が過ぎている。 目を閉じると、断罪弾を撃たなかった未来が始まる。 黒い水へ沈む町。助けを呼ぶ人々。燃える家の窓から、レナがこちらを見る。 ――今度も、扉を閉めるの? 起きている間も、銃の弾倉から小さな呼吸音がした。 吸って、吐く。人の間隔より少し遅い。合わせようとすると、自分の呼吸の方が乱れた。 一日目の朝に分かったのは、七歩の縛りがミコトとイノリの間にしか働かないことだった。 ヨルの側は夢鏡が保っている。鏡が開いている限り、距離は問題にならない。「じゃあ、外に出られる?」 イノリが聞いた。「二人でなら」 それ以来、ミコトはどこへ行くにもイノリを連れて歩いた。 正確には、イノリがミコトから七歩以上離れられなくなった。 廊下ですれ違う者が、二人を見て道を空ける。前は監察役の制服に道を空けていた。今は、二人ぶんの幅を空けている。「一時間だけでも寝て」 塔の廊下で、イノリが毛布を持って追いかける。「眠れば封印が弱まるわ」「起きたまま倒れたら同じでしょ」「計算では、あと十六時間は行動できる」「人を計算機みたいに言わないで」「計算できる部分を計算しているだけよ」「できない部分は」 返ってこなかった。 答えないまま、廊下の壁へ一度肩をついた。 ついたのは、ほんの一瞬だった。 三日目になると、瞬きの回数が減った。 乾くので、時々目を強く閉じる。閉じた瞬間に、燃える窓が見える。だからすぐ開ける。開けると乾く。 その繰り返しを、イノリは六歩後ろから見ていた。「ミコト」「何」「目、赤いよ」「知っているわ」「休んで」「休むと見るの」「起きてても見てるじゃん」 ミコトは足を止めた。 止めてから、また歩き出した。「起きているときは、私が見ているの」「違うの?」「見せられるのと、見るのは違うわ」     *「ミコト。銃を鏡の前へ」 夢鏡越しに、ヨルが言った。「何をするの」「接続を調べる。今度は勝手に触らないから、許可をもらう」「皮肉?」「半分」 ミコトが銃を置くと、夢鏡へ黒い波紋が広がった。 鏡は割れたまま繋がっている。破片を並べ直しただけの面に、無理やり映像が乗っていた。継ぎ目のところで、映るものが少しずつずれる。 閉じた瞼の紋様が一度開いて

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    「聖女ミコト」「世界を救った英雄」 跪いた人々が、顔を上げずに呼ぶ。 声は揃っている。息継ぎの位置まで同じだった。 祭壇の上のミコトは、こちらを見ていた。 夢装は着ている。ただ、袖の青が濁っていた。水で薄めたような色になっている。「来ないで」「行くよ」「これは私の悪夢よ」「だから来た」 イノリは階段を上ろうとした。 銃口が動く。「あなたたちがいるから、選ばされるの」 その言葉で、足が止まった。 ミコトは泣いていない。 ただ、弾倉を開けて閉じるのを、さっきから三度繰り返している。「ミコト」「何」「どれだけかかったの」「え」「扉を開けるまで」 イノリは口を開いて、閉じた。「……分かんない」「そう」 ミコトは、それきり聞かなかった。 聞かなかったが、弾倉を開ける手が四度目に動いた。     * 天井の高さが、急に決まった。 巨大な天秤が降りてくる。 鎖が太い。人の胴くらいある。それが天井の見えないところから四本、まっすぐ下りてきて、皿を吊っていた。 片方の皿に、イノリとヨル。 もう片方に、街が乗っていた。屋根も、煙も、洗濯物も、そのまま乗っている。「選びなさい」 大聖堂中から声が響いた。「正しい少女よ」 街の皿では、人々が動いていた。 赤ん坊を抱く母親。夕食を運ぶ老人。明日の約束をする子どもたち。 誰も、自分が皿に乗っていることを知らない。皿の縁の外を見ようともしない。 イノリは皿の縁を見た。石畳が途中で切れて、その先は何もない。切れ目のすぐ手前に、洗濯物を干している女がいる。籠を置いて、一枚ずつ広げて、留め具で挟む。手を伸ばすと、指先が縁から出る。出ても気づかない。 英雄の選択という言葉では見えない大きさで、生活が続いている。「もし本当に反対側なら」 ミコトが聞いた。「私が二人を撃てば何千人も助かるなら、どうするの」 イノリは、撃たせない、と言いかけた。 その言葉は、ミコトの答えを先に潰す。「私は、嫌だ」 代わりに、自分のことだけ言った。「撃たれたくない。ヨルも殺されたくない。でも、ミコトが何考えてるかは聞く」「聞いた後で、止めるでしょう」「たぶん」「結局、同じじゃない」「同じかもしれない。でも、最初からなかったことにはしない」「それに、何の意味が」「分かんない」

  • 七つの悪夢を食べた魔女   正しい未来

     監察部の書庫には、失敗の記録しか残っていない。 持ち出せないので、ミコトは三日かけて書き写した。 写した紙を、また何度も読み返す。 七人へ分けた記録。剣へ封じた記録。海の向こうへ逃がした記録。 どれも、なぜ失敗したかは書いてある。 どこまで保ったかは、書いていない。 八日目に殺し合いが起きたなら、七日目までは何が起きていたのか。 十年後に風習が生まれたなら、一年目はどうだったのか。 誰も書いていない。「何読んでるの」 イノリが覗き込んできた。「書き写したものよ」「手伝う」「読めないわ。写しでも、字は監察部のものだから」「じゃあ、声に出して」 ミコトは少し黙ってから、頁の端を指で押さえた。「七人へ分けた記録」「うん」「八日目に、七つの町で殺し合いが起きた」「七日目までは?」 ミコトの指が、頁の上で止まった。「今、同じことを考えていたわ」「じゃあ合ってる」「合っているかどうかは、まだ分からない」「でも二人が同じこと考えたなら、私はもう合ってると思う」 ミコトは反論しかけて、やめた。「七日間、七人は普通に暮らしたわ」「じゃあ、七日はいけたんだ」「七日でも足りないの」「足りないけど、ゼロじゃない」「何日ならいいの」「分からないわ」「じゃあ、何日から数えるかは決められる?」 ミコトが顔を上げた。「どういう意味」「七日でだめだったなら、八日目に何があったか調べればいいでしょ」「八日目のことは書いてあるわ」「書いてあるのは、起きたことだけ?」「……ええ」「じゃあ、その日に誰が何をやめたのかは、書いてないんだ」 ミコトは頁へ目を戻した。 書いていなかった。 イノリは頁を覗き込もうとして、途中で手を引いた。「見ないよ。読めないんでしょ」「読めないわ」「うん」 三日読んで、結局は何も見つからなかった。 見つからなかったことも、ミコトは書き留めた。     * その夜、夢を見た。 白い大聖堂。何千人もの人が跪いている。「聖女ミコト」「世界を救った英雄」 跪いている人々の顔は、見えない。全員が床へ額をつけている。うなじだけが何千と並んでいて、どれも同じ角度で曲がっていた。 誰も顔を上げないので、誰が誰なのか分からない。 分からないまま、声だけが揃って上がってくる。 正面の祭壇

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