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第872話

Auteur: 北野 艾
「かしこまりました」

密は、慣れた様子で頷いた。

そこは詩織が普段からよく立ち寄る場所だった。

江ノ本市の南山湖。入口にある平面駐車場にスムーズに車を停めると、詩織は一人でドアを開けた。

「ついてこなくていいわ。少し歩いたら、すぐ戻るから」

江ノ本市の気候は、秋が一番美しい。春のような浮き足立った落ち着きのなさもなく、夏のうだるような熱気もない。もちろん、冬の肌を刺すような凍てつく空気とも無縁だ。

湖面を撫でてきた澄んだ秋風が、胸に溜まった鬱々とした思考をすっきりと洗い流してくれる。

遊歩道をしばらく歩くうち、残っていたわずかなアルコールの熱も、夜風に完全に持っていかれた。

ふと足を止めたとき、詩織ははっと息を呑んだ。無意識のうちに歩き続けていたその場所は、かつて彼女が「あの指輪」を水底へ投げ捨てた、因縁の場所だった。

あれほどの痛みを伴った別れから何年も経ち、当時の張り裂けそうな感情など、とうの昔に忘れたつもりでいた。

しかし、実際にこの景色を前にすると、まるで昨日のことのように、あの瞬間の記憶が恐ろしいほど鮮明にフラッシュバックしてくる。

吸い寄せられるように
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Commentaires (1)
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あんこ
さすがに過去が濃いだけに元サヤは無理か?
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