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24:出会いと思い(廉サイド)②

Author: けもこ
last update publish date: 2026-07-19 21:51:21

セルリアンホテルグループを大きくしてきた現社長の高辻健吾という人は、妻や子どもたちとは違い、実に合理的で、計算高いビジネスマンだ。

高辻家の離れへと身を寄せて、生活を始めてしばらくして、離婚に至る調停が裁判へと移行する頃、幾度となく水無瀬の祖父母や、その息のかかった者が家の周りをうろつくようになった。

それらを業界の中でうまく悪評として利用していたのは、彼だった。

学費をまかなえなくなることから、公立学校への転校を検討していた時、書斎に呼ばれ、今の学校を辞めるべきではない、絶対に続けるべきだと勧めてくれた。夫人や子どもたちは、優秀な自分のことを、父親が有望視しているのだ、と思っていただろうが、それは単純な親切などでは無かった。彼にとっては実に有用な投資だった。そして、自分にはそれが十分理解ができていたし、納得できていた。

彼は、自分を囲うことで、いずれ事業の中核を担う人物を育てているのだと、明言した。

「ねぇ、廉くん。僕はね、なるべく早い段階で経営から下りたいんだ。まだ、体力があって楽しめるうちに妻や子どもたちとプライベートを楽しみたい。かといって、せっかく育てた会社だ。できれば自分の収益もかねてもう少し成長させたいし、伸びしろもまだあると思う。だから、その為には事業を継承する優秀な人物を育てないとね」

「それは、孝也くんですよね。僕は、力が及ぶ限り彼を支えますが‥‥」

「ははは、孝也はこういった仕事にまったく向いていないよ。あの子は、千綾子にそっくりな本当に純粋な心の持ち主だからね。必要に駆られてだって、人をおとしいれたり、利益重視で動いたりはできない。僕は、可愛い息子にそんな苦しい将来は与えたくないよ」

辣腕経営者として知られる彼だけに、ニコニコとしながらも腹の内が読めない。

「別に廉くんに会社を継いで欲しいとかいう訳じゃないんだよ。でもね、まぁ、千綾子がお母さんにした手助けや、立て替えた学費、ここでの生活全般と釣り合いを取るには、少なからずうちで成果を上げて貰えるんじゃないかと期待しているんだ。もちろん。強制なんかじゃないよ」

「高辻さんは、会社が家族の手元に残らなくてもいいんですか?」

目の前の顔が、さらに嬉しそうに笑う。

「それは、君がうちの会社を自分のものにするかも?ってことかな。全然構わないね。権利を買い取ってもらって、綺麗さっぱり足を洗うことができたら、そりゃすっきりするよ」

「でも、お子さんにこれだけの資産を残したいとは思われないんですか?」

「あぁ、大丈夫。最低限、僕が死ねば残る遺産はあるし、会社の株や自宅と空蒼から譲り受けた別宅は千綾子の名義だから。それにうちの子達は本当に無欲で純粋だからね。余るほど遺しちゃうとどっかの誰かにすぐに目をつけられてしまうよ」

自分の家族の話をする時だけ、この人の言葉に嘘偽りのない愛情が感じられる。

「なんで、僕にこんな話をするんですか? もちろん、今までのご恩に対して、グループ会社でいずれ働くことは、僕にとってありがたい話でしかありませんが、こんな内情をお話にならなくても」

「廉くんは、本当に優秀で察しが良くて、理解が早くて助かるな。うん、なんでこんな話をしたかって言うとね、君には会社の経営に参加して欲しいけど、うちの家族からは何も奪わないでねって釘を刺しておきたかったんだ。僕はね、君が好きだよ。将来に期待しているから投資も惜しくない。孝也なんか君をあがめてるからね。おかげで成績もすごくあがった。感謝してる」

肘をついて手の甲に顎を乗せると、スッとその顔から笑顔が消える。

「綾香は、誰から見ても君を慕っているよね。千綾子なんて、綾ちゃんの初恋、とか言って喜んでるけど‥‥あぁ、僕も君くらい綺麗な顔に生まれたかった。だったら、きっとあの子はお父さんと結婚するって言ってくれただろうに」

なぜか、少し泣きそうな顔になる。

「これだけ近い距離で憧れの男の子が生活してたら、年頃の女の子は恋しちゃうよね。でもね、僕はね、娘の恋愛なんかちっとも認めたくないんだ。一生、僕の側にいてくれたらいいと思う。そのくらいの資産は十分残せると思うんだよね」

いったい何を聞かされているんだろうか。父親の娘への溺愛‥‥

「あぁ、つまりね、娘がいくら好きでも君はそれに応えちゃダメだよって話ね。もちろん、綾香はまだまだ子供だし、今は可愛い恋だろうけど、人は等しく年齢を重ねるから。廉くんには、綾香を手玉に取らなくても必要なものが手に入る土壌をいくらでも用意してあげる。そういうこと」

つまり、目の前のこの人は、可愛い娘を誰にも取られたくないから、先んじて手を打っているということのようだ。

「その‥‥綾香の」

綾香と呼び捨てにした瞬間に、一瞬、高辻社長の眉間に皺が寄る。

「あ、娘さんの相手として僕がダメだということですか?」

「あぁ、違うよ。そんなんじゃない。むしろ、廉くんは、綾香が憧れている分、多少のアドバンテージはある。もし、クソのような男に引っ掛かりそうだったら、廉くんには綾香を守ってもらいたい。でも、たとえ相手が廉くんであってもだね、娘がどこか他の男のものになるって考えただけで、僕はね‥‥僕は‥‥」

さっきまで、感情の読み取れない表情で話していたのがウソのように、目がウルウルし始める。

「綾香が産まれたときに、本当に、天使っていうものがこの世に存在するんだって知ったんだよ‥‥」

この後、娘誕生の喜びから、初めての父の日のプレゼント、二人だけのお出かけ、延々と娘への思いを語られたのだった。

この家に身を寄せて、高辻社長はただの親切で自分たちを救ってくれたわけではないことには気づいていた。きっと、会社の歯車として、孝也の側で働くことを望まれるのだろうと思っていた。しかし、それは随分と違ったようだ。

目の前で、タブレットの写真を見せながら、娘の自慢をする高辻社長は、家族に関して言えば、自分が思っていたほど、底の知れない人物では無いのかもしれない、とも感じた。

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  • 上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~   47:小さな決意

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