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35:クマに注意

Author: けもこ
last update publish date: 2026-08-02 11:59:55

うじうじとして、すっかり深夜思考にさいなまれ、昨夜はうまく眠れなかった。

せっかく好きな人と思いを遂げたばかりだと言うのに、朱莉の言うように、もっと浮かれたいと思う。

とことん卑屈な自分が悲しい‥‥。

「目の下のクマが凄いけど、どうしたの? コンシーラーで化粧直ししてくる? 貸すわよ?」

御園さんの、おはようの後の言葉がそれだった。よほどひどいらしい。

「後で鏡見てきます」愛想笑いで返して、仕事を始める。

朝自宅を出る前に、廉に、おはようのメッセージを送ると、もう空港にいるようだった。

昼過ぎには会社に戻ってくるのだろう。忙しい彼につまらない甘え方をしないようにしっかりしよう。

洗面所で目の下のクマを確認するついでに、ペチペチと頬を叩いてみた。

席に戻り、営業のいくつかの部署に回す書類を作成する。できた物から廉に確認をしてもらうためにフォルダに保存していく。

そうこうしているうちに昼を回り、廉が香港から戻ってきた。

「専務、お疲れ様です。お帰りなさいませ。ご不在中に入ってきた案件については、PCのフォルダの方に入れてあります」

手短に要件を伝える。

「ありがとう」

御園さんが、総務から回ってきた確認書類について、廉と話をしている。

彼と目線を合わせることなく、仕事を続けた。

6時を過ぎて、御園さんが隣でうーんと体を伸ばす。

「最近、つわりはどうですか?」

「うーん、まだね。今がちょうどそういう時期だから。ちょっと寝不足だったり、食べ過ぎたり、ほんの少しのことで体調が悪くなるの。こうなってみて初めて働きながら自分を育ててくれた母の偉大さがわかるわ」

眉を寄せて、ふふふ、と笑う。

「たぶん、年末年始のお休み明けにはもう少し体調が落ち着くと思うの。1月中旬には4か月になるしね」

「無理なさらないでくださいね。私、まだまだですけど、できる限り早く仕事で役に立てるようになりますから」

「ありがとう、高辻さん。後任があなたで本当に良かったって思ってるのよ」

そうこうしているうちに、エレベーターホールに藤堂課長の姿が見えた。

「じゃぁ、お先に失礼するわね。良い週末を」

御園さんを見送って、週明けの予定の確認と、これから続く年末の会食の時間組みを確認する。

同行する他部署の責任者にも連絡入れ、そちらのスケジュール一覧も被っている予定が無いか確認する。

送迎車の手配や手土産の必要な行く先などにも配慮をして、一通りは完了した。

専務室の中から声がする。今は、韓国の支社とのオンラインの会議中だ。

会議が終わるのを待つために、急ぎではない業務をいくつかこなした。

会話の終わる気配がする。扉が開き、廉が顔を出す。この後は、会食へ向かうはずだ。

「専務、同行される立浪部長にご連絡を入れますね」

「いや、まだ少し早いだろう。高辻さん、話があるので、専務室の方へ来てもらえるかな」

それだけ言うと、再び扉の向こうに消えてしまった。

表情が少し硬かったように感じる。昨夜、せっかく貰った連絡をメッセージだけで返したので機嫌を損ねたのかもしれない。

なんだか、あまり良い話ではないように感じて、気持ちが重くなった。

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