LOGIN海外を飛び回ること一年。ようやく帰国した私を待っていたのは、ディンクスを誓ったはずの夫の鳴海朔也(なるみ さくや)と、その初恋の相手、浅見舞花(あさみ まいか)との間に子供ができたという衝撃の事実だった。 激しく問い詰める私、桐谷紗雪(きりたに さゆき)に対し、朔也は悪びれる様子もなく平然としている。 「舞花の夫は子供が作れない体なんだ。俺のあのどん底だった時期を支えてくれたのは彼女だし、今、俺はこの恩を返さなきゃいけないんだ」 義理の両親までもが私を丸め込もうとする。「老後の備えだよ。自分の子供だと思えばいいじゃないか。将来、面倒を見てくれる人がいた方が安心だろう?」 私は朔也を見つめ、ただただ胸が張り裂けそうだった。 「子供は私が育ててもいいわ。でも、舞花とは一切の縁を切ってちょうだい!これが私の譲れない一線よ!」 しかし、朔也は離婚協議書を突きつけて私を脅してきた。「俺と舞花はこの子の実の親だ。血のつながりを絶つなんて、俺にはできない」 「分かったわ、それなら離婚しましょう!」
View More舞花は鳴海家から追い出された。すると彼女はネットでライブ配信を始め、「朔也に脅されて無理やり産まされた」「私は利用されただけの被害者だ」と、なりふり構わず朔也に泥を塗りたくり始めた。それが、朔也の会社にトドメを刺す最後の一撃となった。わずかに残っていた協力者たちも、その配信を見た途端、手のひらを返して契約解除を突きつけた。この機に乗じて、私は部下たちに指示を出し、彼らの醜い真実をネット上に少しずつ投下させた。二人の不貞な馴れ初めから、舞花が海外でパトロンを渡り歩いていた奔放な過去。そして、彼と結婚してからの長年、私が彼への愛の証明として卵管結紮手術を受け、子供が産めない身体になったこと。最終的に、彼が舞花に騙されて「他人の種」を自分の子供だと思い込み、すべてを失ったという滑稽な末路まで。すべての真実が、まるで連続ドラマの最新話のように次々と暴露されていく。それはネット上で大炎上を巻き起こし、瞬く間に世間の格好のゴシップとなった。朔也の会社の評判は完全に地に落ちた。もはや彼とビジネスをしようとする者は一人もいない。それどころか、イメージ失墜による契約違反で、莫大な損害賠償を請求される始末。結局、彼は自己破産を宣告するしかなかった。彼と再会したのは、それから一ヶ月後のことだった。今の彼は、人前に出れば後ろ指を指され、石を投げられるような身分にまで転落していた。そのため、私の前に現れた時は、帽子とマスクで顔を隠していた。彼は私の車の前に立ちはだかり、「なぜこんなことをした!あの一億円はどうでもいいのか!」と血走った目で問い詰めてきた。私はただ鼻で笑った。「私が、たかだか一億円ぽっちの端金に困っている人間に見える?」その一言で、彼は完全に言葉を失った。私が真実を言っていると痛いほど分かっているのだ。それでも諦めきれないのか、彼は恨み言を吐き捨てた。「お前は最初から、俺を破滅させるつもりだったんだな!だからあんな離婚協議書を用意して、俺を嵌めたんだ!」「ええ、そうよ。知らないの?嘘つきは針千本飲まされるのが相場なのよ」私が氷のように冷たい視線を向けると、そのあまりの冷酷さに彼はビクッと身をすくませた。だが、これだけではまだ足りない。「この悲惨な結末を招いたのが、一体誰のせいなのか……その頭
DNA鑑定の結果が手元に届いた。その用紙に記載された残酷な結論を見て、私は思わず冷笑を漏らした。私はその報告書をカバンに忍ばせ、朔也との面会に応じた。私を見るなり、彼は目を赤くして懇願してきた。「……俺が悪かった、全部俺の間違いだ。だから頼む、これ以上は勘弁してくれ。俺を野垂れ死にさせるつもりか?」今の彼は、たった一週間前の彼とはまるで別人のようだった。一週間前は、仕立てのいいスーツを着こなし、どこからどう見ても自信に満ちたハンサムな経営者だった。だが今は、無精髭を伸ばし、顔色は土気色で、髪もボサボサのまま。かつての威圧的で傲慢な態度は見る影もなく、頬もげっそりとこけていた。その無様な姿を見ても、私は少しも驚かなかった。むしろ、胸のすくような快感を覚えた。罪を犯した者は、相応の罰を受けるのが当然なのだ。「ええ、見逃してあげたいのは山々よ。でもね、もし私に力がなくて、あなたの会社を叩き潰せなかったとしたら……その時、あなたは私に情けをかけてくれたかしら?」私は彼を冷ややかに見据えた。彼は口をパクパクさせたが、何も言葉を発せられなかった。答えは明白だ。もし立場が逆で、私に隙があったなら、彼は容赦なく私の息の根を止めていたはずだ。私に一息つく暇さえ与えず、徹底的に追い詰めていただろう。私は彼の返答など待たず、さっき受け取ったばかりのDNA報告書を突き出した。「この報告書は、単なる私の好奇心で取り寄せたもの。見るか見ないかは、あなたが決めなさい。それから……この前病院で言ったこと、あれは本当よ。舞花は本当に、反吐が出るほど汚らわしい女だわ」私がその書類を目の前に放り投げると、朔也は震える手でそれを拾い上げた。私と十七年も連れ添ってきた彼なら、私がハッタリをかましているわけではないと分かるはずだ。彼は抗えない疑念に突き動かされ、ついにその報告書を開いた。【検体1と検体2の間に、生物学的な父子関係は認められない】その結論は、あまりにも残酷に、鮮明に記されていた。朔也の顔から、さっと血の気が引いた。「なんだよ、これ……嘘だろ?お前、俺を騙そうとして……!」私は無言のまま彼を見つめ返した。彼も頭では分かっているはずだ。今の私には、彼を社会的に抹殺し、再起不能にする力がある。わざわざこんな書類
「社長、出資元から突然、資金を引き揚げるとの連絡がありました。理由は……社長の私生活の乱れです。『家庭すらまともに切り盛りできない人間に、ビジネスを成功させる資格などない』と……それに、複数の取引先からも契約を拒否されました。彼らは皆、鞍替えして工藤家と提携を結んだようです」秘書の震える声からは、明らかな動揺が伝わってきた。この報告をすれば、朔也が激怒するのは火を見るより明らかだ。だが、事実を伝えないわけにはいかなかったのだろう。案の定、朔也は瞬時に怒り狂い、怒鳴り散らした。「契約解除だと?結構だ、こっちから願い下げだ!あんな連中がいなくたって、俺はやっていける!」言い終わるが早いか、彼は荒々しく通話を切った。口では強がっていても、その瞳の奥をよぎった明らかな狼狽は、彼自身の内なるパニックを如実に物語っていた。「あなたね!あなたがこの件を外に吹聴したんでしょ!だから朔也の会社がこんな目に遭うのよ!」舞花は素早く事態を察知すると、私をまるで万死に値する極悪人かのように睨みつけてきた。朔也も弾かれたように私へ視線を向けた。その目には、色濃い疑念が渦巻いていた。「離婚協議書にサインした途端、こんな真似をしやがって……!」その言葉は、完全に私が黒幕だと決めつけた言い草だった。私はゆっくりと首を横に振った。「半分正解よ」朔也は虚を突かれた顔をした。「どういう意味だ?」「あなたの会社の最大の出資元……なんという名字だったか、覚えているかしら?」彼の顔色が一変した。「たとえ『桐谷』だとしても、だからって……!」「残念ながら、あなたの後ろ盾になっていたのは、この私。本気で、どこぞの大企業があなたのようなちっぽけな会社をまともに相手にすると思っていたの?」私の言葉は鋭利な刃となって彼の胸を抉った。朔也の表情は、これ以上ないほど惨めに歪んでいく。彼はなりふり構わず私に縋りつき、その腕を強く掴んだ。「待ってくれ!行かないでくれ!頼む、俺の会社を見捨てないでくれ!」「どうして見捨てちゃいけない?私たちはもう、何の縁もない赤の他人よ。昔あなたを援助したのは、私があなたを愛していたから。でも今は……あなたを見ると吐き気がするわ」私は冷酷に彼の手を振り払った。なおも追いすがろうとする彼を、ボディガードが容
ボディガードが真っ直ぐに歩み寄ると、舞花はすっかり怯えきり、朔也の背後に縮こまって両目だけを覗かせた。「な、何をするつもり?ここは法治国家なのよ!警察を呼ぶわ!」「先に法を犯したのはあなたの方でしょ。不貞を働いて他人の家庭を壊しておいて、よくそんな口が叩ける」私は鼻で笑い、朔也の顔へと視線を移した。「……サインする?それとも、しないの?」朔也は離婚協議書に目を通しながら、みるみる顔面を蒼白にしていった。「どうして俺が身ぐるみ剥がされて、無一文で追い出されなきゃならないんだ?これまで俺の金で何不自由なく暮らしてきたくせに、会社まで乗っ取ろうなんて、恩知らずもいい加減にしろ!」あの会社は彼がゼロから立ち上げ、すべての心血を注ぎ込んできた彼の「第二の命」だ。何があっても手放すはずがない。そんなことは、当然分かっている。――だからどうしたという?犯した罪の重さを思い知らせるには、身を切るような絶望を味わわせなければならない。血を吐くような痛みを伴わなければ、本当の意味での悔悟などありえないのだから。「大人しくサインすることをお勧めするわ。あなたは有責配偶者なのよ。私がこの不倫を公にして、会社を社会的に抹殺するような真似、させたくないでしょう?でも……それも悪くないかもしれない。あなたが手塩にかけて築き上げたものが、音を立てて崩れ去り、最後には莫大な負債となってあなたを押し潰すのを見物するのも」私は淡々と笑った。朔也の顔色が一変した。私がそんな恐ろしいことを口にするとは夢にも思っていなかったのだろう、信じられないという目で私を凝視した。「この会社には、お前の努力も詰まってるじゃないか!よくそんな容赦のないマネができるな!」「私たちの結婚生活だって同じでしょう?あなたもそれなりに時間と情を注いできたはずなのに、自分の手であっさりとぶち壊したじゃない?」私は冷たく言い放ち、これ以上の問答を打ち切った。「嫌なら、サインしなくてもいいよ。でも、私の要求を呑まないなら、会社もろともあなたを破滅させてあげるわ」「……たとえ潰れようと、お前なんかに絶対渡してたまるか!」彼はギリッと歯を食いしばり、頑なに首を縦に振ろうとしなかった。この反応は、最初から想定の範囲内だ。即座に、傍らの弁護士が二通目の協議書を突きつけた。「会