LOGIN瀬奈が一馬を連れてやってきたのは、神宮司家の近くにある記念公園だった。
暖かい春の風が吹き抜け、瀬奈は何だか懐かしい気持ちになった。
「幼い頃、ここで湊斗とたくさん遊んだわね……」
湊斗は最初から瀬奈を嫌っていたわけではなかった。
二人は同い年で、同じ小学校に通っていた。中学に入る前までは、お互いの家を行き来してよく遊んでいた。
いつからだろう、二人の関係が変化したのは。
中学に上がり、別々の中学校へ通うこととなった二人は、これまでよりも会う頻度がかなり減った。それでも瀬奈の湊斗への想いが変わることはなかった。
彼女は毎日のように湊斗を想い続け、神宮司家に定期的に手紙を送った。しかし彼からの返事は返ってこなかった。会いたいと言っても忙しいとはぐらかされるばかり。
神宮司家を直接訪れても門前払いされた。
そんな状況が数年続き、高校一年生になった頃、瀬奈はようやく湊斗に会うことができた。
その日、いつものように神宮司家を訪れていた彼女は、たまたま門の前に立っていた彼を見つけたのだ。
およそ三年ぶりに見る彼の姿。最後に見たときよりもだいぶ大人っぽくなっていた彼に、瀬奈は涙がこみ上げてきた。そして再び燃え上がる彼への思い。
瀬奈は湊斗に駆け寄った。
「湊斗!久しぶりね!会いたかったわ!」
「……」
久々に会った彼は、以前とは別人のように瀬奈に冷たい目を向けた。
「どうしてこれまで会ってくれなかったの?私たちは婚約者なのに!私、あなたに会えなくてとっても寂し――」
「俺に触るな」
湊斗は伸ばされた瀬奈の手を無慈悲に振り払った。
「湊斗……?」
瀬奈はどうして彼がそのような態度を取るのかがわからなかった。
困惑していたそのとき、瀬奈の背後から女の明るい声が聞こえた。
「――湊斗!お待たせ!」
振り返ると、瀬奈と同い年くらいの女性が立っていた。
「……優里亜」
優里亜と呼ばれた彼女は、突然湊斗の腕にしがみついた。
瀬奈は固まった。婚約者である彼女ですら、そのような行動はとったことがない。
湊斗は瀬奈と違って彼女の手を振り払わなかった。二人の関係は、ただの友人同士というにはあまりにも距離が近すぎた。
だとしたら恋人だとでもいうのか。瀬奈は信じたくなかった。湊斗は彼女の婚約者だったからだ。
何もできずにただじっとしていると、湊斗の腕にしがみついていた彼女の視線がこちらに向けられた。
「あなたは誰?湊斗の知り合い?」
「こんな女は知らない」
「そう、早く行きましょう。今日は映画のあとホテルに行く約束でしょう?」
そんなやりとりをしながら、二人は呆然とする瀬奈から背を向けて立ち去って行った。
彼女は何が起きたか理解が追いつかなかった。腕を組みながら歩いているその姿は、とても仲の良い恋人同士のように見えた。
***
それからというもの、湊斗はプレイボーイとして多くの女性と浮名を流した。
高校生でありながら、彼は相手の年齢身分問わず様々な女性と関係を持った。高校の同級生、部活の後輩、年上の社会人の女性。まだ十七歳とはいえ、類稀なる彼の美貌は、この世のすべての女性を虜にした。
高校生になった湊斗は、いつも横に女を連れて歩いていた。その状況で瀬奈と目が合っても、気にすることなく別の女性との逢瀬を楽しむのだ。いつしか彼は、誰とでも寝る男として知られることとなった。
そんな彼が唯一手を出さなかったのが、許嫁であった瀬奈だった。
彼女は学生時代、そのことに悩んだ。自分には女性としての魅力がないのだろうかと、これまで以上に外見に気を配ったりもした。
そんな瀬奈を憐れに思った周囲の人々は、彼女を励ました。
「神宮司様はお嬢様のことを大切に想っていらっしゃるんですよ。今遊んでいらっしゃる女たちは遊びにすぎません。――瀬奈お嬢様だけが、神宮司様の妻となれるのです」
「……!」
湊斗がいくら遊んでいようと、彼の妻となれるのは自分だけ。その言葉が瀬奈の励みとなった。
「そうよね……いつまでも落ち込んでいるわけにはいかないわ……湊斗の妻に相応しい女性にならないと!」
瀬奈の中で婚約破棄という選択肢は最初からなかった。彼が自分のことを嫌う理由はわからなかったが、努力していればきっといつかは気持ちを返してくれる。
そして、瀬奈は湊斗と結婚した。
その後、瀬奈は音痴ではないことを証明するべく招待客全員の前で一曲披露した。ちょうど里亜が泰西からもらったマイクを使って。彼女は湊斗への愛が込められたラブソングを一曲歌い上げた。二十年前の歌ということで、里亜はきょとんと首をかしげながら聞いていた。誠也や真由子は瀬奈に気を使い、パンパンと手拍子をしてあげていた。何とも優しい人たちだった。一曲歌い終わったあと、微妙な空気が室内に流れた。「わ、わぁ~……神宮司さん、とっても上手ね」「そうね……一生懸命さがすごく伝わってきたわ」明らかに上手いとは思っていなさそうだ。チラッと横にいる湊斗に目をやると、口元を手で押さえて笑いを堪えていた。身体はプルプルと震えている。そんなに面白い歌だったのだろうか。瀬奈は湊斗の肩を掴んで問い詰めた。「ちょっと、何なのよ?さっきから失礼じゃない?人が精一杯やってるってのに」「いや、すまない……お前があまりにも可愛らしくて……笑ってしまったんだ」「どういう意味!?」瀬奈は子供のように頬を膨らませた。「じゃあ、アンタが歌ってみなさいよ!」「え、俺が?」突然瀬奈にマイクを渡され、湊斗は呆然とした。なぜ俺が?とでも言いたそうな顔だ。瀬奈はそんな彼に強引にマイクを持たせた。渋る湊斗を後押しするように、真由子や誠也が声を上げた。「あら、それいいですね!社長も一曲歌ってみてください!」「そうですよ社長、人の歌にケチつけるくらいなら自分で歌ってみてください」ここにいる人たちは基本瀬奈と里亜の味方。湊斗アンチも同然だった。瀬奈が受け入れたから黙っているだけで、個人的には彼を許したわけではない。周囲からの刺すような視線をひしひしと感じ、湊斗は仕方なく立ち上がった。「……しょうがないな、一曲だけだぞ」「そうよ、一曲くらい歌いなさい」瀬奈ですら、湊斗の歌声は一度も聞いたことがなかった。彼がどのくらい歌えるのか、見ものである。湊斗は先ほどのお返しだとでもいうかのように、男性向けのラブソングをチョイスした。長いイントロのあと、湊斗はゆっくりと口を開いた。―――彼が歌い始めた途端、室内はシンと静まり返った。普段の湊斗からは想像もつかない、透き通った柔らかい声が部屋に響き渡った。「あら、まぁ……!なんて素敵な歌声……!」女性陣はうっとりした様子で聞いていた。それは瀬奈も同じ
湊斗と誠也が無事に仲直りを果たし、パーティーに穏やかな雰囲気が戻った。瀬奈は部屋の隅に置かれていたプレゼントボックスの山を指差した。「里亜、みんなからプレゼントがたくさん届いているわよ。早速開けてみましょう」「わぁ、何が入っているんだろう?とっても楽しみ!」里亜はワクワクしながら、瀬奈と一緒にプレゼントの箱を開けた。愛想の良い里亜は、稲田町でもたくさんの人から好かれていた。全員が里亜のためにと、プレゼントを用意してくれたのである。最初の箱から出てきたのは、リボンがつけられた子供用の服だった。「わぁ、とっても可愛いワンピース!」「よかったわね、里亜」瀬奈は嬉しそうに微笑む娘の頭を撫でた。里亜は次々と箱を開封していった。最後に残ったのは、その中でも一番大きなプレゼントボックス。「あら……?この箱って、もしかして兄さんから……?」「え!?アイツがプレゼントを用意したですって!?」瀬奈の発言に、静香が真っ先に反応した。泰西は仕事があってパーティーには来れなかった。しかし、里亜宛てにプレゼントを贈ってくれたようだった。(兄さんったら……)このような気遣いができた人だったのかと、瀬奈は少しだけ驚いた。泰西が用意したプレゼントの箱は、他の人たちが贈ったものよりもずっと大きかった。「一体何を用意したのかしら……やけに重たいけど……」「アイツのことだし……何か変なものでも送り付けてきたんじゃないの?」「まさか、兄さんがそんなことするはずがないわ」泰西の名に、里亜ははしゃいだ。里亜は以前暁邸を訪れたことで、泰西にかなり懐くようになった。「伯父さんからのプレゼント!早く開けようよ、ママ!」「え、ええ……そうね……」瀬奈は里亜に急かされ、泰西からのプレゼントに手をかけた。その横で静香と里亜は何が出てくるのか、ただじっと見守っていた。「あら、まぁ……」「わぁ……!」里亜が感動したような声を上げた。箱の中から出てきたのは、ピアノだった。ピンク色の可愛らしい子供用電子ピアノには、歌が歌えるようにマイクも付属されている。(ピアノだなんて……兄さん、考えたわね)瀬奈も子供の頃はピアノを習っていた。才能があったわけではないが、今でも簡単な曲なら弾くことができる。「兄さんからの手紙もあるわ!なんて書いてあるのかしら!」瀬奈はプレゼントに同封されてい
里亜の何気ない一言に、誠也の顔がみるみるうちに青くなった。いつも冷静な彼がそんな表情をするなんて、珍しいものを見れた。って、今はそんなことを言っている場合ではない。(里亜、いくら何でもそれはマズいわよ)まだ幼い里亜は、そんなこと気にも留めていなかった。湊斗は険しい顔で誠也を問い詰めた。「お前、俺の妻だけではなく、娘までも誑かしていたのか……!?」「ご、誤解です……社長……!」彼の胸倉を掴み、今にも殴りかかりそうだった。その間に里亜はドレスをヒラヒラさせながら移動し、静香の元まで避難していた。後ろで揉める誠也と湊斗のことなど気にもしていない。「湊斗、落ち着いて。誠也さんは何もしていないわ。ここは人目が多いし……今日は里亜の誕生日パーティーなんだから」「……」瀬奈の言葉で湊斗はようやく落ち着きを取り戻したようだった。今日は里亜が六歳を迎えためでたい日だ。無関係な大人たちの争いごとは避けたい。瀬奈は湊斗と誠也の間に立った。「ほら、二人とも……せっかくの機会だし、仲直りしましょう」「な、仲直りだと……?お前、何を言っているんだ……?」湊斗はもちろん、誠也も彼女の提案に乗り気ではなかった。二人の過去の確執を思えば、当然のことかもしれない。(でもね……絶対に分かり合えない人間なんていないのよ?私もちょっと前まではあなたたちと同じような考えを抱いていたんだけど……)あれだけ仲の悪かった泰西と静香ですら、仲直りできたのだ。湊斗も誠也も根っからの悪ではないし、きっと上手くやっていけるはずだと、瀬奈は確信していた。「二人とも……仲良くしましょう!」「「……」」突然そんなことを言われても、仲良くなどできるはずがない。当然、湊斗と誠也は難色を示した。しかし、瀬奈は諦めなかった。「二人が仲良くなれば、きっと里亜も喜ぶと思うわ。私も……湊斗と誠也さんにいつまでも微妙な関係でいてほしくないし」「……」重い沈黙の中、先に口を開いたのは湊斗だった。「……わかったよ、お前がそう言うなら」「湊斗……!」彼は愛する瀬奈の意を汲み、誠也と仲直りすることを決めた。誠也は驚いていたが、他でもない湊斗がそう言うのならと、受け入れた。「変な言いがかりつけて悪かったな……」「いえ、お気になさらないでください、社長……」湊斗は照れくさそうにしながらも、誠也に手を差
主役の挨拶を終え、ようやくパーティーが始まった。「―――暁さん、里亜ちゃんも久しぶりね」「岡田さん、お久しぶりです」真っ先に瀬奈と里亜に挨拶をしたのは、稲田町で親しくしていた真由子だった。前の夫の不倫が原因で離婚した彼女とは、同じ心の傷を抱えた同士のようなものだった。女手一つで娘を育てるシングルマザーという点も共通しているし、ちなみに今日は彼女の娘もパーティーに来ている。似たような境遇にいたせいか、真由子とは何かと話が合った。真由子は瀬奈の耳元に顔を寄せると、小声で囁いた。「実でね……実は私、最近前の旦那からの復縁メールが届いたのよ」「な、それは本当ですか!?」瀬奈は驚きのあまり、声を上げた。真由子の前の夫は、彼女にDVを繰り返し、さらには愛人と再婚するために彼女を家から追い出したとんでもない男だった。しかし、愛人だった再婚相手との結婚生活が上手くいっておらず、彼女にまで暴力を振るうようになった挙句、逃げられてしまったのだという。(可哀想とも思わないわ……当然の報いよ)そのような経緯があり、元妻の真由子とよりを戻そうとしているということだ。その話を聞いた瀬奈は心配になった。もし、真由子にまだ元夫への愛情が残っているとしたら、彼女はあの男の元へ戻ってしまうかもしれない。(岡田さん……今回ばかりは絶対に戻っては……)しかし、そんな彼女の心配は杞憂だった。真由子は瀬奈を安心させるようにニッコリと笑った。「ええ……でもね、あんな男のところに戻るだなんて、死んでも御免よ!私は娘と二人で生きていくって決めたんだから」「岡田さん」「二度と連絡してこないで―――って返しておいたわ」真由子は瀬奈に向けてグッと親指を立てた。その返事に、瀬奈は何だか嬉しくなって真由子に笑い返した。二人の絆が、より深くなった瞬間だった。「―――瀬奈さん、お久しぶりですね」「あら、誠也さん。お久しぶりです」次に挨拶をしにやってきたのは、誠也だった。会うのはずいぶんと久しぶりだった。気のせいか、少し離れたところにいる湊斗の警戒心が高まった。「里亜ちゃん、六歳のお誕生日おめでとう」「ありがとう、お兄ちゃん!」里亜はふわふわの髪の毛を揺らしながら、誠也に抱き着いた。里亜は稲田町にいた頃、かなり誠也に懐いていた。久しぶりの再会であるため、かなり喜んでいた。そし
主役である里亜は、ピンク色のドレスを着て部屋に入ってきた。湊斗が今日誕生日を迎える里亜のため、特別に用意したものだった。「まぁ、なんて可愛いのかしら……!」「普段から愛らしい子だとは思っていたけれど……今日は妖精さんみたいね」真由子や遅れて到着した静香は、ドレス姿の里亜に自然と頬を緩ませた。里亜は誰から見ても愛らしい子だから、仕方がない。その中でも一番メロメロだったのは、もちろん湊斗だ。元々冷たく、人前で滅多に笑わない湊斗だが、今日は周囲が驚くくらい笑顔だ。自然と上がる口角を抑えることができず、彼女は里亜にデレデレだった。「里亜、こっちに来なさい」「はぁい」湊斗は里亜を呼び寄せると、彼女を抱き上げて膝の上に乗せた。ウェーブのかかった髪の毛は、瀬奈がヘアアイロンで巻いてあげたものだった。頭にはティアラが付けられている。いつだったか、里亜はお姫様になりたいと言っていた。その願いを誕生日である今日、叶えてあげることにしたのだ。正面に座る真由子が、里亜を見て口を開いた。「里亜ちゃんはいつもと変わらず可愛いわね。子供の頃の暁さんによく似ているんでしょうね……」「ありがとうございます。でもどっちかというと里亜は夫に似ているんですよ」「まぁ、神宮司社長に……?」その瞬間、真由子や誠也たちの視線が湊斗に集中した。「……何だ」信じられない、あの冷酷な社長がこんなに可愛かったのかでも言いたそうな瞳。湊斗は不快感を抱いた。湊斗の幼少期を知っている人物であれば、間違いなく瀬奈よりも彼のほうが里亜にそっくりだと感じるだろう。それほどまでに、二人は似た者親子だった。「さぁ、里亜。みんなに挨拶をするのよ」瀬奈は、湊斗の膝の上に座る里亜に小声で囁いた。里亜はコクッと頷くと、瀬奈と練習した通りに挨拶を始める。「今日は里亜の誕生日パーティーに来てくれてありがとうございます、みなさん」里亜が言葉を発した途端、場が静まり返った。小さな主催者の挨拶に、全員が耳を傾けている。「みなさんのために美味しいご飯をたくさん用意しました。ぜひ楽しんでいってください」里亜が挨拶を終えると、パチパチと小さな拍手が鳴り響いた。きちんと挨拶できた里亜の頭を、湊斗が愛しそうに撫でた。
それから数週間が経ち、里亜の誕生日当日になった。里亜は六歳になり、あと半年も経たないうちに小学校へ入学することとなる。(時の流れはとっても早いのねぇ……)瀬奈はすっかり大きくなった里亜を見つめ、心の中で呟いた。今日、彼女は里亜の誕生日パーティーを開いていた。場所はすっかり住み慣れた神宮司邸、瀬奈はパーティーのためにケーキやチキンなどの料理を一生懸命作っていた。(部屋の飾りつけもしないと……)瀬奈は猛スピードで料理と飾りつけを終わらせ、招待客たちを迎え入れた。「―――神宮司さん、久しぶりね」「瀬奈さん、お久しぶりです」始まりの時間が近づき、家を訪れたのは誠也や真由子たち稲田町のメンバーだった。会うのは実に数ヶ月ぶりだった。何だか、ずいぶん懐かしく感じられる。瀬奈は誠也たちとの再会を、心から喜んだ。「皆さん、ようこそ神宮司家へ!今日は里亜のために足を運んでくださって、とっても嬉しいです」「当然のことですよ、瀬奈さん」誠也が笑顔で言葉を返した。後ろには皆川社長や親しくしていた社員たちもいる。もちろん、里亜にとっては叔母の静香やその旦那も後々来ることになっていた。「よかったら、私たちも何か準備を手伝いましょうか?」「いえいえ……既に大半は終わらせているんです。皆さんはゆっくりしていてください」瀬奈は彼らをリビングに通した。その後湊斗が仕事から戻り、いよいよパーティーが始まった。開始早々、彼女の横に座っていた湊斗が不満そうに愚痴を溢した。「なぜこんなにも多く人が……俺とお前と里亜だけではダメだったのか?」「どうせなら、人をたくさん呼んだほうがいいでしょう?賑やかだし」「だが、あの男まで呼ぶ必要があるか?」湊斗が視線を向けた先にいたのは、誠也だった。湊斗と誠也には、実はかなり深い因縁があった。「里亜は誠也さんに懐いていたし……彼だけ呼ばないなんて酷い話だわ」「……」誠也を呼ぶかは瀬奈も悩んだが、里亜自身が望んでいたので仕方がない。大事なのは瀬奈の意思ではなく、主役の里亜の意思だった。そこまで言うと、湊斗は諦めたように口を開いた。「じゃあ……二人きりになるの禁止な」「……湊斗?」―――そのとき、湊斗がまるで周囲に見せびらかすように瀬奈を抱きしめた。そして、彼女の頬にチュッとキスをした。(ちょ、ちょっと人前でなんてことしてる