LOGIN唯花は驚き言った。「そうかな?私そういえば……遥さん、私、生理が今月まだ来てない気がする」まさか、本当に妊娠したのだろうか。「ここ暫くは生理の周期に乱れがあって、たまに数日遅れることもあったから、特に気にしてなかったの。だけど、数日遅れはするけどちゃんと生理は来ていたし」「絶対妊娠したのよ」遥は笑って言った。「人によっては妊娠してすぐに反応が出るらしいの。唯花ちゃん、おめでとう!」唯花も笑った。「遥さん、まだ本当に妊娠したのか、それともあまりに考えすぎたせいで想像妊娠したのかわからないから、まだお祝いの言葉はやめてちょうだい。もし、違ってたら祝い損よ」「私の経験と直感からいくと、絶対に妊娠したに間違いないわ。依茉さんは医者だから、ちょっと診てもらったら、わかるわ」そう言いながら、遥は唯花の手を引いて連れ出した。使用人に頼んで、依茉を探しに行ってもらった。 唯花は遥にソファに座らされた。みんな唯花は一体どうしたのか、心配そうに尋ねた。遥は笑って言った。「唯花ちゃん、もしかしたら妊娠したのかもしれないの。生理がまだこないのに、妊娠したって可能性を全く考えていなかったなんてうっかりしてたのね」「本当に?唯花さん、おめでとう!」子供部屋に集まった女性たちはその知らせを聞いて唯花にお祝いの言葉をかけた。唯花は気まずそうに言った。「まだ妊娠かどうかはわからないですから」優奈が言った。「さっきお手洗いに走っていって吐いたんですよね?生理も来ていないし、吐いたのなら、それは妊娠の反応ですよ。きっと間違いないです」「依茉さんを呼びにいってもらってるから、彼女が来てから診てもらえばすぐにわかるわ」唯花は笑っていたが、実際内心緊張していた。本当に自分が妊娠したのかどうかわからない。ただの喜び損になるのではないかと思っていた。どれほど彼女が妊娠を望んでいたことか。結城家のみんなは子供の催促はしてこなかったが、それでもやはりプレッシャーは大きかった。毎回伯母が彼女のお腹を見つめていたから、心配されていることもわかっていた。周りは彼女にプレッシャーをかけないようにするために、我慢し、彼女の前でできるだけ子供の話題は避けるようにしていた。使用人が依茉を探しに来た時、周囲にアンテナを張り巡らせていた
理仁は少し黙ってから言った。「俺も焦ってないんですが、うちの妻が焦っているんですよね。彼女は普段仕事を忙しくして子供のことを考えないようにしてるんです」彼は全て知っているのだ。それに彼女のことを思うと辛くなる。そして時には自責の念に駆られてしまう。自分が彼女をこんなにプレッシャーのある世界へと引き込んで、彼女に大きな圧力をかけていると思ってしまう。彼も家族も子供の催促をしていなくてもだ。しかし、唯花は彼の妻で、結城家の女主人となるのだから、誰かが何かを言わなくても、形のない圧力がかかり、唯花を呑み込んでしまいそうだった。蒼真が理仁の肩をぽんと叩いた。「もし希望があれば、先生が戻ってきたらお二人を診てもらいますよ」理仁は黙っていた。彼は頑なに自分も妻も問題はないと信じていた。それに、名医に診察してもらい、また唯花にプレッシャーを増やしたくはないと思った。唯花は最近よく眠そうにしている。つまりかなりのプレッシャーがあるからだろう。それにより、休息する時に睡眠の質が下がり、いつも眠気に襲われているのだ。「それか、少ししてから、今後診てもらいたいと思ったら、先生に俺から連絡してもいいです」誰かが名医に会いたいと思っても難しいが、桐生家にとっては難しい話ではない。弘毅の妻が名医の唯一の教え子だからだ。桐生家と名医は親戚とも言える。名医は依茉の先生であり、養父でもある。彼女は名医に拾われて、大人になるまで育ててもらった。理仁は頷いた。するとみんなは話題を変えて、ビジネスの話をし始めた。悠と芽衣はまだ小さいが、両親が有名な人物なので、二人の百日祝いはもちろん盛大に執り行われた。多くのアバンダントグループと取引きのある人たちが様々な所からやって来た。そして、パーティーに出席できるように多くの人が理仁夫妻同様、数日前に到着していた。ここ数日、音濱岳は非常に賑やかだった。そしてすぐに、双子のお祝いパーティーが始まった。当日、唯花に少し異変があった。唯花はこの日やっとのことで芽衣を抱っこすることに成功したのに、なぜか芽衣から漂うミルクの匂いに、気持ち悪くなり吐き気をもよおした。唯花は我慢できなくなり、すぐに芽衣を遥に渡して、口元を押さえ、トイレに駆け込んだ。彼女のこの様子にみんなが驚い
瞬きするくらいの一瞬で舞は芽衣を抱き上げた。遥の養母である雨宮百恵(あまみや ももえ)は悠を抱き上げた。その動作は素早すぎて、桐生家の年配者たちに子供を抱っこするチャンスを与えなかった。遥は唯花に近寄り、耳元で小声で言った。「見た?私はもう誰も構ってくれないのよ。孫ができると娘なんて目に入らなくなるの。お父さんとお母さんも、今ではこの双子にしか興味ないんだから。私が双子を連れずに家に帰ったら、何しに帰ってきたのってお母さんに言われるわ」唯花は遥の気持ちが十分理解できた。唯花が琴ヶ丘に行くのと同じで、陽を連れて行かなければ、義父母から歓迎されないのだ。蒼真と、遥の二人の兄にもてなされていた理仁は、舞が芽衣を抱っこしてソファに戻ってくると、たまらず首を伸ばしてまだ小さな女の赤ちゃんを見つめた。そこへ篠崎伊織が言った。「結城社長、そんなふうに見ても、うちの姪っ子を抱っこするチャンスは回ってきませんよ。おじである私ですら、そのチャンスはなかなか掴めないんですからね」伊織の妻である葵(あおい)はどうにかしてそのチャンスを掴める。伊織も妻が姪っ子争奪戦に勝った時にやっと芽衣を抱っこすることができるのだ。芽衣は大勢の愛を独り占めにするほどに受けていると言える。雨宮昇平(あまみや しょうへい) は得意げに言った。「遥の兄である俺のほうはラッキーですね。遥が子供を連れて家に帰ってきた時は、芽衣ちゃんを好きなだけ抱っこしてられますから」そう言うと、彼は伊織の羨望と嫉妬の眼差しを受けた。すると昇平はさらに得意げになった。年配世代はみんな双子の話題でにぎわった。唯花たち若い女性たちもそれぞれおしゃべりしていた。蒼真は同世代の男数人を呼んで外に行き、みんな庭にある東屋に座った。蒼真は理仁に言った。「今回は数日長く泊まっていかれてください」理仁は頷いた。「もちろんそのつもりです。唯花はあの双子ちゃんのことをとても気に入っていますから」「お二人は……お子さんはまだのようですね?」蒼真は心配そうに小声で尋ねた。「名医の先生が帰ってきているところです。彼にちょっと診てもらいましょうか?」理仁がその返事をするのを待たずに、伊織が言った。「結婚して一年経って妊娠しないのはおかしいかな?俺と葵もまだ子供はできていないけど、ちっ
「篠崎家のご両親の話にはとても興味があるんだ」唯花は小さな声で言った。「うちの理仁さんもたまに教えてくれるんだけど、あんまり詳しくないの。それだけでも聞いたらなんだかこそばゆくなっちゃって」遥は笑って言った。「両親の話は私も後のほうのことしか知らないよ。二人の過去のことはあまり私でも詳しくないから。お父さんに聞いても、普段は言いたがらないし、お母さんもただ笑うだけ。もう過ぎたことだから話したくないんだって。まあ、二人の過去がどうであれ、今とても仲が良いからそれでいいんだけど」遥は母親が過去のことを思い返したくない気持ちがわかっていた。それはつまり遥が失踪していた時期のことであり、母親が人生で最も苦しんだ期間だからだ。彼女の母親はその事が原因で二十年以上も心を病んでいた。そして、遥の実の父親は表向きは平気なふりをしていたが、実際はただぐっと耐えていただけなのだ。ひとことで言うと、母親は苦しみ、父親も辛い思いをして過ごしていた。そして今はその苦しみは全て過去のこととなった。篠崎家はこの先は何も憂いなどなく、遥の両親も状態は良くなっている。それに、父親は当主の座を継がせて、全身全霊で母親に付き添い、過去の分まで幸せにしてあげようとしている。娘として、遥も両親の余生は楽しく幸せであってほしい。だから、彼女はもう両親の過去について尋ねることはなくなった。「そうね、仲が良ければそれでいいわ。私の両親がもしまだ生きていたら、きっと仲が良かったはずよ」唯花は遥を羨ましくも思った。両親がいない今、遥のほうが唯花よりも幸せな部分が多いだろう。遥には自分のことを本当の娘と同じように大切にしてくれている養父母がいる。それに実の両親もいて、養父母である雨宮家と篠崎家は親戚関係のようになっていた。しかし、唯花にとって本当の意味での血の繋がった家族は姉しかいない。遥は唯花の手を握り、何も言わずに彼女をいたわった。唯花はすぐに気持ちを整えた。唯花は今音濱岳邸の客人として来ているのだから、こんなふうに悲しい気持ちを引きずっていてはいけない。豪華なリビングは人でいっぱいだった。桐生家の年配世代もみんな揃っていた。遥の実の両親には、唯花は一度会ったことがある。唯花は篠崎宏武(しのざき ひろむ)、舞(まい)夫妻に挨拶をした
「女性は結婚して幸せに生きていきたいなら、自分自身が強くあるか、それかとても頼りになる実家の家族がいるかね。私には娘ができたけど、まだ一人しかいないから、将来芽衣が結婚して遠くに行っちゃうってなったら、絶対耐えられないよ。蒼真に関しては言うまでもないわね。彼は芽衣のことを目に入れても痛くないくらいに可愛がっているから。瀧と、それに久保家の子供もいて、蒼真ったらすごく警戒してるのよ」唯花は思わず笑いがこみあげてきた。「瀧君だってまだ三歳でしょ、何もわからないじゃない。優奈さんのお子さんとあなた達の双子ちゃんは同い年だけど、今は食べるか寝るかしか知らない年齢じゃない」「蒼真はそれでも警戒してるのよ。彼ったら、せっかく女の子が生まれたのに、しっかり守らないといけないって。どこの馬の骨とも知らない男が芽衣に近寄ってきたら、すぐに追い払うんだって。よその家の息子にはそんな考えを持たせないって気張ってるわよ」蒼真が今最も警戒しているのは、養子として迎えた瀧だった。瀧は非常に頭が良い。あの名医まで彼は才能があると認めている。しかし、瀧は血にまみれた憎しみの運命を背負っている。それに、彼の本当の出身はA市からはとても遠い場所にある。蒼真は瀧が大切な娘を奪うのではないかと考えるだけで、食欲もなくなり眠れなくなる。そのせいで極度の不眠症になってしまい、遥はもはや苦笑いするしかなく、彼に考えすぎだと諭していた。瀧のほうは芽衣を本当の妹のように思っている。それはまだ彼が毛も生えていない小さな子供だからだ。蒼真は本当に変な考えまでして、おかしな方向へいってしまっている。「わかる、それは本当にわかるわ」唯花は笑って言った。「うちの理仁さんなら、ははは、きっとお宅の旦那さんよりももっとすごいわよ。夫だけじゃなくて、結城家全員が女の子の周りに警戒するでしょうね」結城家には何代にもわたって、女の子が生まれていないからだ。もし、唯花が本当に娘を生んだら、結城一族はこぞって、唯花の娘をお姫様のように大事に大事に家に閉じ込めてしまうだろう。結城家の令嬢に手を出そうと思うのは、自殺行為と同じだ!「私たちが結婚した相手の家はだいたい似ているわね」桐生家は結城家のように全く娘が生まれないという家系ではない。しかし、蒼真たちの世代には女の子はいない、悠の
遥は慰めるように言った。「唯花ちゃん、そんなに心配しなくていいよ。依茉さんなら絶対に咲さんの目を治療できるはずだわ。彼女の先生は名医と呼ばれる方で、諺でも『青は藍より出でて藍より青し』って言うでしょう?」唯花は言った。「ええ、私たちも酒見先生のことを信じてる」依茉も、辰巳には治療ができるようになったらすぐに星城に赴いて、咲の治療をすると約束していた。「善君と姫華さんはどんな感じ?彼ったら私たちにはあまり自分の事を話さないから。それで私たちから聞いてもあんな感じなのよね。お義父さんとお義母さんは早く彼と姫華さんが結婚したらいいのにって思っているのよ」遥は善の結婚について話題を変えた。「二人も何度も星城に行きたいって言っているのに、善君が許さないのよ。彼は、まだ親の顔合わせをするような段階じゃないって言うの。それに彼もまだ姫華のお母さんから認められていないから、私たちもただ、まだかまだかと焦って待つしかなくて、何も手助けできないのよね」善と姫華の事になると、唯花もどうしようもないという顔をして、遥に言った。「桐生さんと姫華はとても仲が良いんだけど、伯母様がどうしてもこだわり続けているのよね。確かにまだ両家の親の顔合わせには早いと思う。今、桐生さんには手強いライバルもいるし」「え、恋のライバル?」「伯母様が姫華を遠くに行かせたくなくて、星城にいる好青年を何人か選んでいたの、姫華とその中から誰かをくっつけようとしたわけ。で、桐生さんがこの件ですごく切羽詰まってしまって、だから彼と姫華はもう暫くもがき続けないとゴールインできないかも。伯母様はすごく寛容な考えを持った方なんだけど、ただ姫華の事となると、こだわりが強くて大変。私たちだって呆れてるの。何度も説得してみたんだけど、どうしても聞き入れてくれなくて」唯花はため息をついた。「もしかしたら、将来私に娘が生まれて、その子が結婚して遠くに離れちゃうってなった時に、やっと伯母様がここまで固執するのが理解できるのかも」姫華が善と結婚したとしても、実際は変わらず星城で暮らすことになる。それに、神崎家は善の購入した屋敷のお隣だから、姫華は誰よりもすぐに実家に帰れるのだ。しかし、詩乃にとっては、善がA市出身で、姫華が彼と結婚してしまうと、頻繁に彼とともにA市に行くことになるのが心配なのだ
唯花はこの時、自分は本当に恵まれた人間だと改めて感じていた。結婚した男性はたまに小さなことで腹を立てるが、彼女のことをとても大切にしてくれている。絶対に彼女に暴力を振るうようなこともないし、浮気される心配も全くない。それに彼は教養を重んじる家庭出身である。結城家のように開放的な考えを持ち、嫁の家柄にもこだわならい名家というのは、上流階級の家柄の中でも異端児のような存在だった。当初、おばあさんが唯花に、命の恩人に悪い孫など絶対に紹介しないと言っていた。実際、結城おばあさんの孫はみんなよくできた男たちばかりである。理仁は一番年上だから、一番最初に考えて決めただけだ。「東夫人はも
唯花は少し考えて言った。「別にそこまでプレッシャーには感じていないつもりなんですけど。あちらのおうちからも子供について言われることはありません。おばあさんからたまに早くひ孫に会いたいなと言われるくらいです。理仁さんから暫くしたらA市に旅行に行こうって言われています。桐生家のご当主に会いに行こうって」理仁は唯花の友人関係はまだ浅いと思っていた。彼女と蒼真の妻である遥が友達になればいいと考えているのだ。唯花は善は桐生家の坊ちゃんで、彼は姫華のことが好きだから、唯花自身が遥と親交を深めて桐生家の家風を知ることができれば姫華のためにもなると思っていた。桐生家が世間から評価されているような一族な
「結城さん?」咲は状況がよく理解できず口を開いた。「俺は別に花束を受け取る趣味もないし、彼女もいませんから。あなたにここまで持って来てもらったのは、俺のいる場所へのルートに慣れてもらうためだったんです。そうすれば今後は何かと便利でしょう」辰巳は笑いながら説明した。「だけど、さっきのあなたのバカみたいにポカンとした様子ときたら、おかしかったですよ。楽しませてもらったお礼に今日はご馳走します。行きましょう」それを聞いた咲は心の中で、バカはそっちのほうだ!と罵っていた。彼のよくわからないやり方のせいで、アホのようにポカンとさせられてしまったのだ。しかし咲はその表情をあの淡々とした
結城家がA市の桐生家よりもさらに女の子が生まれにくいことを考え、理仁は心の中で誓った。絶対に凄腕の占い師か祈祷師を探し出し、何か祟りや呪いでもあって女の子が生まれなくなってしまったのかどうか、それを見てもらうのだ。「理仁、辰巳君と咲さんって、今どんな感じ?辰巳君なんだか自分で自分の首を絞め始めているような気がするのだけれど」この時、唯花は話題を変えた。夫がいつもいつも娘が欲しいと考えるのをやめさせるのだ。これは彼女もかなりのプレッシャーを感じてしまう。「まあお似合いではあるんじゃないかな。柴尾さんの目がまた光を取り戻したら、もっと二人はお似合いだろうけどね。辰巳がどうして自分の