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第2話

Autor: バズる転生作者
家に帰ると、母・桑原美咲(くわばら みさき)はひと目で私が熱を出していることに気づいた。

「まあ、すごい熱……!京介たちと誕生日を過ごすんじゃなかったの?」

「……もう、いいの。あの人たちのことは、もういい」

声を出すたび、喉が焼けるようにひりついた。

母はしばらく黙り込んでから、静かに言った。

「無理に合わせなくていいわ。海外へ行きたいなら、そうしてね」

私はうなずいて、2階の自室へ上がった。

ベッドに横になろうとした時、京介からメッセージが届いた。

【おい、どこ行ったんだよ。勝手に帰るなら、せめてひと言くらい入れろよ】

先に帰った私を気遣う言葉は、ひとつもなかった。並んでいたのは、責める言葉ばかりだった。

5人のグループチャットでは、真っ先に梨乃が謝ってきた。

【ごめんね、千代。私、席の予約を間違えちゃって……】

すぐに京介が返信する。

【お前のせいじゃないだろ。あの場で嫌なら嫌って言えばよかったんだよ。今さらそんな態度取られても困る】

翔もすぐに続いた。

【そうだよ。梨乃のせいじゃないって】

風斗も短く打った。

【千代がひとりで拗ねてるだけじゃん】

私は黙ったまま画面を見つめる。

グループ名は「姫と3騎士」。私はあとから加えられただけで、京介が私につけた名前は「姫のメイド」だった。

頭の奥がずきずきと痛んでいる。

もう何も見たくない。だから、逃げるようにグループを抜けた。せめて少しだけ、静かになりたいのだ。

その夜、夢を見た。

子どもの頃、京介も翔も風斗も、口をそろえたように「千代は僕たちが一生守る」と言っていた。私をいじめる相手がいれば、誰より先に怒ってくれた。

けれど、そこに本物のお姫様みたいな子が現れた。

貧しい山あいの町から転校してきた、ユリの花みたいな梨乃。

私は彼女を自分たちの輪の中へ迎え入れた。まさかそれが、自分の居場所を手放すことになるなんて、その時は思いもしなかった。

梨乃が来てから、京介たちは目に見えて彼女を甘やかすようになった。

ペットボトルの蓋を開けるのは当たり前で、飲み物を用意し、勉強を教え、荷物を持ち、毎日のように家まで送っている。

かつて私に向けられていたものは、いつの間にか全部、彼女のものになっていた。

夢の中で、場面がふっと切り替わる。

騎士姿の京介が、私に剣を突きつけて言い放った。

「梨乃を傷つける者は、誰であろうと許さない」

私ははっと目を覚ました。枕が涙で冷たく濡れていた。

荒い呼吸がようやく落ち着いた頃、私はスマホを手に取り、翌朝A国へ発つ便を予約した。

気づけば、私はまた勝手にグループチャットへ追加されていた。

京介たちは個別にもメッセージを送ってきてたが、どれもこれも私を責めるものばかりだった。

【どういうつもりだよ。またお嬢様のわがままか】

【千代、そういうのやめろよ。俺たちのこと、少しは考えろって】

京介からは、さらにこんなメッセージまで届いていた。

【梨乃が昨夜泣いた。俺たち3人でひと晩中なだめたんだ。お前から謝ってやれよ】

私は全部無視した。通知もまとめて切った。

翌日、会社へ行き、異動の手続きを済ませた。

ようやく外に出たところで、梨乃が立っているのが見えた。

そういえば、卒業後、彼女がうちの会社に入れたのも、私が口を利いたからだった。

「千代」

梨乃は私の袖をそっとつまみ、しおらしく見上げてきた。

「……怒ってる?」

「別に」

できるだけ淡々と答えたつもりだった。

けれど、梨乃は急に泣き出した。まるで、私が泣かせたみたいに。

「梨乃!」

少し離れたところから京介たちの声が飛んできた。

京介が私を押しのけるようにして梨乃の前に立ち、心配そうに彼女を見つめる。

「千代が、何かしたか?」

梨乃は首を横に振る。何も言わない。ただ泣いている。それだけで、彼らには十分だった。

翔が苛立ったように言った。

「千代、お前やりすぎだって」

風斗も低い声で続けた。

「梨乃をそこまで追い詰めるなんて、ひどすぎるだろ」

もう、うんざり。

これ以上関わりたくない。背を向けると、京介が私の腕を強く掴んだ。怒りを押し殺したような目をしている。本気で怒る時の目だ。

「謝れ」

手首の痛みより、胸が詰まるほうが苦しかった。

昔は彼の機嫌を損ねないように、何度も何度も我慢してきた。

けれど、もう我慢しない。

私は深く息を吸って、まっすぐ言い返した。

「何に謝るの?事情も聞かないで謝れって、どういうこと?」

京介たちはほんの一瞬だけ言葉に詰まった。

それでも、口を開けば梨乃の味方ばかりした。

「梨乃が理由もなく泣くわけないだろ」

翔が眉をひそめた。

「千代、梨乃は俺たちの友達なんだ。いつもそんな上からみたいな態度で彼女を困らせるな」

風斗は梨乃に向き直り、声を和らげた。

「桑原グループなんか辞めて、こっちに来いよ」

梨乃は困ったように、一度だけ私を見た。

最後に決めたのは京介だ。

「いい。梨乃は俺のアシスタントにする。俺が一からみっちり教える」

それから横目で私を見て、言った。

「それで文句ないよな?」

私はふっと笑い、つかまれた手首を振りほどいた。

「好きにすれば」

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