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第8話

作者: スイカなんて食べてない
理央は、幽霊のようにあてもなく街を彷徨った。

脳裏で一本の糸がピンと張り詰めているような感覚がある。緩めたいのに、意思とは裏腹にその緊張感は消えてくれない。

崇人が三代目の主治医になって以来、こんな不快な感覚に襲われるのは久しぶりだった。

誰かに操られ、引っ張られているような感覚。けれど、その糸の端を握っているのが誰なのか、見当もつかない。

崇人のことは、信頼に足る人物だと思っていた。

だが、それはあの会話を聞くまでの話だ。

今となっては、彼との間に築いた信頼関係のすべてを、根底から疑い、精査し直さなければならないだろう。

いつの間にか、空の色が重く沈んでいた。

降り出しそうだ。

そう思った途端、前触れもなく大粒の雨が激しく地面を叩き始めた。

理央は逃げ込むように、近くのコンビニの軒下に身を寄せた。

そこへ、一台の車がゆっくりと近づいてきて路肩に停まった。

アプリで呼んだ配車サービスの車かと思い顔を上げた理央の目に飛び込んできたのは、真っ赤なランボルギーニから降り立つ恭弥の姿だった。

「どこ行ってたんだ!病院で大人しくしてろって言っただろ!?お前ってやつは、いっつもそうやって人に迷惑ばっかかけて……俺がどれだけ探したと思ってるんだ!帝都中ひっくり返す勢いで走り回ったんだぞ!」

矢継ぎ早に浴びせられる質問攻めに、理央は頭痛を覚えた。

彼女は冷ややかな目を恭弥に向ける。

社交界きってのプレイボーイとして名高い御曹司が、今は見る影もない。半身はずぶ濡れで、高級シャツの襟はよれよれ。いつも完璧にセットされている髪は鳥の巣のように乱れ、目の下にはくっきりと隈が浮かんでいる。

普段なら運転手付きの送迎車で移動する彼が、運転席から降りてきた。

どうやら、本当に自分の運転で帝都中を探し回っていたらしい。

だが、それが何だと言うのだ?

「あんた、頭おかしいんじゃない?」

理央は吐き捨てるように言った。

「なんだと……」

「病気なら医者に行きなさいよ。私に何の用?まさか、あんたも私にスマホを叩き壊されて、病室に監禁されたいの?」

理央は心底うんざりしていた。

ようやく熱が下がったばかりだというのに、次から次へと他人の罠や思惑に振り回されている。そもそも、私をあの十六階から飛び降りる寸前まで追い込んだ張本人が、どの面下げて被害者ぶって説教
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