王宮に到着するなり謁見申請をしたが、名前を告げるなり待機する貴族たちを飛ばしてレイフォード王子は私に会ってくれた。
馬車にいた間に呼吸を整えることには成功した。
深呼吸をし、レイフォード王子の執務室をノックする。 窓際に立っていた、彼が部屋に入ってきた私を見るなり笑顔で迎えてくれた。 窓から差し込む陽の光に照らされたプラチナブロンドの髪が美しい。「レイフォード王子殿下に、ルミエラ・モリレードがお目にかかります」
「ルミエラ、よく来てくれたね」呼び捨てにしてきたのは、今この部屋に私と彼の2人しかいないからだ。
そして、名前を呼ばれて違和感を感じつつも私の心臓が跳ねたのは彼に恋心を抱いているからだろう。 (クリフトの言う通り、私はスタンリーから彼に乗り換えようとしてるの?)言いようのない罪悪感に襲われる。
話をしてくれたら、きっとクリフトとも分かり合えると思っていた。 でも、その会話自体が私を今混乱させている。 「ルミエラ、顔色が悪いぞ。まあ、座ってくれ」 「ありがとうございます」私はレイフォード王子に促されるがままに、応接室の青いベロアのソファーに座った。
体が沈み込み、このまま横になりたくなる。 クリフトとの少しの会話で私の精神はすり減っていた。「ルミエラ、実はそなたに話があって、こちらから伺おうかと思ったのだ」
「お話とは何でしょうか?」 「その⋯⋯婚約破棄の話なのだが⋯⋯」「殿下、なぜ、昨日マリソン侯爵邸にいらっしゃったのですか?」
私は咄嗟に殿下の会話を遮っていた。非常に無礼な行動だとわかっていたが衝動的にしてしまった。
(既婚者なのに、自分が求婚されるとでも思ったの?)「タチアナに言いがかりをつけて婚約破棄する為だ。気が強い女だから、挑発して焚き付ければ乗ってくると思っていた」
「殿下⋯⋯まさか、わざとバルコニーで私に口づけをしましたか?」私の疑問を肯定するように殿下は頷いた。
あのキスは私にときめきとスタンリーへの罪悪感を感じさせたが、殿下はただタチアナ嬢に見せる為にした事だと言っている。
「失望」といった感情が流れ込んでくる。
彼が私にキスしたくてしたのではなくてがっかりしたと言うより、私はレイフォード王子が思ったような方ではなくて失望している。「タチアナと結婚した回は、僕が即位した際の民衆の人気が低くてな。なんだか王家が民衆の敵みたいなムードが盛り上がり、クリフトが僕を倒す流れになりがちなのだ」
レイフォード王子は何度、時を繰り返したのだろう。
もう、感覚が麻痺するような程、多くの時間を過ごしたようだ。明らかに時間の繰り返しや、周囲の出来事をまるでゲームのイベントのように捉えている。
『アクアマリンの瞳』を読んだ限りでは、レイフォード王子の悪政により王家が支持を失っただけでタチアナ嬢に罪はない。「あの、それで、殿下のお話とは⋯⋯」
私と同じように時を繰り返しているのに、私は殿下を同志ではなく苦手な男と見做し始めていた。彼の見た目に惚れて、恋人の振りをして一瞬恋に落ちた気がした。
しかし、どうやらその夢から覚めるのも早かった。「実は、もう、この段階で聖女マリナが見つかったのだ。彼女は近々16歳になるし、彼女を正室として迎えようと思う。聖女を妻にすれば、民衆の人気を取ることなど容易い。クリフトもやっていた事を真似ようと思ったのだ」
得意げに話すレイフォード王子は可愛らしい。
でも、とても浅はかな考えを持っている。 何度、時を繰り返しても彼は成長しないようだ。 この世界では16歳で成人し結婚できる。 事実私も16歳でスタンリーと結婚した。 そして身分の上である人間からされた求婚を断るのは難しい。彼は国王の1人息子として大切に育てられ、20歳の誕生日プレゼントのように王の冠を受け取る。
「何を、しょげてるのだ。ルミエラは本当に可愛いな」
突然、向かいから隣に座って擦り寄ってきたレイフォード王子にドレスの上から太ももを撫でられる。私はあまりの出来事に絶句してしまった。
(もしかして、私が彼に気があると勘違いされている?)確かに恋心を抱いた瞬間はあったが、今は完全に冷めている。
自分の心の変化に自分でも驚いているくらいだ。「おやめください」
「勿体ぶらなくても、そなたの気持ちは分かっている。公爵との離婚が成立したら、僕のところに来ると良い。そなたを側室として迎えるつもりだ」 「離婚はしません」 「公爵が拒否しても、この間のメアリア嬢との不貞行為の事実を使って離婚すれば良い。僕も力になるから」微笑みながら、レイフォード王子は顔を近づけてくる。
私はそれを避けるように、立ち上がった。「私はスタンリーと協力してクリフトを育てていきます。離婚はしません。お言葉ですが、レイフォード王子殿下、聖女マリナを手に入れたところで同じような道を歩むだけかと思います」
結構、失礼な言葉を言ったつもりなのに、王子殿下はなぜだか笑っていた。
とても美しい笑顔だが、全くときめかない。「自分ではなく、聖女マリナを正室に迎えると言ったから拗ねているのか? でも、それは仕方がない事だぞ。公爵のお古を国王になる僕が妻に迎える訳にはいかないだろう。でも、僕は良い子ちゃんな聖女マリナより、そなたのような悪い女の方が好きなんだ。そなたを1番可愛がってあげるから、拗ねるでない」
恋心を1度は抱いた相手だが、吐き気がした。
話が通じないし、時を無駄に生きたせいか話す内容が年季の入ったセクハラ親父だ。「殿下、私が共に生きていきたいのはスタンリーなのです。失礼します」
軽く一礼すると、私は部屋を出た。「スタンリーなんでここに」
部屋を出た先にはスタンリーが立っていた。扉が分厚いから中の会話は聞こえないと信じたい。
もしかしたら、ベッドに彼を置き去りにしてレイフォード王子に会いにきたと誤解されたかもしれない。
「午後から貴族会議があって王宮を訪れたら、君がレイフォード王子と謁見中だと聞いただけだ。顔が真っ青だぞ、ルミエラ⋯⋯何かあったのか?」
「いえ、特に何もないわ。無事にクリフトをアカデミーに送り届けて、レイフォード王子に挨拶に伺っただけよ」
「そうか、では邸宅に戻ろう」
体が浮くような感覚がすると、私はスタンリーにお姫様抱っこされていた。「1人で歩けるわ。それに、邸宅に戻るって貴族会議はどうするの?」
「今にも消えたそうな君を見て、会議なんて出ていられる訳がないだろう」スタンリーの言葉は私の心の奥まで届いた。
私を惑わせようと言葉を紡ぐクリフト、会話が成立しないレイフォード王子。 そして、私は今の状況から逃げ出したい、消えてしまいたいと思っていた。彼の首に思いっきりしがみつく。
「スタンリーは恋した相手が思ったような人ではなく失望した事がある?」 「⋯⋯あるよ」 一瞬、迷って告げて来たのは、今の答えが私に失望した経験があると伝えることと同意だからだ。彼は冷たい人だけれども、私に対してだけは甘い。
失望しても、見捨てずに一緒にいてくれた。 (今の私なら分かる⋯⋯私が手放してはいけないのは彼だ)前世を思い出す前なら、ときめきをくれるレイフォード王子の言葉にのっていた。
でも、辛い時、ダメな時、側にいてくれる人を選ばなければならない事を私は知っている。王宮に到着するなり謁見申請をしたが、名前を告げるなり待機する貴族たちを飛ばしてレイフォード王子は私に会ってくれた。 馬車にいた間に呼吸を整えることには成功した。 深呼吸をし、レイフォード王子の執務室をノックする。 窓際に立っていた、彼が部屋に入ってきた私を見るなり笑顔で迎えてくれた。 窓から差し込む陽の光に照らされたプラチナブロンドの髪が美しい。 「レイフォード王子殿下に、ルミエラ・モリレードがお目にかかります」「ルミエラ、よく来てくれたね」 呼び捨てにしてきたのは、今この部屋に私と彼の2人しかいないからだ。 そして、名前を呼ばれて違和感を感じつつも私の心臓が跳ねたのは彼に恋心を抱いているからだろう。(クリフトの言う通り、私はスタンリーから彼に乗り換えようとしてるの?) 言いようのない罪悪感に襲われる。 話をしてくれたら、きっとクリフトとも分かり合えると思っていた。 でも、その会話自体が私を今混乱させている。 「ルミエラ、顔色が悪いぞ。まあ、座ってくれ」「ありがとうございます」 私はレイフォード王子に促されるがままに、応接室の青いベロアのソファーに座った。 体が沈み込み、このまま横になりたくなる。 クリフトとの少しの会話で私の精神はすり減っていた。「ルミエラ、実はそなたに話があって、こちらから伺おうかと思ったのだ」「お話とは何でしょうか?」「その⋯⋯婚約破棄の話なのだが⋯⋯」「殿下、なぜ、昨日マリソン侯爵邸にいらっしゃったのですか?」 私は咄嗟に殿下の会話を遮っていた。 非常に無礼な行動だとわかっていたが衝動的にしてしまった。(既婚者なのに、自分が求婚されるとでも思ったの?) 「タチアナに言いがかりをつけて婚約破棄する為だ。気が強い女だから、挑発して焚き付ければ乗ってくると思っていた」「殿下⋯⋯まさか、わざとバルコニーで私に口づけをしましたか?」 私の
馬車に乗せられ、家路を急ぐ。「スタンリー、帰ってきてしまって良かったの?」 彼は貴族たちに囲まれていたから、仕事の話になって執務室に何かをとりに来たような気がする。 それなのに会場にも戻らず、勝手に帰ってしまって良かったとは思えない。 スタンリーは私の方を見ようともせず、ずっと真っ暗な窓の外を見ている。「⋯⋯別に、問題はない。ルミエラはまだ帰りたくなかったのか? その⋯⋯体調が悪いと聞いたが⋯⋯」「懐妊の話ね。それは、誤報だから⋯⋯私は、子供は欲しくないの」「君が、そう思うのは当然だ。あのような過ちを犯した俺との子供なんて穢らわしくて欲しくないのだろう⋯⋯」 彼は一体何を言っているのだろう。 3ヶ月以上、仲睦まじく毎晩のように抱き合ってきた。 (穢らわしいなんて思ってる訳ないじゃない、むしろ⋯⋯) 私が子供が欲しくないのは、子供を持つことの大きな責任を知っているからだ。 健太が生まれた時、私は輝かしい未来しか想像していなかった。 結婚して、子供が産まれて、子供が反抗期になったら喧嘩するかもしれないけれど、大人になったら一緒にお酒を飲んだりして、孫が産まれて⋯⋯。 そのような思い描いた将来は、健太が1歳になる前に消滅した。 そして、私は今でも自分が死んだ後、彼が無事に生活しているか考えるだけで気が狂いそうになる。 子を持つ事による発生する責任を私は恐れている。 「私は子供を持つのが怖いだけ⋯⋯スタンリーは関係ないわ」「君はクラフトの事を怖がっていたからな。確かに子供は思うようにはならん。別に逃げて良いのだぞ。君はクリフトの親ではないのだから」 私はスタンリーの言葉に流石に頭がきた。「クリフトは私の子よ! それに、私がスタンリーを好きだから一緒にいたいって分からない? あなたのその目は節穴なの?」「えっ? 君が俺のことが好き?」「そうよ、ムカつくから、絶対言いたくなかったけどね!」 私は振り向いたスタンリーの髪を引
目が覚めて、隣で寝ているスタンリーを見てホッとする。 そして、彼をしっかり見つめてみると、いかに彼が私を見てくれていたのか分かる。 本当に私を好きで結婚を申し込んで来た事も理解できた。 クリフトに殺される運命を回避する為には彼と協力した方が良い。 しかしながら、この世界が小説『アクアマリンの瞳』の中で16歳のクリフトが私たちを惨殺するという話は絶対にできない。 私の頭がおかしくなったと思われるからだ。 ミランダ夫人は自殺する前、異常なまでの被害妄想やおかしな言動が増えていた。 それを目の当たりにしてきたスタンリーは、私がおかしな言動をすれば必ず彼女を思い出すだろう。 (病気扱いされて、避けられるだけね⋯⋯) 彼はとても冷たい人だ。 政略的で愛のない結婚だったとしても、ストレスでおかしくなった妻を救おうともしなかった。 浮気をした上にとんでもない言い訳をしてきた彼は最低だが、そのような彼に歩み寄ろうとしている自分の行動が自分でも理解できない。 期待してはいけないと思いながら、スタンリーなら何とかしてくれるのではと考えてしまう。 私は彼を起こさないようにメイドも呼ばず着替えて部屋を出た。「母上、おはようございます。今日からアカデミーですよね」 部屋の前にいたクリフトに動揺する。(普通に話しかけてきた⋯⋯どういうこと?) 突如、不安が押し寄せてきて今の状況を誰かに相談したくなる。(そうだ、レイフォード王子殿下に相談を⋯⋯)「母上、朝食はまだ食べていませんよね」「ええ、クリフトは?」「僕はもう食べました」「そう、ならば少し早いけれどアカデミーに向かいましょうか」 今、クリフトが何を考えているかを考えるだけで冷や汗が出てくる。 食事なんて到底喉を通りそうもない。 アカデミーでは寮生活になる。 荷物はすでに送ってあるので、身軽に登校できる。 長期休暇まではしばらく会えなくな
モリレード公爵邸に帰るなり、私はスタンリーにお礼を言った。「今日はありがとう。それから、邸宅の管理⋯⋯本当は私の仕事よね。これから学ばせて」 先日、離婚したいと申し出たのに、自分でも何を言っているのか分からない。 ただ、4年間私がいかに何もしなくて、スタンリーがそれを何も咎めずにいた事がむず痒いだけだ。 私は今でも彼の事を浮気をした最低男だと軽蔑している。「君が公爵邸の財産管理をしたいと言ってくれたという事は、離婚する気は無くなったのかな?」「いえ、ただ私は今ここにいるのなら、自分のするべき事をしなければならないと思い直しただけよ」「知ってるよ。君は自分の仕事に懸命な人だから⋯⋯」 私の頭を撫でながら言ってくるスタンリーの言葉は皮肉として発しているものではない。 しかし、4年間するべきことをせず、自分の権利だけを行使してきた私をナイフのように突き刺す言葉だ。「レイフォード王子殿下の事が本当に好きなのだな⋯⋯」「また、何を言っているの? 好きになっても意味のない方だし、ときめいても一瞬。私はあなたの妻なのよ」「そうだな、君は確かに俺の妻だ⋯⋯」 以前レイフォード王子に恋しているかという質問に、イエスと答えた事を後悔した。 スタンリーが明らかに気にしている。 彼は本当によく私を見ている。 私が今まで彼を全く見ていなかった罪悪感をひしひしと感じる程だ。 確かに私はレイフォード王子を見る度にときめいてしまっている。 それを恋と言われればその通りだ。 でも、彼とした恋人のような芝居のせいによるものが大きい。 あのような可笑しな演技をしなければ、持つべきではない感情を抱かずに済んだ。 私は彼を自分と同じように間違った道を1度は歩み、なんとかしようとしている同志だと感じている。 きっと、次に会う時は同志としてクリフトに殺される運命を避ける作戦を知恵をだしあって立てるだろう。 もう、間違っても彼とキスなどしない。
「本日はお招き頂きありがとうございます」 私は自分が場違いな淡いクリーム色のワンピースを着てきた羞恥に震えていた。「あら、モリレード公爵家は意外と質素倹約を重んじるのですね」 タチアナ嬢は攻撃的な目で見つめきた。 気の置けない仲間内の会だから、着飾らないようなフランクな格好で来て欲しいと言った彼女の便りは罠だった。 彼女が私を嫌っていそうな事は分かっていた。 近頃考えることが多すぎて、彼女の悪意に気づけなかった。 でも、それは言い訳だと私自身が気がついている。 ただ与えられた仕事をこなしていれば良いだけのメイドであった時とは違う世界がそこにはあった。 色とりどりの花に囲まれたガーデンテーブルには8人程の令嬢たちが座っている。 きっとタチアナ令嬢の取り巻きたちだろう。 そして彼女たちの名前が誰1人分からないのは私の怠慢だ。 私は公爵夫人になってからの4年間、お茶会の招待に応じた事はなかった。貴族の付き合いとか理解できなかったし、最低限のことをこなしていれば良いと思っていた。 皆、煌びやかなドレスを着込んでいる。しつこいくらいに高価なジュエリーを身につけている事で実家の富を競っているようだ。 彼女たちはジュエリー1つ身につけていない私を、扇子で口元で隠すように意地悪に笑っている。「モリレード公爵家は夫人の散財で実は財政難で苦しんでいるという噂は本当でしょうか? 悩み事があったら、いつでも相談してくださいね。ルミエラ様では解決できない事柄もあるでしょうし⋯⋯」 緑色の髪をした見知らぬ貴族令嬢が、私の事を心から思っているように手を握りしめて訴えてくる。 一撃で私の生まれを非難するような言葉に心臓が止まるような気持ちになった。 どんなに着飾っても私はメイド出身の平民だ。 彼女たちの仲間になれるような日は来ないだろう。 いつも私を引き立てるように努める貴族令嬢たちが周りに存在したのは、全てモリレード公爵家の力だった。 ここはタチアナ嬢の陣地と
バルコニーに出ると、満天の星空が広がっている。 夜風が涼しく肌をくすぐって気持ちが良い。「そなた、僕の唇ばかり見ていたようだが、もしかして繰り返す過去の記憶が残っているのではないか?」 隣で私を覗き込むように見つめて来たレイフォード王子の言葉を一瞬理解できなかった。「あ、あの殿下も、繰り返している時を過ごしているのでしょうか?」「過ごしているよ。クリフトに殺されない未来を求めるように何度も! これはきっと神が僕に与えてくれたチャンスなんだ。やはり、そなたも僕と同じなのだなルミエラ」 美しい彼を前にすると、多くの女の子と同じようにときめいた。 それでも、彼に突然呼び捨てにされると嫌悪感を感じる。 彼がどうしてクリフトの元を訪れていたかは納得がいった。 私が初めに思いついたように、クリフトと仲良くすれば殺されずに済むと考えたのだろう。 最も、そのような浅はかな考えはクリフトには見抜かれている気がする。 「私は貴方様の叔父であるスタンリー・モリレードの妻です。そのように呼び捨てにするのはお止めください」「意外としっかりしてるのだな。確認させてくれ、そなたも何度もクリフトに殺されているのか?」 私は彼の質問に静かに頷いた。 しかしながら、彼と私の回帰している回数は異なるだろう。 私は記憶にある限り2度時を戻った。 たった、2度を何度もとは言わない。 意外としっかりしていると言われてしまったのは、私を歳の離れた男に財産目当てで嫁ぐ軽い女だと思っているからだろう。「やはり、神は僕にこの世界を正しい方向に導くように助けを求めているのだ」 楽しそうに月夜を眺めるレイフォード王子は幼く見えた。 その姿がなんだか可愛く見える。 何度も殺されるような時を過ごしているのに、彼は明るい。 私は2度の殺された記憶があるだけで、クリフトを見るだけで体が震えだす。 彼は小説『アクアマリンの瞳』を読んでなさそうだ。 この世界を繰り返した