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7:首輪

last update Dernière mise à jour: 2026-01-23 21:03:19

 その日の深夜。琴葉の部屋では、ページをめくる乾いた音が響いていた。

 ベッドの上には、色あせたアルバムが何冊も散乱している。

「……いない」

 琴葉は眉間にしわを寄せて、古い写真を指でなぞった。

 幼稚園の運動会、小学校の入学式、夏休みのキャンプ。

 背景に写り込んでいる子供たちまで一人ひとり確認する。だが、あの整いすぎた美貌を持つ少年の姿はどこにもない。

 たとえ成長して面差しが変わっても、面影が残っていれば分かるはずなのに。

(私を「お姉ちゃん」だなんて、子供みたいな呼び方で呼んだ。ずっと会いたかった、なんて言ってたけど)

 だから過去、子供の頃に会ったことがあるのではないかと考えたのだが、伊吹の影は見当たらない。

 琴葉はスマートフォンを手に取って、「世良伊吹」の名前を検索してみた。

 彼の経歴が表示される。

 24歳にして世良グループの常務理事。

 現在のトップ世良宗佑の長男であり、アメリカの有名大学を飛び級で首席卒業した。

 社内闘争を経て次期CEOの座を射止めた人物。

 数々のM&Aを成功させた「若き天才」。

 ネット上の記事は彼を称賛する言葉であふれているが、琴葉との接点を示す記述はゼロだ。

 だいたい、社長令嬢とはいえ町工場の娘にすぎない琴葉と、世界的企業の御曹司では住む世界が違いすぎる。

(私の記憶が飛んでるだけ? それとも彼が嘘をついてる?)

 耳の奥に、あのささやきが張り付いていた。

 ――お姉ちゃん。

 あの呼び方は明らかに、強い親愛と憧れの響きを含んでいた。

 背筋を冷たいものが這い上がる。

 恐怖というよりは、自分の知らないところで人生が勝手に編集されているような、薄気味の悪さだった。

 翌朝。土井精機の工場は静まり返っていた。

 いつもなら稼働音を響かせている機械たちが、今は動きを止めて沈黙している。

 琴葉は事務所の窓から、休憩中の従業員たちの様子を盗み見た。

 古株の職人が、缶コーヒーを片手に相好を崩している。

「うちの孫がよ、大学に受かったんだ。理系に行きたいんだと」

「へえ、そりゃあ金がかかるな」

「おうよ。息子夫婦の稼ぎだけじゃちょいと不安でな。あと4年、じいちゃんが死ぬ気で稼いでやらんとな」

 その言葉が、琴葉の胸に深く突き刺さった。

 彼らの生活が、家族の未来が、この工場の存続にかかっている。

 もしも土井精機が倒産してしまったら?

 社員たちを路頭に迷わせることになる。

 琴葉の不信感やプライドなど、彼らの生活の重さに比べれば紙切れのようなものだ。

 口の中が苦い。琴葉は唇を強く引き結び、踵を返した。

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