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第1023話

Author: 星柚子
それは、愛ではない。

死体の山に薔薇を植え、その花だけは血に染まらないと信じ込むようなものだった。

烈生は奈穂の幼少期の傷を、一つ残らず利用した。

その記憶を正確になぞりながら、「安心」と「優しさ」を少しずつ与え続けた。

警戒心を少しずつ削り取り、行き届いた献身の中で、彼女自身に「自分は救われた」と思い込ませるために。

だが、その実態は違う。

運ばれてくる食事は、一皿残らず実験だった。

彼女の体がどこまで耐えられるのか。

心の防壁がどこで崩れるのか。

そしていつの日か、烈生が用意した檻に、自ら進んで足を踏み入れるようになるのか。

そのすべてを確かめるための実験だった。

君江は車に戻ると、ようやく一本の煙草に火をつけた。

暗闇の中で火種が明滅し、固く噛み締めた顎の輪郭を赤く照らし出す。

彼女は端末を操作し、「衆誠化学工業」の法人登記資料を呼び出した。

法人名は――染谷央介。

だが、君江の知る限り、央介の戸籍は三年前、「死亡」を理由に抹消されている。

――彼は清乃の極秘顧問弁護士。

そして、奈穂が命懸けで追おうとしている男。

ばらばらだった情報が、一瞬で
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    それは、愛ではない。死体の山に薔薇を植え、その花だけは血に染まらないと信じ込むようなものだった。烈生は奈穂の幼少期の傷を、一つ残らず利用した。その記憶を正確になぞりながら、「安心」と「優しさ」を少しずつ与え続けた。警戒心を少しずつ削り取り、行き届いた献身の中で、彼女自身に「自分は救われた」と思い込ませるために。だが、その実態は違う。運ばれてくる食事は、一皿残らず実験だった。彼女の体がどこまで耐えられるのか。心の防壁がどこで崩れるのか。そしていつの日か、烈生が用意した檻に、自ら進んで足を踏み入れるようになるのか。そのすべてを確かめるための実験だった。君江は車に戻ると、ようやく一本の煙草に火をつけた。暗闇の中で火種が明滅し、固く噛み締めた顎の輪郭を赤く照らし出す。彼女は端末を操作し、「衆誠化学工業」の法人登記資料を呼び出した。法人名は――染谷央介。だが、君江の知る限り、央介の戸籍は三年前、「死亡」を理由に抹消されている。――彼は清乃の極秘顧問弁護士。そして、奈穂が命懸けで追おうとしている男。ばらばらだった情報が、一瞬で血に濡れた鎖のようにつながった。烈生は黒幕ではない。表舞台に押し出された、哀れな操り人形にすぎなかった。本当の棋士は闇の奥に潜み、烈生の手を借りて奈穂を実験材料にしていた。極限まで愛されることと、完全に閉じ込められること――その狭間で奈穂を揺さぶり続け、母・清乃と同じように、絶望の果てに自らを壊すのかを観察していたのだ。「……外道が」君江は煙草を揉み消し、勢いよく車のドアを開けた。「この物流センターを封鎖しなさい」雨の中で待機する部下たちに命じる。「防犯カメラのハードディスクは全部回収。橘由香が荷物を受け取った全ルートを、1センチ単位で洗い出して」「須藤さん、ここは私たちの縄張りじゃないんです。強引に動けば向こうを刺激します」「刺激する?」君江は冷たく笑った。「伝えなさい。今夜ここを仕切るのは、この須藤君江よ。邪魔するなら――残りの人生、家族そろって腐った刻みネギ入りの残飯でも食べて暮らせばいい」マセラティが雨の帳に飛び出す。タイヤが黒い水を高々と巻き上げた。……午前四時。私立病院の廊下。君江は、テラスから戻ってきた正修と

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