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第六話

Auteur: 水沼早紀
last update Dernière mise à jour: 2025-07-03 15:00:23

「結構うまそうだな?」

「はい。そうですね」

「よし、冷める前に食べよう、聖良」

「はい」

私たちは向き合って、ルームサービスでの食事を取ることにした。

韓国料理が苦手な私は、棗さんの計らいで日本料理を頼んでくれていたようだった。

何もそこまでしなくてもいいのにって思う反面、気を使ってくれてるのだと知って少し嬉しかった。

「いただきます」

運ばれてきた料理はどれも美味しくて、私の作る料理よりも美味しく感じた。 あまり本当はそんなこと思わない方がいいのだと思うけど……。

「美味しいですね、棗さん」

「そうだな。……でも聖良の作る料理の方が、俺は好きだけど」

「……え?」

どうして棗さんがそんなことを言うのか、分からなかった。 私の料理を美味しいと言ってくれたことは、何度もあるけど……。

まさかそんなことを言ってもらえるなんて……思ってもみなかった。

「聖良の作る料理のほうが、俺は好みだ」

「……そんな。ムリに言わなくてもいいですよ、そんなこと」

「ムリにじゃない。本心だ」

「……え?」

本心? 今そう言われたような気がした。

私の聞き間違い?それとも……。

「俺は本当に、そう思ってる。 もちろん聖良のことも、大事にしたいと思っている」

「棗……さん」

「君は俺に嫌われていると、そう思われるのも仕方ない。 俺たちは恋愛して、結婚した訳じゃないからな。……だけどお前は、俺の妻だ。 妻を大事にしたいと思うのは、当たり前のことだろう?」

「……棗さん」

棗さんのその言葉は、私に重くのしかかった。 そして私の瞳とその鼓動を揺らす。

「聖良。俺はお前を、ずっと大事にしたいと思っている。……厳しくなることもあるかもしれない。それでも俺は、夫としてお前のそばにいたいと思ってる」

「……ありがとうございます」

それがもし棗さんの本心なのなら、とても嬉しい。 だけど……。

どこか複雑だった。そう言われて嬉しいはずなのに。心のどこかがチクリと針が刺さったように痛いのはきっと……。

私たちが偽りの夫婦だからだ。 ちゃんと分かりたいたい、そう思うこともあるけど……。

結局私たちは、愛のない偽りの結婚をした偽物の夫婦だってことだ。……その事実は、どこからどう見ても変えられない。

バカだなと思うけど、どうやってもその気持ちは消せない。 ううん、消すことができな
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