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仮面をかぶった問診

Author: 中岡 始
last update Last Updated: 2025-08-02 07:33:15

診察室の空気は、外の湿気と違い、どこか乾いた静けさに包まれていた。陽真が腰を下ろしてから、すでに五分以上が経っていた。澪はデスクの前に座り、彼の向かいでカルテを片づける手を止め、薄い観察者の視線を送る。陽真はそんな澪の視線に、まるで照れたように笑みを浮かべた。

「先生、少しだけお時間いいですか。脚本、今日持ってきたんです」

そう言って、陽真は鞄から二つ折りにした台本を丁寧に取り出した。表紙には仮題が印刷されている。手に持ったまま、彼はまるで宝物でも扱うようにそれを撫で、ページを開いた。

「このシーンなんですが…初めての患者と向き合う精神科医が、相手の沈黙をどう受け止めるのか。台詞に書かれていることよりも、その場にどう在るかが重要だと思って」

澪は黙って彼の言葉を聞いていた。陽真の声は相変わらず静かで、よく通る。俳優としての意識が研ぎ澄まされた声音は、落ち着いていて、それでいてどこか誘い込むような柔らかさがある。

「診察室って、他の空間と違って、時間の流れが独特ですよね。沈黙も、表情も、音のないやりとりのひとつになるというか」

「沈黙は情報です。患者が言葉にしないものにこそ、焦点を置く必要がある。目線、手の動き、呼吸の変化。それらをどう読み取るかが、診る側の役目です」

澪の声は低く、緩やかで、まるで無風の湖面に言葉を置いていくようだった。陽真は台本を閉じ、両手で挟むようにして膝の上に置いた。顔を上げたその目に、澪はわずかな変化を感じた。

「患者の話す内容よりも、話さない沈黙の方が重要…ということですね」

「そうです。言葉はしばしば、自己防衛のために選ばれる。むしろ、話していないときの状態の方が、本音に近いこともあります」

「なるほど…」

陽真は椅子の背に軽く寄りかかり、天井を見上げるようにして呼吸を吐いた。その姿勢は無防備なようで、どこか演出されたもののようにも見える。彼は、自分の動きひとつが“他者にどう映るか”を常に意識している。そんな印象を澪は受けていた。

「先生は、そういう相手と日常的に向き合っている。だから、自然と感情を抑える癖がつくものなんでしょうか」

その問いは、台詞をなぞるような言い回しではなかった。どこか、舞台を降りたような声で投げかけられた言葉だった。

澪は目線をわずかに外し、指先でペンを転がす。心の中に、予期していなかった波が立った。すぐに言葉が出てこない。わずかに呼吸が遅れ、まばたきが一拍遅れて落ちる。

「感情を抑えているわけではありません。必要な感情だけを選んでいるだけです」

そう返した澪の声は、いつもよりも少しだけ低かった。内心で、わずかなノイズが走ったことを自覚している。それを隠すようにして、机の上の資料に手を伸ばす。

「診る側の立場では、自己の感情は役に立たないことも多い。むしろ邪魔になる。患者の情動に引きずられれば、診断は曖昧になります」

「それは…演じる側にも通じるものがありますね」

陽真が静かに言った。彼の声には、芝居で培われた精緻さではなく、素の感触が混じっていた。何かを掘り起こすような、探るような視線で澪を見ていた。

「でも先生。時々は、感情を抑えきれないとき、ありませんか。誰かの言葉や目線が、自分の奥に触れてしまったとき…そういう瞬間、ありませんか」

澪は、答えをすぐには返さなかった。眼差しの焦点がずれ、壁の時計にかすかに目が向いた。だが、すぐに視線を戻し、何もなかったように告げた。

「その場合は、診察を中断します」

「きっぱりしていますね」

陽真は微笑んだが、その笑みに感情はなかった。形だけの、整いすぎた線を描いた口元。その奥に、なにかが渦巻いているような気がした。

澪は陽真の目を見た。光の加減で、ほんの少しだけその瞳に色が濃く見えた。まっすぐで、揺れているようには見えないのに、どこか確信めいたものが潜んでいた。

「演技と現実の境目が曖昧になることがあると言っていましたね。あなた自身も、感情と距離を取っているように見えます」

「かもしれません。僕も、必要な感情だけを選んで生きているのかもしれない。じゃないと、長くこの仕事は続けられません」

それは演者としての矜持であると同時に、何かから身を守るための鎧にも聞こえた。澪は言葉を継がず、静かに頷いた。

沈黙が、診察室に降りた。時計の針の音だけが、かすかに耳に残る。陽真は再び台本に目を落とし、それを丁寧に鞄に戻した。

「今日の話、参考になりました。ありがとうございました。先生の言葉、すごく重かったです」

「それはよかったです。お役に立てれば」

澪が返したその言葉には、いつものように抑揚はなかった。だが、内心のどこかで、陽真の問いにほんのわずかに動揺していた自分を否定できずにいた。

陽真が立ち上がり、椅子を静かに戻す。スーツの襟を整えながら、一瞬だけ振り返った。

「先生もまた、観察される側になるときが来るかもしれませんね」

そう言って、彼は微笑んだ。その笑みの輪郭が診察室の白い光に溶けていくのを、澪はただ見つめていた。何かを掴みかけたような気配だけが、部屋に残されたまま、扉は静かに閉じられた。

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