LOGIN佐倉さんに連れていかれ、俺が辿り着いたのは新宿にある行政機関であり、観光もできる東京のシンボルの都庁と呼ばれるところだった。
周りにはコクーンタワーと呼ばれる蛹のような形と、網目の壁が美しい建築がいくつもそびえ立っていたが都庁も周りの並木道と、円形の講堂があり自分にとっては圧巻だった。
「へぇ〜ここが都庁なんだ、始めてきたよ。」
でも都庁に来て何をするんだろうか?
確定申告の時期はとうに過ぎてるし、まだ目的が見えない。
すると、彼女は展望行きのエレベーターに進んでいくと、展望エリアにあたる45階に上がって行った。
どうやら今は夕方で閑散としているが無料で案内をしているようでこれも東京のピーアールの一環だと感じた。
階数が上がるにつれ、耳の鼓膜が膨張するのを感じる…とても気持ち悪い。
小さな欠伸をして耳に詰まったような感触を解すと…45階に着いていた。
すると、そこには絶景の景色が並んでいた。
東京スカイツリーや東京タワーなどの有名な建物が一発でわかるようになっている。
なによりこの夕焼けが映えた景色が都会の町をオレンジ色に染めていた。
こうして見ると、自分ってちっぽけな存在なんだなと改めて思い知らされるのを実感する。
「…すげぇな、俺感動したよ。」
俺は佐倉の方をみていると、佐倉は…泣いていた。
静かに耐えるのだけれど、限界を迎えたような涙であった。
「私…もう何が何だか分からなくなったんだ。」
俺が相槌をするまでもなく、佐倉はつづける。
「私さ…向こうでも一人ぼっちなんだ。
ご主人様は私の事を好きって言ってるけど…他の女の子とセットで好きだって事だし、メイドさんも表面上は明るく接するけど、私のモノを壊したりとか盗んだりするの。家族も明るい私を好きなんだけど、本当の私を受け入れてくれる人がいないなって…、学校でも家でもバイトでも一人ぼっち、私なんのために生きてるか分からないの。」
周りは外国人と観光客だらけで佐倉の涙は周りには関心を引くことはなかった。
佐倉は少し恥ずかしそうに…でも今ここで伝えないと自分がダメになると思いながら続けた。
「佐倉、君は俺に似てるなやっぱり。」
「似てるの?」
「ああ、俺さ…ちょっとした発達障害もっててさ、昔からなんというか腫れ物のような目で見られることが多かったんだ。」
「ああ、ちょっと分かるかも。」
「俺はそれで世の中から距離を置くことにした、逃げたんだよ。それでも佐倉は前を向いて進んでる。今の苦しさも…いわゆる心の成長痛ってやつなんじゃねえの?」
佐倉はハッとしていた。
まるで思いもよらなかった事を初めて知ったように…。
今日この景色をみて、知らない視点を知った俺のように。
「好きな言葉があるんだよ、オリエンタルラジオって芸人知ってる?」
「あれだよね、武勇伝武勇伝!って人だっけ!」
「そう、それのあっちゃんの方なんだけどさ…その人が「優れるな、異なれ!」って言ってたの思い出したんだ。」
「なにそれ、でも私その言葉好きかも。」
「だろ?佐倉は誰にも負けない個性があるんだよ。いつかきっとそれは財産になるはずだよ。俺もそう、まだ何もアイデンティティなんて掴んでないけど、自分だけの人生を輝かせることができるんじゃないかなと思うんだよ。」
佐倉はえへへと笑った。
きっと、彼女は承認して欲しかったのだ。
いわゆる承認欲求に値するのだが周りの理解がそれに追いついてなかった…それだけの話なのだ。
「飯田くんがあなたとつるむ気持ちもわかったかもしれないわ。あなたも十分素敵よ、天野くん。」
そんなのは知っている。
俺は俺自身が1番好きなのだ。俺のシャンパンのビンはナルシストという文字で満たされている。
だからこそ、空いたグラスの彼女らを承認することが出来る。
まあ、酒なんて飲んだことないから20になったらいい酒を飲んでみよう。
「天野くんも悩んだら…私にも気軽に話してね。
天野くんは天野くんなりに悩みありそうだし。」
「そうかな?まあいいや、そろそろこの景色も飽きたし下に行こうぜ。」
「え、もう?早くない?」
「いい景色は、たまに行くから素敵なんだよ。また2人で行こう。」
すると、佐倉さんはうわははと笑い俺たちは下りのエレベーターを目指した。
そして、新宿駅まで地下の街をあるいて他愛もない話をした。
なんの話しをしていたかは覚えていないけど、確か猫の話だかその辺だったと思う。
佐倉さんは本当に話が好きなんだと実感をする。
話が聞き手の俺にとってはこれ以上やりやすい相手はいないのだと強く感じた。
「今日はありがとう!また遊ぼ!」
彼女は勢いよく手を振っていた。
あんなに派手な見た目をしてるけど、佐倉さんはとても良い子だと感じた。
俺も少しため息をついてから伸びをして、帰り道を行くことにした。
☆☆
「ただいまぁー。」
「おかえりなさい!今日は思ったより長かったのね!」
家に帰ると母親がで迎えてくれた。
母親は家事で疲れたのかかなりの薄着になっていた。
左手には料理を作るための菜箸をもっている。
母親が左利きなのでその光景も特に違和感がなかった。
体のボディラインも見えるので、普通の異性なら喜ぶのだが…親子関係にある以上は興味を特に引くこともなかった。
しかし、胸の上にあるほくろと、耳のほくろをみてふと…母親とおなじ遥香というAV女優を思い出していた。偶然にも…かの女優とホクロの位置が同じなのでそんな偶然もあるのだとしかこの時は感じてはいなかった。
「どうしたの?まじまじ見て…なんかついてる?」
「んーん、気のせいだよ。」
俺は階段を登り、プレイステーションのある自室を目指す。特に顔は合わせることは無かった。
「晩御飯もう少しで出来るからねー!」
「へーい。」
俺は自室に戻り、パソコンを開く。
ゲームとは言ったがまずはXと作業用BGMを流すのも俺のルーティンだった。
なんとなく惰性でGoogleを開くと、無数のサジェストが流れてくる。
そのサジェストを何となく見てると、またあのAV女優が映っていた。
そっか、スマホもGoogleアカウント着いてるからパソコンでも学習されたあとのサジェストが出るもんだよね。
だが、少し気になっていたので俺はそのサジェストを開いていた。
なになに…18歳からデビューし…1800作品も登場した企画女優の女王だって?
ほぼ同い年の子なのに体力がすごいのだ。
俺が見たのは18歳位の時のやつだったんだろう。
しかし、そこまで性欲もわかなかったので俺はプロフィールなどしか見なかった。
しかし、ひとつの違和感を俺は気づくことになった。
その女優、歳を重ねる程に顔が美人になっていく、それどころか体型も見る度にグラマラスになっていくのだ。
そして、彼女が引退する26歳のサムネイルが見た時に俺はゾッとした。
そう、その最後の引退近くの写真に映っていた女優は…今の俺の母親と瓜二つ…いや同一人物に見えなくもなかった。
「いやいや、ないない。絶対ないよな。」
ちょっと嫌な気配がしたので俺は1つのインタビューがあるものを流すことにした。
女性は、大学生の設定だった。
そして勉強をする一面には、左手でノートを綴る姿がある。
俺の母親も左利きである。
確か左利きというのは1割くらいの割合だから偶然にしてはできすぎている。
「休みの日は何してるのー?」
「休みの日はサーターアンダギー食べてます。」
母親は沖縄出身でサーターアンダギーをよく作っては食べていた。
「スポーツはするの?」
「はい!水泳が好きですよ!」
母親は、昔は水泳の選手コースだった。
とても早いということでジュニアオリンピックに出るほどだったとも言う。
「それじゃあ、本番はいるよ。」
「はーい!」
そして、このあとは性行為をするであろう時に声が聞こえてきた。
「直輝ー?入るよー!」
ガチャン、と母親が入ってきた。
………。
「胸おっきいねぇ〜、触られるの好き?」
「うん!好きですよ〜。」
やばい、スピーカーで聞いてた。
母と息子の間で沈黙が流れていた。
「な、直輝も年頃だもんね?いいのよ?見ててもなんとも言わないから。」
「ちょ、待って母さん!誤解、誤解だからー!」
すると、母親はうわははと笑いあげる。
「ジョーダン!まあ、程々にね〜。晩御飯できたから、お手隙のタイミングで降りてきなね!」
「お手隙いうなって!すぐ行くよ!」
間一髪…俺が母親を詮索するというとこまではバレることは無かった。
しかし、俺はそこまで好きでもないAVを見るようになったと母親にいらない誤解を産んでしまったのが損失であろう。
なんか、疲れたと思って俺は一息ついてから階段を下りることにした。
時刻は既に20時を超えていて、夜が更ける。蝉だけじゃなくて、鈴虫のような虫の声が聞こえてきて、ほんのりと涼しい夜風が仕事で温まった私たちの体をゆっくりと冷ましていった。まるで、少しづつ夏の終わりを示唆するかのように。「いや〜本当に楽しかったですね!」「そうね、最高の日だった。」正直、挑戦するのは怖かったし、朝なんかは眠気が強すぎて最高のスタートダッシュを切れたかと言うと嘘になる。それなのに、頑張って自分がやると決めたことを小さくやり切ったことに対する満足感は他のものに変え難い喜びがあった。まるで他の人に従うのではなく、自分で歩んだ先に道ができたかのように。「ことねさんの夢が少しずつ叶って良かったです!これからも沢山頼ってくださいね!」その言葉に少し固まってしまう。私は、与えられてばかりである。相談に乗って貰ったり、ご飯誘ってくれたり、サウナに一緒に行ったり、お店の計画を立ててくれたりと、事実を並べるだけでも沢山のことをしてくれた。彼女と接し始めたのは夏のはじまりだった。そんな夏も、もう少しで終わろうとしている。それなのに、私は彼女に与えられたものがあったのかと自問自答するが、何も思い浮かばない。「ねえ、舞衣ちゃんは……夢はあるの?」ふと、そう聞いてしまった。彼女はまだ17歳、これからたくさんのものに触れてくるかけがえのない大切な年頃とである。もし、夢があるのならこちらも助けてあげたい。舞衣ちゃんは少し考えると楽しそうに夢を語ってくれた。「私の夢は、辛い人を支えて行けるような看護師になる事です!」「看護師!想定外だったからびっくりしたわ。でもどうして?」「私が、沢山の嫌なことに打ちのめされてる時にある看護師さんに支えられてくれたんです。死にたくなっても背中を押してくれて、だからこそ私も看護師になってそんな人になりたいなって思ったんです!」……なんたる与える精神。まるで患者を愛するナイチンゲールが現世にいるようだった。彼女は生まれとってのGiver、人に尽くすことに喜びを感じる子だったのだ。全く、歳下とは思えないほどの成熟した精神に脱帽せざるを得なかった。「私に負けない、最高の夢ね。」「はい!あ、でもことねさんも私にたくさんのものをくれましたよ。」その言葉に私は混乱してしまう。そんなこと、ひとつも無いとおもっ
……オープンまであと5分を切っていた。私は舞衣ちゃんに背中を押され、緊張よりも絶対成功させたいという気持ちが強くなってきた。大丈夫、きっと上手くいく。上手くいかなくても、私は1歩を踏んだんだ。それだけでも100点、お客さんが来たら200点、喜んで貰えたら300点だ。そのスタンスにしよう。3....2.....1....。ピピッ!私の不定期のお店はスタートをした。店の前には誰もいない。「……お客さんいないわね。」「仕方ないですよ!告知も以前に比べたら少ないですし。」「そうね、始まったばかりだもの。気長に行きましょう。」「はい!」世の中は広告料というものに多大なお金をかけている。それをするだけでお客さんに知ってもらえるかが大きく左右されてしまう。あの大きなメイド喫茶も莫大な広告でお客さんを回収し、リピーターを作っていった。私の力の小ささを思い知るのだが、まあ予測の範囲だった。「ひとまず、掃除からはじめま______」「すみません!2人……行けますか?」突然、男性の声が聞こえた。「あ……。」振り向くと、小説家の笛吹さやかと同居人の高校生……飯田蓮くんが店の前に立っていた。「蓮くん!久しぶりじゃない!どうしたの?」「昨日、舞衣からお店スタートするからってきいて来ちゃいましたよ!」とても嬉しい。最初の客が知り合いというのもどこか温かみを感じる。「じゃあ、案内するわね。」「ええ!」「酒~!とりあえずウォッカとウイスキーを持ってこーい!」「笛吹さんはちょ~っと黙っててください!!」チリリン。「ご主人様の……ご帰宅です!」「おかえりなさいませ!ご主人様!」そう……この感覚だ。ここ数日失われてた感覚が蘇り、私に勇気と気力を与えてくれている。「蓮くん。今日は来てくれてありがとうね。これ……メニューよ。」「え、なんか……メイド喫茶なのに料理が本格的にパスタとかピザもあって……クオリティ高いっすね!?」「ワインなんかもある!トスカーナ?ってやつの白ワイン欲しい!」結局、私たちのメニューもあるのだけれど尾崎さんが店のメニューも使っていいと言ってくれたのだ。「じゃあ……オムライスとボンゴレ・ビアンコ、ピザはクアトロフォルマッジあたりでお願いします。」「あと、白ワインも!」「承知しました!お作りしますのでお待ちく
私がメイドをやめて2週間が経ちそうだった。今日は、レンタルキッチンを使って私のお店が出されることになる。私は、メイド喫茶としてメニューをある程度簡易的なまでにオペレーション化した。SNSも「神宮寺ことね」というアカウントを作り、オープンを告知まではした。フォロワーは徐々に伸びて、3日で100人になったが……やはり広告としては弱いものになって言った。そんな準備が弱い中、当日を迎えることになった。朝、夏の暑さがこの時間だけ引いていて、小鳥のさえずりとともに程よい涼しさを感じる。ピンポーン……インターホンが鳴り響いた。誰が鳴らしたかは事前にわかっていた。「ことねさーん!おはようございます!」「(ガチャ)……おはよう。」私はうねる様な低い声で挨拶をする。「こ……ことねさん……!?体調不良ですか?」「なんか……ずっとドキドキしてて……寝れなかった。」「いや、遠足前の小学生ですか。」そうか、これがその楽しみという概念なのか。親に虐待され続けたから希望を抱くって概念がなかったので楽しみによる緊張も初めての経験だった。「でも……やる気は……ある……。」「説得力無いですよ~!ほら、顔洗ってください!」わたしは身体の気だるさを振り絞り、水シャワーを浴びて全身に気合を入れる。以前、舞衣ちゃんと水風呂に入ってからは実は習慣化していたりした。20分後に本来の私に戻る。メイクも準備してある、見慣れた「メイド人間」の私だった。「ごめん、かなり待たせたわ」「大丈夫です!調子も戻ってきたみたいですし……今日は頑張りましょ!」私たちは都内の某キッチンを借りることになったので、身支度を済ませてその場所へ向かうことにした。☆☆夏の炎天下がピークを迎える前に電車に揺られながら私たちはそのキッチンにたどり着くことになった。厨房とバーカウンターがある、綺麗なお店だった。「ここ……?」「はい!どうやら……今日は定休日みたいで定期的にこうやってレンタルサービスやってるみたいですよ。」「面白いわね、農業の二毛作みたいだわ。米が育たない冬に麦を植える感じ……。」「あはは!ことねさん……相変わらず面白いこと言いますね!」そんな雑談をしていると、一人白衣の男が中からでてきた。「こんにちは……予約していた佐倉さん?」「は、はい!佐倉です!」「オーナー
私がメイドを辞めるまでは、そう長く感じることはなかった。辞めるまでの記憶はほとんどない、とにかく忙しかったことだけが体が覚えてくれた。嬉しいこともあった。有給を取って会いに来てくれた人もいた。だけど——それでも、私はその場所を終わらせた。わたしは、結局のところ愛されていた。そんな……夢のような日々が終わった、終わらせてしまった。チュンチュン……朝は、不思議と小鳥のさえずりと朝日の陽光が目に入りパッと目を覚ましてしまう。今の私は……何者でもない人間だ。フォロワー1万人の人気メイド、ことねはものの数週間でこんなに人生が変わってしまうのかと驚いてしまう。まるで、さっきまでディズニーランドで夢のような体験をしてきたのに、数分歩くと見慣れた都会の喧騒に戻る絶望感に近いものを感じる。ちなみに私はメイド喫茶を辞めたあとは酷く体調を崩した。きっと、身体のエネルギーが行先を見失ったのと……大丈夫に見えて無理をしていたのかもしれない。クーラーなんて大層なものは無いので扇風機で誤魔化すのだが……どうにも苦しい。わたしはスマホを見る気力さえも失われていた。舞衣ちゃん、そしてさやかからはLINEの通知は来ているのだが、2日以上返していない。それだけ、私の心は疲弊して誰にも頼れないと言う状況になっていた。このまま誰にも気づかれず、消えていくんだろうか。すると、ピンポーンというインターホンの音が聞こえた。わたしはここ数日で気がついた。働いてる間はセールスとかの勧誘が家に来ていたことに。ちょっと出るのが怖くさえ感じる。わたしは、恐る恐る耳を立てた。「ことねさーん!舞衣です!」どうやら、違ったみたいだ。メイド喫茶のメイドで今でも連絡をとったり会ったりするのは舞衣ちゃんだけだった。「……こんにちは。」「ちょ!?ことねさん!まだパジャマじゃないですか!それに……顔色悪い?」「メイド喫茶を辞めてから、体調が優れないの。」「無理してたのかもしれないですね。スーパーで何か買ってきますよ。」「あ……あの……!」「はい?」「タバコ……セブンスター。」「それは未成年なので無理です。風邪薬買ってきますね!」体調悪いせいでタバコを買う元気はなかったのだが、頼る人がいると吸いたくなるもの。そして、体調を崩した私は未成年にタバコの購入をお願いしようとして
ある日のメイド喫茶の一日。私はお遊戯会(ダンス発表)が私中心に流れた。何度うたった曲、何百回踊ったか分からないダンス。完全に体の中の一部として動き出していて、無意識にテーブルを確認する。ことねのイメージカラーは、落ち着きのあるブルー。私のファンは私が踊る時に必ず青いペンライトを持っていく。この時は、ここにいる全員が青を掲げていた。踊りに激しさが増し、血脈が更に強さを増す。フィニッシュの時に、私を中心にポーズが象られ歓喜の声が響き渡った。「ことねちゃーん!君だけが推しだー!」「お前が1番!お前が1番!」ああ……こうして見ると私の普段の頑張りは無駄では無いと安堵してしまう。しかし、私には大切な発表がもうひとつあった。「みんなー!今日はお遊戯会に参加してくれてありがとうー!」すると、ぱちぱちと拍手が拡がる。今日も私は完璧だった。完璧にメイド喫茶のメイドを演じていた。私は……言わねばならない。ポーカーフェイスの中に大きく心臓が握られるような感覚があり、胃酸が逆流しそうだった。「突然ですが、大切なお知らせがあります。」ザワザワ……私は、盛り上がりがすごいのでちゃんと通るように少し無言になる……周りの焦燥から傾聴に変わるタイミングがある。1...2...3...4...5...ここだ!すこし、ざわつきが収まるタイミングで声を振り絞った。「私、メイド長ことねは……今月いっぱいで、メイドを卒業します!!」「「「えええええええーーーーー!?」」」辺りが驚愕の一色だった。さっきまで私のダンスに喜んでいた人達が絶望に近い表情だった。「なんでだよーーー!」「やめないでー!!ことねー!」私の辞めるのをショックで騒ぐ人、ポカンとする人、恐らくXを打ってる人がいる。私は、本当は辞めるべきではないのかもしれない。ここは本当に居心地がいい。しかし、その居心地に依存して私は変わるのを怠っていた。決断とは、決めるのも大事だけど断るという気持ちも大事だ。「10年……お勤めさせて頂きました。このような場に来てくれるご主人様、お嬢様が大好きでした。可愛い料理も好きだったし、何よりこの空間がすきでした。私の力だけではありません、皆さんが居たからこその結果です。」まだ、その発言の時もざわつきがある。一度、スピーチを止める。こういった発
チリリーン!「ご主人様のおかえりです!」「「お帰りなさいませ!ご主人様!」」今日もたくさんのご主人様(お客様)が来店される。精一杯の仕事をしよう。そして、ご主人様たちに喜んでもらおう。そんな、わたしの「メイド人間」としての一日が始まる。既に長蛇の列が並んでいた。「ことねさん!今日もお願いします!」「舞衣ちゃん、今日も期待してるわよ。頑張って。」仕事中は友人の私たちも上司と部下だ。会話は驚くほどドライになる。しかし、それもまた仕事に集中していることを指していて心地が良かった。とにかく、毎日小さく努力してみよう。それだけだった。そんな時、私はある声に耳を傾けてしまった。「ええー!ゆきちゃん、埼玉の子なんだ!」「そーなんですー!」「え、今度飲みとかどう?俺奢るよー。てか、その後カラオケでも行こーぜ!」「えー、最高!」「じゃあ、これLINEのIDね!」「ありがとうございます!今度の水曜とか空いてるんでぜひ。」……明らかにメイド喫茶というより、合コンのような会話である。そして、ホスト風の客からメモを貰った新人メイドのゆきちゃんはポケットに差し込んでいた。これは、明らかな規則違反である。そこそこ名前のあるメイド喫茶なのでイメージダウンにも繋がる行為だ。そういった指導は……ウケているのだろうか?「ゆきちゃん、ちょっといい?」「はい?」私は人目のつかない所で静かに指導をする様にしている。それは、基本的に仕事スタイルには寛容だが、メイドさんのプライドを傷つけないなどの工夫があった。「あの…さっきの会話を聞いてしまったんだけど、お客さんと個人的に会ってたりしてないよね?他のお客さんも少しひいてたわ。」「えー、ダメなんですか?カッコよかったじゃないですか。」「ダメよ、規則でも決まってる。最初のオリエンテーションで話す内容だったんだけど…分かりずらかったかな?」時折、理解が浅い子がいたりする。きっと指導不足なのだから我々の責任だ、分かっていないのなら教えるべきなのかもしれない。「あ、ダルいです。聞いてたけど半分寝てました。」「え?」「てか、ゆきさん今日は全然チェキ(写真撮影オプション)獲得できてないですよね。もしかして、若くてあなたより人気のある私に嫉妬してるんですか?」「いえ、そういうことじゃないの。そういう







