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多分トモダチ、と多分恋バナ《2》

Auteur: 砂原雑音
last update Dernière mise à jour: 2025-07-15 11:00:20

ひゅる、と冷たい風が吹いて寄り添うように身体の距離も近くなる。

二人同時に近づいて目が合うとほわっと温かくなるような笑顔が浮かんだ。

「すみません、夕方の新幹線だなんて嘘ついて」

「大丈夫っすよ、きっと元旦の夜なんて空いてますって」

そうしてまた、僕の手を引いて歩きはじめる。

手を繋ぐことには、いつのまにかすっかり慣れた。

キスにも慣れた。

それ以上のことも、ようはきっと、『慣れ』なんだろう。

大丈夫、ちゃんとわかってる。

今触れているこの手は陽介さんのもので、彼は僕に乱暴なことはしないとちゃんとわかってる。

だから、きっと大丈夫だ。

「……神戸観光でも、しますか?」

「え、今からですか? したいけど、新幹線の最終って何時でしたっけ」

「遅くなっても、どこか……泊まれる、とこ、とか」

しどろもどろにそう言うと、「え」と戸惑った小さな声が聞こえた。

「……新神戸の駅、とか。泊まれるとこ、あったと、思って」

無駄に静かな通りが、憎らしかった。

心臓の音まで、聞こえてしまいそう。

彼が、こくんと、喉を鳴らした音まで、聞こえてしまった。

しかし、そこから余りにも反応がないものだから、もしかして意味が通じてないのかもと不安になってくる。

だ、だとしたら恥ずかしいことこの上ない。

いや、意味が通じてないのならさっきの発言に深い意味などなかったことにしてしまおう。

かああ、と頭に血が上った状態で、冷や汗が滲み出てもう限界だと思ったとき。

「そんなこと、言われると。俺、めっちゃ調子に乗ってしまいそうですけど……」

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